洒落とんしゃあ
「紅茶とチョコレート菓子だ」
「フルコースラストのデザートたちですね」
不思議なもんだよな。
あれだけ満腹で満足してたのに、目の前に紅茶とチョコレートを出されたら自然と手が伸びるんだもの。
異世界紅茶、久しぶりに飲むな。
「あ、美味しい」
「慣れ親しんだ味ですわね」
「ちょっと香りが違う?」
「シトラスみたいな香りがありますね」
で、そのお味なんだけど……。
シトラスというか、そっち系の爽やかな香りが鼻に抜ける。
紅茶の滋味はしっかりあるものの繊細で、シトラスチックな香りと一緒にフワッと香ったかと思えばどこかに消えてしまう。
儚げな味わいになっておられます。
「チョコレート菓子もラベンドラさんが作ったんです?」
「当然だろう?」
と言って胸を張るラベンドラさん。
そのチョコレート菓子とは、黒、茶、白。三色のチョコレートが帯状になって編まれており。
その中に、色とりどりの果物たちが角切りで詰められている。
……しかも全部一口サイズ。
よくもまぁこんな物を作ったな、というのが正直な感想である。
「ん~おいし」
「パリパリとしたチョコの食感とほろ苦さが果物たちとしっかりマッチしてますわ!」
「ラベンドラ! これ毎日作ってくれ!」
「あ、私も食べる! 作って! 毎日!」
「今までのどの料理よりも時間がかかっているのだが?」
チョコ籠果物詰めを食べた異世界人の反応がこちらになります。
というか、やっぱり手間はかかっているんだな。
魔法が使えるとはいえ、同じ時間が流れているならそりゃあ手間にもなるか。
ましてや現代みたいに機械化されてるわけでもなく、文字通りの手作業だろうし。
……どうやってチョコレートを帯状にして編んだんだろう? そこは魔法か?
「通常チョコと果物の組み合わせもいいけど、ビターと合わせた時の苦み、酸味、甘みの三位一体感が好きかな、私は」
「ホワイトチョコのミルキーさと果物のフレッシュな瑞々しさのコンビも美味いよ?」
ちなみに異世界人だけじゃなく、現代日本人にも好評なデザートです、はい。
俺は普通のチョコか、ホワイトチョコの籠が好きだね。
紅茶とも合うし。
「ふぅ……大満足」
「うむ。何も言う事無いわい」
「月一でいいから私たちの国に料理を提供しに来てほしい」
「提供っつーか、料理教室でも開いてくれねぇか? お前が講師になるなら、枠も一瞬で埋まるだろうし」
「生憎と弟子を取るつもりは無い」
「そもそも私達『夢幻泡影』の一員ですわよ? 許しませんわ」
「ダメ元だったしすんなり諦める」
「アメノサさんの聞き分けがいい……だと!?」
「いい子だからなでなでモフモフしちゃう!」
食後、デザートも食べ終えての団らんタイム。
ちなみにチョコレート籠の中に入ってた果物たちは、ビター籠にグレープフルーツ系の果実。
ミルク籠にぶどう系、ホワイトチョコ籠にイチゴ系の果実が入ってました。
……見た目は緑だったり茶色だったり、俺が知ってる果物の色ではなかったんだけども。
結局美味しかったのだから問題なし。
「滅茶苦茶美味しかったです、ラベンドラさん」
「そういって貰えると嬉しい限りだ」
「ワインにも無茶苦茶合ってたもんね」
「それ。ワインとのペアリングが終始完璧だった」
「こちらのワインのポテンシャルが余すことなく発揮されていましたわね」
なんて会話をしていたら紅茶も飲み終わり。
それでも満腹と満足感からしばらく一歩も動きたくないモードに突入。
それは異世界組も同じだったようで……。
「紅茶のお代わりを頂けます?」
「私も」
「俺も」
と、紅茶のお代わりをラベンドラさんに注文しているのだった。
*
「何ともまぁ珍しい報告な事で」
「またそんな呑気に返事をする……」
グリスト領、ギルドマスター室。
そこで書類仕事をしていたダイアンは、突如として舞い込んだ報告に興味を示し、眉を動かすも。
またすぐ手元の資料へと視線を移し、報告してきた職員を放置。
「どうします? ただでさえ『リボーンフィンチ』と戦える冒険者たちは限られていますよ? ましてや残機一桁疑惑の個体など……」
翔が現代でほぼ毎日使っては、合体を許していないリボーンフィンチの卵。
自然に分裂し、そして合体することで、卵の内に残機を増やすというその不気味とも言える生態系は、実はマザー卵というか、ベースとなる卵の殻を割るまで続くものであり。
本来であれば、外敵や自然現象など、理由は何であれそれなりの残機を蓄えた状態で卵が割れ、孵化をする。
そうして、蓄えた残機を数の暴力に、あらゆる魔物たちの血を吸い強くなっていくリボーンフィンチは。
残機が少なくなればなるほど狂暴性が増すという研究結果がある。
特に、残機が一桁まで減った個体の獰猛さは凄まじく、過去には国の軍隊が討伐隊を結成し、ほぼほぼ壊滅させられながらも討伐したという記録がある程。
そんな個体が確認されたという報告をした職員は、ダイアンからの指示を待つが……。
「よい。わしが引き受けた」
「……マスター自らが、ですか?」
なんと、ギルドマスター本人が直接出向くという。
正直な話、とてもそんなに強そうには思えない、年老いた魔法使いが敵う相手には思えないが……。
「戻って来なんだら、次のギルドマスターはくじ引きで決めるとよい」
「またそんな事言って……」
この職員は知っている。
こうしておどけてみせた時には、確実に任務を達成するという事を。
「では、任せましたよ?」
「んむ」
そう言って職員が部屋を後にして……。
「さてさて、師匠はこの話に飛びつくじゃろう。となれば、リボーンフィンチを口に出来るまたとない機会」
ダイアンは、早速師匠こと、リリウムへと連絡を行う。
ちなみにリボーンフィンチは、その残機制という性質上、討伐されたという報告がほとんどなく。
過去の、部隊壊滅と引き換えに討伐した個体を食べたという記録以外に、味に関する記録は残っていない。
曰く、『死者すら目覚めさせるのではないか? と疑うほど美味』であるとか。




