許されざるよ?
「昨日のアイスに混ぜたやつだ」
「ああ、ひじき……」
速報。マリモはひじきだった。
いや冗談だけども。
でもお出しされたマリモはどうやって食べればよいのだろう?
「これはどうやって食べるんです?」
「まず殻を割ってだな」
……殻?
速報。ひじきには殻があった。
うん、このノリやめようか。
「ちぃと待て」
と、俺の前に置かれたマリモひじきをガブロさんが持ち上げると、そのまま卵の殻を割る様に指を差し込み。
「ほぃ」
そのままパキッと殻を開けば、中から栗の甘露煮みたいなものが顔を覗かせる。
「そのまま食べるんです?」
「んむ」
という事で、言われるままに口に含むと……。
「あ、美味い」
ありがたいことにキンキンに冷えており、そのおかげか食感は半シャーベット状。
そして、この見た目マリモなひじき中身栗は、ライチに近い味わい。
ちょっと情報量が渋滞してるな、とりあえず見た目と味は全然イコールではない。
シャリッとした食感と口内を刺すような冷たさ。
その後で、凍っていた濃縮されたようなライチ風味果汁が口内の熱で溶けてあふれ出て、団子みたいなモチモチとした弾力が、果汁が溢れるのを止まらせない。
普通に異世界にも美味しい果物あるじゃん、と感心するほどには、美味しい口直しでございました。
「『――』の実のこのサイズをよく用意出来た」
「かなり値は張ったがな。ちょっと無礼な貴族と競り合いになったが、少しレシピを渡しただけで快く譲ってくれたよ」
……なるほど?
異世界にもあるにはあるが手に入りにくいのか、美味しい果物。
それこそ、貴族とやらが買占めちゃうんだろうね。
だから一時チョコレートを量産させようとしてたのか。
「さて、いよいよメインだ」
「ステーキ、ですね」
「うむ。初めは塩で。次に醤油ソース、最後にワサビソースで食べてくれ」
で、口直しを終えたらもちろんこのコース料理のメインの登場。
マグロのステーキ! 使う部位は当然大トロ!!
「ほほ。ナイフを当てるだけで切れるぞい」
「切れた断面が脂でピカピカに光ってる」
「身が軽ぃな」
と、異世界組が言う通り、マジで肉が柔らかに。
本当にナイフを置いただけで、ナイフの重さだけで切れていくほど。
でも、フォークで刺しても身崩れしない。不思議なもんだ。
で、味はというと……。
「はー……うっま」
多分、料理って概念の完成形と思うんすよねコレ。
シンプルに美味い。……いや、違うな。
美味いとかじゃないな。こう……何と言うか。
幸せ。そう幸せ。
ただただ、幸せを摂取してるような気持になる。
これ食った直後なら大体の事を笑って許せる。
間違いない。断言する。
「これ美味しー。翔、あんたの分も頂戴」
「殺すぞ」
マジで美味いわ。
だが待ってほしい。このマグロのステーキは、あと二段階の変身を残している。
「醤油ソースだ」
来た来た来た~!
そしてこれこれこれ~!!
さっきの塩のシンプルさもいいけど、やっぱりマグロには醤油だよなぁ!!
生半可な塩味じゃあイセカイマグロの旨味に太刀打ちできず、大トロの脂に流される。
だったらどうするか。煮詰めてとろみをつけてちょっとやそっとじゃ流されなくするのさ!
っていうのを地でやってるのがこの醤油ソースです。
あくまで洋食の枠からはみ出ないよう、醤油ソースと言ってもバターは香る。
ただ、バターと醤油が相性二億丸ってのは日本人全員が知る所。
つまり合いまくるんですねぇ。
「ワインが進む……」
「パンもいいが米も欲しいところじゃわい」
「分かる。ここの米を掻っ込みてぇ」
「ワイン以外の全てはこちらで用意すると言ったんだ。米はない。我慢しろ」
「……ぐすん」
アメノサさん、涙ぐむほどに米が欲しかったのか。
……あるんだけどな、レンジで温める奴が。
でもあれは、明日の朝ご飯にステーキ丼にして食べる、俺用なんだ。
すまない。
「最後にワサビソースだ」
で、メインのステーキもいよいよ大詰め。
最後はワサビのソースでいただきますと。
「ん! 滅茶苦茶サッパリ!!」
「ワサビの香りと柑橘の香りが共存していますわ!!」
「ほぅ……」
「ワインもいいが日本酒が飲みたくなるのぅ」
最後のワサビソース。
リリウムさんの言う通り、最初にワサビの風味がするんだけど、それはイセカイマグロの脂と互いに打ち消し合ってさ、そこまで長くは続かない。
で、ワサビの風味の後に、爽やかなオレンジみたいな香りが抜けていくんだよね。
ソースの味もサワークリーム系の味わいなんだけど、これがまたイセカイマグロやワサビ、柑橘系の香りとバチバチに合う。
で、当然果物の香りがあるならワインも合うってわけでして……。
今まで食べたどの肉よりも、はるかに美味いステーキだった……。
あぁ、でも、ドラゴン肉とは割といい勝負してるな。
もっとも、あっちはガツンと肉系だし、こっちはしっかり魚感を感じる仕上がりだったから、ジャンルが違うと言われたらそれまでだけども。
「もう無くなった。翔がくれないから……」
「次言ったらゴー君の肥やしね?」
「ナニモイイマセン」
しつこい姉貴に牽制しつつ、グラスに残ったワインを飲み干して。
くぅ~疲れました。これにて満腹です。




