開幕フルコース
薄くスライスされた玉ねぎ、白髪ねぎの上にある赤いイセカイマグロの彩りが映え。
その上に、トマトやキュウリの角切りが散らされて。
ソースの塩コショウの粒が、全体のまとまりを助けている。
見てるだけで美味そうだ。
「綺麗」
「食事は見て楽しむ物でもある。盛り付けに気を付けてみた」
「いいですねぇ」
ラベンドラさんの言う通り、料理はまず目で見て楽しむ物。
見た目の美しさが、期待感から人の頬を緩ませ笑顔にし。
笑顔になった事で、舌の味を感じる味蕾という器官が開き、より味を感じるようになる。
……って、雑誌でシェフの人が言ってた。
だから、楽しく料理を食べるっていうのは凄く大事な事なんだって。
「それじゃあ」
「まずはアミューズ――」
「「いただきます!」」
全員でそう宣言し、寄りかかってワイングラス片手にこちらを観察するラベンドラさんに見守られながら、最初の一口。
「うまっ!」
「美味し~」
「量が足らんぞい!?」
「それだけで腹一杯になるつもりか?」
アミューズ……突き出しだけあって、マグロのカルパッチョの量は三口分くらい。
ただ、ガブロさんの言いたい事はとてもよく分かる。
もっと食べたい。
まず白ワインにオリーブオイル、塩コショウで味を調えられたソースが美味いわ。
火を通して無いからアルコールを強く感じるかなと思ったけど全くそんな事は無くて、むしろ鼻に抜けるアルコールの感じが、ああ、今からフルコースを食べるんだなって気持ちにさせてくれる。
「醤油の香りがあるわね」
「マジ?」
「うん。少しだけど」
「よく分かったな。こちらの醤油を一滴入れさせてもらった」
「マジか……」
姉貴が……隠し味を当てた?
明日は大雪か槍でも降るか?
「野菜にも、魚にも、肉にも合う調味料は中々ない。使い過ぎると和風の味付けになってしまうが、こうして隠し味として使えば、あらゆる食材の懸け橋になり得る素晴らしい調味料だ」
醤油滅茶苦茶褒めるじゃん。
もっと褒めて。
「玉ねぎやネギの瑞々しさとピリッとだけくる辛みが、『――』の旨味を引き出しますわね」
「後はソース。酸味のあるものだけど、綺麗に野菜にも、『――』にも調和してる」
「ソース自体にワインも使ってるから、飲ンでるワインとも相性がいい」
「どころか、これ一皿で一杯目を飲み干してしまいそうですわ」
「じゃから量が足らんと……」
「待て待て。まだまだ出てくるんだぞ?」
と言ってたら、二品目のオードブルが登場。
宣言通りのタルタルステーキですね。
「表面を少しだけ炙って香ばしさを出した。混ぜる調味料が足りない時は言ってくれ」
出て来たタルタルステーキには、ネギ、ピクルス、パプリカに……キノコかな? が細かく刻まれて添えられており。
オリーブオイルと醤油がテーブルに置かれ。
マグロのたたきの部分には、アーチ状に塩コショウがまぶされている。
……あの――塩コショウ浮いているんですけれど……。
「好みの量取れるだろ?」
とかラベンドラさん言ってますけど、そうじゃなくて。
当たり前に人間が初めて体験する魔法を料理に組み込むんじゃないよ。
ワクワクしちゃうだろ!!
「ニンニク無いの?」
「トーストがガーリックソースを塗って焼かれたものだ。そちらと合わせて貰う」
「なるほどね」
という言葉の後に、テーブルに出てくるのはこんがりと焼かれていい匂いをバラまき続けるガーリックトースト。
そのまま食べても美味い奴じゃん……。
「ピクルスはマスト。あとは好みで混ぜて食べてくれ」
との言葉通り、俺はまずはピクルスを混ぜて……。
空中に浮いた塩コショウを一つまみし、混ぜたマグロタルタルに振りかけて。
ガーリックトーストに乗せて、ザクリ!
むほほほほほほ。
「不味いはずがない!」
「うめぇがさっきのの方がワインが合うな」
「ガーリックのパンチにワインが少し物足りないかも?」
「でもタルタルの奥にある脂の乗った部位の甘さとはマッチしますわよ?」
「これ単体でワインと合わせろ」
「わし的には結構最高なんじゃがなぁ」
まぁ、どう思うかは人それぞれだし。
ワインの合う合わないも、結局は好みだからなぁ。
……で、姉貴? 黙ってどうしたの?
「タルタルステーキってこんなに美味しいんだ?」
「明らかに食材と作り手がいいってのもあるけど、基本的に美味いよ? どうした?」
「いや、じゃあ私が食べた事あるのって外れだったんだろうなって」
「あー……」
ノーコメント。
まぁ、料理の当たり外れなんて往々にして発生しちゃうものだし。
たまたま外れだったんだって諦めるしかないよ。
……ただしノロウイルス、てめーはダメだ。
お前の場合はハズレというか当たりというか……。
とにかく、がっかりするだけならまだしも、苦痛を与えてくるのはNG。
「全部混ぜた方が美味い」
「色合いも良くなりますしね」
「塩加減を自分で調整出来るのいいね。どこもこのスタイルにならないかな?」
「無茶言うなよ」
少なくとも、この世界の人類は粉末をお皿の上にアーチ状に立体的に浮遊させるなんて出来んのよ。
異世界に染まるな。
「さて、スープと一緒に思いついた物も出そう」
「詳しく」
「そのまま、『――』の串焼きだ」
そう言ってお出しされる、冷たいスープと串焼きの……これはトロか?
肉汁が滴ってやがるぜ。
「ワインも変えよう。カケル、どれがいい?」
神様出番ですよ。
(ロゼワインじゃな)
ロゼワインは一種類しか買ってないからな。分かりやすい。
「これで」
「よし。ではこの後はメインが待っているからな」
注がれるロゼワインの綺麗な明るいベリー色に視線を向けつつ。
まだまだ続くイセカイマグロのフルコース。
堪能しちゃうもんねー!!




