また客が増える
「バター香るビスケットとバニラアイスの組み合わせはワインにも合う」
「正確には、合わせるワインがある、だがな」
全然そんなつもりではなかったんだけど、楽しんでくれてるみたいだからヨシ。
俺が見てる動画投稿者で、ソムリエの人のやつがあるんだけど。
そこでもアイスとワインを合わせてたからきっとメジャーな組み合わせなんだろうね。
……そう言えば、某お手頃ファミリーレストランの回で、ジェラートにオリーブオイルをかけてた時があったな。
……試してみるか。
「? 何してんの?」
「いや、バニラアイスにオリーブオイルを掛けたら美味しいって聞いたから試してみようかと」
「ふーん」
ちなみに姉貴はもう満足なのか、クッキーをチビチビと食べながら左右に揺れるアメノサさんの尻尾の動きを目で追ってる。
……無限に見てそうだな、姉貴。
――へぇ。美味しいじゃん、オリーブオイルバニラアイス。
なんて言うんだろうな、オリーブオイルの香りとほのかな苦みが、バニラアイスの甘さと凄く合う。
普通にバニラアイス単体で食べるより、多分一段階は味のレベルが上がってるな。
……ただ、良くも悪くもオリーブオイルの質次第な気がする。
変に苦かったり、香りに雑味があったりするとこの相乗効果は無いだろうな。
そのままドレッシングとして使えるレベルのオリーブオイルくらいのポテンシャルは必要そう。
「合うんか?」
「合いますよ? かなり美味しいです」
で、俺の反応を待っていた異世界組が、俺に尋ねて来て。
これまでビスケットやサブレで済ませていた飲兵衛組が、ここで重い腰を上げる。
バニラアイスを少量取り、そこにオリーブオイル。
で、パクリ。
「ん、美味い」
「こりゃワインに合うデザートだな」
甘いものが得意ではない二人からも太鼓判を押されましたわ。
凄いぞオリーブオイル。凄いぞバニラアイス。
「『酒一滴』がカクテルに合う手軽に作れる料理を探していたな」
「どうした? 急に?」
「いや、こうした甘いものでも酒に合うものはあるだろう?」
「それを教えようという事ですの?」
マジャリスさんが言ったツッコミを俺にもさせてくれ。
……どうした急に。
「チョコレートでもアイスでも、ワインに合うのだからカクテルにも合う。というか、アイツならばそれらに合わせるカクテルだって産み出せるはずだ」
「……確かに」
「あくまで料理と共に楽しむ物として考えられているワインと、新しく出て来たばかりのカクテルという飲み方。そのどちらにも、このような甘いものというアプローチは新鮮なはず」
「言わんとしてることは分かるが……」
「本心は?」
「多少恩を売っておいて、顔パスであのバーを利用出来るようにしたい」
「下心しかねぇ」
これがさ。
ガブロさんなら何言ってんの、お酒が飲みたいだけでしょ。で一蹴出来るし、マジャリスさんなら、はいはい甘いもの食べたいだけね、で済むんだけどさ。
言ってるの、ラベンドラさんなんだよね。
つまり、そんな単純な考えじゃないって事。
「そのバー、美味しいんですか?」
「美味い不味いという枠ではない。常に新しい」
「と言うと?」
「ほぼ日替わりで新しいカクテルを見つけて客に出している。なにせ、一番人気のメニューが『店主の気まぐれカクテルセット』だからな」
「その日のカクテルと炒ったナッツ類、ジャーキーが付いてくるセットなのですけれど、お酒にハズレがありませんの」
「わしの知り合いのドワーフ達は、日替わりで今日は誰が行く、とか話し合ってな。一杯でも知らぬ酒を出さぬようにと協定すら結んどるそうじゃ」
多分だけど、この間のカクテル大会で優勝した方だよね?
確か元醸造ギルドの職員って話だったけど……。
調理士じゃなかったんだよな。
あ、だから簡単に出来て酒に合うような物をってことで、オリーブオイルがけバニラアイスに目を付けた……?
なるほどな?
「思ったんですけど」
「なんじゃ?」
「そもそも、アイスってそちらでは手に入るんですか?」
「アイス単体を売りにしている店はないが、大体のレストランでは注文できる」
「あ、なるほど」
「だから手に入るには入る」
「まぁ、種類は最低チョコとバニラさえあればなんとかなりそうですもんね」
チョコミントとかイチゴミルクとか、魅力的で美味しいフレーバーはたくさんあるけども。
基本さえしっかりあれば、アイスなんて大体満足しちゃうしなぁ……。
「そう言えば、少し前にアイスケーキを食べたな」
「ありましたね」
「アレを作っていたのはアイス専門店か?」
「ですです」
……ラベンドラさん? お顔が近くってよ?
「もしよければだが、メニュー表のようなものは見ることが出来ないだろうか?」
「アリマスケド」
「ぜひ見せて欲しい」
鼻と鼻がくっつく距離……よりは離れているな。
ラベンドラさんが横を向いた時にエルフ耳が当たる距離くらい。
そんな近い距離でイケメンにこう言われて断れる人類が居るだろうか? いや、居ない。
と言う訳でバスキンなロビンスアイスクリーム店のチラシを手渡す……その前に。
(神様、見せるだけなら特にお咎めとか無いですよね?)
神様にお伺いを立てないとね。
(構わんぞい)
よし、ほんなら大丈夫か。
「どうぞ」
と、チラシを引っ張り出してラベンドラさんに渡そうとした瞬間。
俺の手からチラシが消え……。
「……多すぎないか?」
そのチラシは、しっかりとマジャリスさんの手の中に。
あまりにも早い奪取。
俺は見逃しちゃったね。




