一生モフられてもいいという覚悟
「まずは赤身から。シンプルに塩で食べてみろ」
との事なのでイセカイマグロ初実食。
これに関しては渡す時にどんな味かってラベンドラさんに言われてたからね。
お寿司を握って貰った時に、俺も初めて食べようと決めてたのよ。
と言う訳でいただきます。
「うンめ~」
「旨味が濃い!」
「ねっとりとしたうま味が口一杯に広がりますわ~」
「塩がいい。シンプルにこいつの旨味を引き出しとるわい」
マジで美味い。
マジで。
噛み締めるように、一回の咀嚼をゆっくりやっちゃうわ。
マジでマグロのいっちばん美味い所を選んで握ったみたいな完璧な赤身。
筋らしい筋も無く、ゼリーなんじゃないか? くらいの食感のネタに歯を立てたら、肉汁がジュワッと。
口内の温度で僅かにある脂が溶け、その肉汁と混ざり合って。
先ほどのイセカイハモよりもほんの少しだけ大きいシャリが、味の濃い旨味のイセカイマグロと丁度いい配分率で口の中で混ざる。
そしてイセカイマグロの旨味が終わったら、遅刻遅刻とばかりにワサビの風味が鼻をくすぐる。
多分これが、一番美味いと思います。
「ワインも美味し」
「かなりサッパリとしてくれるな」
「微発泡なのも嬉しいですわよね」
そうそう。
この微発泡なおかげで、より口の中がスッキリするんだよな。
というか、このワインマジで癖無いな。
ほら、ワインによっては魚の生臭さを増幅しちゃうから、生魚とはあまり合わないワインもあるって聞くけどさ。
このロゼワインはそんな事全然ない。
凄いよ、ほんと。
「次は中トロだ。タレを塗って渡そう」
で、赤身の次は中トロ。
ラベンドラさん秘伝のタレを塗ってのご提供。
「ん~~! 先ほどよりも身は柔らか。けれど、うま味や甘みが強く感じられますわ!」
「塗られてるタレとの相性がやべぇ。無限に食える」
「数回噛むだけで無くなる。多分魔法」
「どこの高級店より贅沢なことしてるわよね、私達」
「間違いないね」
姉貴がそんな事言ってるけど、異世界食材を異世界人の手で握らせてるのは世界広しと言えど俺らだけだろうさ。
炒り塩水での解呪があるおかげでこれが実現出来てるんだから、異世界では再現が難しいのもポイント高い。
文字通り、俺らだけの特権ってわけだ。
「さっきの赤身がこれを食った後だとサッパリしてると錯覚するな」
「先ほどのも十分濃厚でしたわよ」
「ワインを飲めばリセットされる。だから今のも実質サッパリ」
「たまにはアメノサもいい事言うな」
ちなみに中トロ、大体みんなの食レポに同意なんだけれども。
色は綺麗なピンク。それこそ、今飲んでるロゼワインと並べたら映える位には綺麗な色合い。
実際、歯に当たるというか、舌に当たった時点から溶けてるんじゃね? と思えるくらいにはネタが柔らかくて、脂が赤身より多いからか甘みが強い。
そこにラベンドラさん特製の煮切り醤油みたいな感じのタレが絶妙でさ。
醤油っぽい風味は無いけど、塩味と甘味を併せ持った、つくしみたいな香りがするタレでね。
これがまたイセカイマグロに合うんですよ。
むしろイセカイマグロに合わせるためのタレなんじゃないかとすら思えてくる。
で、このつくしっぽい香りを消さないためにワサビは乗せられてなかったな。
そのせいかちょっと口の中に残る脂が重かった。
でもそれも、ワインを飲めば綺麗サッパリリフレッシュ。
やっぱこのワイン凄いわ。
「次に大トロだ」
で。今度はピンクってよりも白い絵の具に赤い絵の具をちょっと垂らして混ぜてる途中みたいなビジュアルの柵が登場。
切ってて驚いたんだよな。脂乗り過ぎだって。
「これはワサビだけで食べてみろ」
「ほぅ?」
塩も醤油も無く、ワサビだけとな。
信じましょう。
「……」
「……」
「……」
「……」
察し。マジか。そんなに美味いのか。
どれどれ。
「……」
はー……。
美味過ぎる。
ちょっと落ち着いて深呼吸したい。
味わってる間、無意識に息止めてたわ。
中トロが舌に当たった瞬間溶けるなら、大トロは口に入れた瞬間に溶ける。
しかもその後の旨味の広がり方が尋常じゃない。
より旨味が強く、甘味も強くなったマグロのスープが、ワサビを取り込み、シャリを包み。
ほぼほぼ咀嚼せずとも、喉の奥にスルスルと入っていってしまう。
塩や醤油、タレなんて不必要。
脂と肉汁だけでこの味付けは完結してしまってる。
そこにちょっと多いんじゃね? と躊躇う位に乗せられたワサビが響く。
ツンと来る刺激はイセカイマグロの脂に角を取られ、鼻に届くは爽やかな風味のみ。
ここにはワインよりもお茶を飲みたい。
……はぁ……美味しかった。
「住む」
「ん?」
「もうここに住む」
「歓迎するわよ!?」
「アホ言うな。どうせ強制送還させられるぞ」
なお、戻ってきたアメノサさんがこの場に住むと言い出す始末。
あと姉貴、快諾すな。
ちゃんと毎日の散歩とか面倒見ないでしょ。
「ちなみに、こいつはもう二品構想がある」
「……なんじゃと?」
「頭トロの炙りと背トロのヅケだ」
「これの後に出すという事は……?」
「もちろん、これより美味いと確信している」
ゴクリ。
ラベンドラさんのその力強い宣言に、その場にいた七人全員が喉を鳴らす。
盛り上がって参りました!!




