神様「待ちわびたぞい」
「……姉貴、生きてる?」
「返事はない。ただの素敵なお姉ちゃんのようだ」
「言ってて恥ずかしくない?」
「全然?」
買い物を終えて帰宅後、一応帰宅したであろう姉貴の安否確認。
べ、別に心配してたとかじゃないんだからね!
まさか電子レンジすら使えなくなったんじゃないかと退化を危惧してただけなんだからね!!
「んで? 今日のご飯は鱧の何?」
「鱧使うの?」
「へ?」
お互いに顔を見合わせてキョトン。
「鱧の晩御飯じゃないの?」
「昨日新しい食材貰ったからそっちを使うつもりだったけど……」
「……ちなみにその食材は?」
「マグロ」
「う~~~ん……」
姉貴、長い葛藤。
本人的には鱧を食べに来たのが一番の目的だったはず。
でも、そこにマグロって選択肢が降って湧いた事で、そっちでもいいんじゃね? と。
こうなってるわけですね、姉貴の脳内は。
「やっぱり鱧!」
なお、初志貫徹を決めたもよう。
意志が固い。
「じゃあ、鱧たっぷりの茶碗蒸しとかで妥協しない?」
「……いいかも」
「銀杏とか買ってくるなら、なんちゃって土瓶蒸しとかも出来るけど?」
「金は出す。ゴーショップ」
へいへい。
それじゃあ、姉貴のわがままに答えるために、再度スーパーへ。
*
ただいま、という事でね。
季節じゃないから松茸は見つからなかったんだけど、香り松茸味しめじって言うし。
しめじと、松茸に食感が似てるエリンギを買って来まして。
香りの方は枝豆が似てるってどこかで聞いたのでおつまみ枝豆を買って来ました。
そいつらをイセカイハモ、銀杏と一緒に土瓶に入れたら、イセカイカワブタ節の出汁を注いで加熱。
しばらくお待ちください。
「割と本気で夢に見たのよね、鱧の土瓶蒸し」
「まぁ、海外じゃあ絶対に食べられないだろうしねぇ」
「で? 今日のメニューは?」
「ラベンドラさんが握るマグロメインの握り寿司」
「鱧は?」
「もちろんあるよ」
「うし!」
なんで俺が鱧の茶碗蒸しなんて提案したと思ってる。
寿司に合うからに決まってるだろ!!
と言う訳で茶碗蒸しのお準備。
イセカイカワブタ節の出汁を取り、冷ましてリボーンフィンチの卵と混ぜ合わせ。
出来た卵液を漉して、泡を取り除く。
容器に土瓶蒸しを作った時に余ったエリンギ、骨を抜いたイセカイハモ、銀杏を入れまして。
卵液を注いで蒸し器にイン。
まだ蒸さないよ? 少しだけ異世界組が来るまでに時間があるからね。
「はぁ……うま」
「松茸入りっぽくなってる?」
「本物飲んだ事無いから分かんない。でも滅茶苦茶美味しい」
……そりゃあそうか。
鱧と松茸の土瓶蒸しなんて、むしろ食べた事のある人の方が珍しいか。
「ちなみにかぼすもあるよ」
「出来る姉には出来る弟が付いてくるもんだねぇ」
「あ、はい」
酒でも飲んでるのかってくらいご機嫌で怖いんだけど。
これが異世界食材の魔力……っ!?
異世界食材、恐ろしい子……。
「あ、お土産にワイン買って来たよ」
「助かる」
「アライグマ?」
「ラスカル」
「ベル〇らの」
「オスカル」
「合格」
「……いや、何が?」
なんてやり取りをしながら、姉貴の指差す先を確認。
……結構買って来てくれてるね、ワイン。
「ドイツで買ったから、ほぼほぼドイツワインね」
「デザートワインとかアイスワインは?」
「あるわよ。どれがそうなのかは知らないけど」
買いっぱなしで判断は俺がしろって事なのね、了解。
「……同じの一杯買ってない?」
「神様用にも買ってる。必要なんでしょ?」
(流石カケルの姉じゃなー! わし嬉しいからちょーとだけ巡り合わせを良くしとくぞい!!)
「めっちゃ喜んでる」
んじゃあ先にお供えしちゃうか。
どれもこれも名前がかっこ良さそうな響きだこと。
ドイツ語の響きって厨二心をくすぐるよね。
ヴィンガートだのシルヴァーナだの、ワインの名前ですらカッコいいと思っちゃうもん。
「全部一本ずついいの?」
「あんたがいいなら」
「んじゃあよし」
一応姉貴に確認を取りつつ、姉貴が買って来たワインを一本ずつ並べて二礼二拍手一礼。
(うっひょーーー!!^^)
顔文字漏れてますよ。
ん~……アイスワインに合いそうなおつまみを探したけど、特に無いなぁ。
やっぱりチーズ系が合うんだよね?
(別にチーズだけじゃないがの。ドライフルーツコンポートにも合う)
どれも無いですねぇ……。
(後はバニラアイスにも合うぞい)
あ、それはありますよ。
お供えします?
(頼むぞい)
という事でバニラアイスをお供え。
もちろんファミリーパックのバニラアイス2Lのやつね。
なんであるかって? そりゃあもちろん今日の為よ。言わせるな恥ずかしい。
お皿にバニラアイスを移したら、スプーンを添えて二礼二拍手一礼。
神様どうぞ。
(むほほほ!)
もう声が有頂天なんだよな。
にしても合うのか、バニラアイスとアイスワイン。
(そのまま合わせても良いし、アイスに掛けても全然美味いぞい)
ふむふむ。
む、そろそろ茶碗蒸しを蒸し始めてもいい予感がする。
「はぁ……堪能した」
「具もちゃんと食べた?」
「食べた。鱧滅茶苦茶美味しかった」
「個人的に出汁がスーパー美味いと思うんだよ」
「分かる。何出汁なんだろーって思いながらずっと飲んでた」
「異世界の河豚っぽい奴を鰹節よろしく加工して貰ったのよ。ゴー君に。それの出汁」
「すっごい繊細なのに旨味が濃い。なんだろ、菫の花とか、あんな感じのお出汁よね」
「チョットナニイッテルカワカラナイ」
「弟でしょ? 分かれ」
なんてやり取りをしつつ、俺はラベンドラさんに握って貰うための、寿司ネタの仕込みに入るのだった。
……ほぼほぼマグロを切るだけなんだけどね。




