嵐の予感
「いらっしゃ~い」
異世界人のおな~り~。
「……なんでそんなにボロボロなんです?」
なお、『夢幻泡影』の四人は姿がボロボロなもよう。
この人達たまにボロボロになって来るんだよな。
……大体がバハムートとか、とんでもないものと戦ったからって理由だったはずだけど。
「ちょっと……な」
「図鑑でしか知らない魔物と戦ったら、知らない情報が出て来たから……かしら?」
「海に生きる魔物が空を泳ぐな……」
「あるいはあれが特殊個体という話も……」
俺だけじゃなくて『無頼』アメノサ組も大丈夫か? という不安げな顔で見てるよ。
「ご飯……作れる?」
言葉としては同じ大丈夫? でも、どの部分に対しての言葉かは違うけど。
アメノサさん達は主にラベンドラさんに、『今日の食事はちゃんと作れるか?』という意味での大丈夫? だけども。
俺はちゃんとしっかり間違いなく安否の心配100%だからね? ホントダヨ。
「大丈夫だ」
「じゃあ作って」
アメノサさん鬼かよ。
狐だけど。
もう少し落ち着かせてからですね……。
「うむ」
いいんだ。
いや、それならばそれでいいんだけど。
「準備は出来てますよ」
「助かる」
てんぷら粉やイセカイハモの骨抜きなんかの準備はバッチリ。
俺はラベンドラさんが天ぷらを揚げてる横でみそ汁作るから。
「……このまま揚げるのか?」
「今日はそんな気分なので」
で、本日のイセカイハモなんですけれど……。
現代日本の鱧天タイプは、お蕎麦の時にやったんですよ。
なので、今回はカツタイプ……というか、ソースカツ丼スタイルでやっていきたいなぁと。
異世界食材の大きさじゃないと出来ないこのスタイル、やりたかったんです、はい。
「ふむ」
「揚げたらこのソースにサッとくぐらせて、そのままご飯に乗せます」
「うむ」
ソースもしっかり作ってるよ。
イセカイカワブタ節の出汁をベースに、醤油とお酒、砂糖で少し甘めに味付けした特製天つゆ。
揚げたての天ぷらをそこに潜らせて、ご飯に乗せればそれだけでイセカイハモ天丼の完成。
味噌汁とエルフが漬けた漬物も付いてお値段なんとプライスレス。
原価の材料ほとんど米! 圧倒的内訳!!
……いやまぁ、メイン食材異世界産でタダだからそうなるのが当然なんだけども。
色々と値上がりするのは仕方がない事だと思うんだよ、うん。
たださ、その分お賃金を増やしていただかないと困るわけで……。
まぁ、日本企業の給料なんて、某大手自動車会社の給料が上がらないと無理、とか言われてますけど?
なんとかなりませんか……。
こう考えると、実は海外飛び回って稼いで俺に金まで入れてる姉貴って実は凄いのでは?
――無いな。姉貴だもんな。
仕事面では褒められてもプライベート面ダメだし。
……はっ!? だからプライベートがあまりないような日々毎日仕事みたいな事をしている……?
実は自己分析の結果だったりする?
「揚がったぞ?」
「じゃあこちらに」
もしかしたら姉貴は全て考えての事だったかもしれないという可能性に辿り着くも、とりあえずはそう信じたくないので首を振って邪念を消し。
これから食べるイセカイハモ天丼に意識を集中。
暗い話題は食事に合わぬ。
「一人二枚の計算で揚げたが?」
「それで大丈夫です」
二枚……二枚か。
まぁ、食べきれるでしょ、多分。
……一枚で米が隠れるほどの大きさなのに?
大丈夫かな……。
「よし、では出来たぞ」
「んじゃあ早速いただきましょう」
男、翔。
俺が食べきれなかった一枚の天ぷらをめぐって異世界人が喧嘩をしないように、絶対に食べきらなければならない。
男には、時には自分の限界に挑まねばならない事がある。
――絶対今じゃないだろ、これ。
*
「ん~……そろそろ帰ろうかなぁ」
各国各地域の現在の宝石相場。
定期的に送られてくる香木の売値。
様々な要因を加味すると、一旦落ち着いてもいい頃合い。
翔の姉、『臥龍岡 早苗』は宿泊用に取っているホテルのベッドの上でタブレットを弄る。
そのタブレットの中には、几帳面に整理された帳簿、滞在予定や滞在地。
ホテルの予約内容に飛行機のスケジュール等、仕事に関することが事細かに入力されており。
とても家事の一つも出来ないような人間とは思えないほど。
「犬〇叉風の男性も気になるし、九尾のモフモフ女子も大変気になる」
そんな早苗は、日々弟から送られてくる異世界組や食事の情報に目を通しながら、帰る最大の理由を口にする。
やはりモフモフ、モフモフは全てにおいて優先される。
「今は鱧食べてるんだっけ。もうずっと食べてないなぁ……」
日本食と言うものが有名になり、海外でもそこそこ食べられるようにはなってきた。
ただ、やはり本場というか、本物の日本食を知っていると海外のそれらは首を傾げたくなるようなものが多く……。
現実、今日の晩御飯として食べた、早苗の泊まる地域では一番有名な寿司店のメニューでさえ、アボカドとサーモンのカリフォルニアロールが一番人気。
それでも不味くはなく、ちゃんと美味しい部類ではあるのだが……。
「鱧……食べたいなぁ」
画面の中に、もっと言うなら遠く離れた弟の家にはそれがあり、自分の場所では絶対に手に入らない。
そうなった時、彼女のとる行動は一つ。
「よし、帰ろう」
即決で飛行機のチケットを手配し、直近の便で日本に帰国する。
しっかりと弟への連絡は忘れているが、それはもはや日常の事。
それを思い出すのは日本の空港に到着してからになるのだが、早苗も、連絡を受けた翔も、どうせいつもの事だと特に気にしていないので、何も問題はないのであった。




