ネームドは禁止っすよね?
「嫌じゃ嫌じゃ!! わしはもっと飲むんじゃ!!」
「駄々をこねるな! 投票の集計がもうじき終わる。俺たちの仕事が始まるんだよ!!」
「最終選考でまだまだお酒は飲めますわ!!」
「誰かが選んだ酒じゃなくわしが選んだ酒が飲みたいんじゃ!!」
「はぁ……」
日は傾き始め、大会はこれより最終選考へ。
これまでの一般参加者から投票され、最終選考へと歩を進めたカクテルに、今度は『夢幻泡影』達特別審査員が投票。
同時に国王や、隣国からの来賓が投票し、優勝を決める……筈なのだが。
ガブロは、もっと自分が選んだ酒を飲みたいと駄々をこねていた。
「ガブロ」
「何じゃ?」
「お前がそういう態度ならば仕方がない。酒に関する大会は金輪際提案しない事にしよう」
「何じゃと?」
「大会期間中は酒を売ることも制限だ。Sランクパーティの仕事に支障が出るんだ。ソクサルムに相談すればきっと分かってくれる」
そんなガブロに説得――もとい脅迫をするラベンドラは。
「アエロスにも話をしておかなければ」
もはやガブロの反応に興味はなく、そうと決まれば、と淡々と連絡を開始。
当然、
「分かった! 分かったわい!!」
ガブロは焦るが、
「? 楽しんでいいのだぞ? 今回限りの酒だ」
もう興味もない、と返すラベンドラ。
結果、鼻の頭を赤くしたドワーフがダークエルフの足に縋りつき、必死に許しを請う様子が確認されたが。
場所が最終選考会場だったこともあり、その醜態はあまり多くの目には晒されなかった。
(何してるンだよとっつぁん)
(ラベンドラ、大変そう)
『無頼』アメノサ組にはしっかりと見られていたが。
*
「各種ブランデーの比重の関係で混ざる事なく虹を再現しております」
「見た目は美しい」
「これは映える一杯ですなぁ」
最終選考に駒を進めたカクテルたち。
それらは、当然製作者と共に王城の一室に呼び出され。
制作者本人から、直接カクテルの説明を聞いて味を見る。
「目で楽しむ酒か」
「わざわざ七層にする理由が分からん。本当に見た目の為だけだな」
「結局グラスを傾けると混ざっちまうンだよな」
「ストローで下から飲むとか必要かも」
現実にもある、色の層が出来るカクテル。
あれよりも遥かに鮮やかに、ハッキリとした七色のカクテルは、異世界ブランデーだからこそ出来る美しさ。
その美しさに、貴族たちは高い評価を付けるものの……。
『夢幻泡影』やアメノサ達にとって、見た目ももちろん重要だがそれよりも重要視されるべきは味であり。
飲んだ感想はやや辛辣。
そこまで高い評価にはならなかった。
「複数のお酒を炭酸で割りました。ブドウベースです」
二杯目のカクテルは見た目は普通。
炭酸のグレープジュースのような見た目であったが。
「お」
「これは美味いな」
「これ好きかも!」
一口飲んだだけで、複数のブドウの味わいが口の中に広がる。
そして、炭酸の泡が浮かぶ度、そのブドウの香りが強く広がっていく。
口を入れてすぐは甘さが強く、飲み込む直前には酸味と渋味が広がっていて、口に含む間に味が変わるのもポイント。
「飲み口はあっさりじゃがかなり満足感がある」
「甘すぎるってわけでもねぇしな」
甘さだけではない、ぶどうの渋味も酸味も全部を纏めて味わえる一杯に、『夢幻泡影』達は高評価。
「味は確かに」
「食前にも食後にも合いそうですな」
貴族たちの評判も悪くはなく、その感想を聞いて開発者は思わずガッツポーズ。
余談だが、この開発者は後日貴族との専属契約が決まり、毎晩その貴族や婦人、客人に色々なお酒を振る舞う事になる。
「甘いお酒が多くなりそうだと感じたので、甘くないお酒をと試行錯誤してたら出来ました」
そう言ってお出しされたのは、ピンク色のカクテル。
見た目で言えばどう見ても甘いのだが、開発者が言うには甘くないらしい。
「あら? どこかで見た顔ですわね?」
「蒸留ギルドに居たな。名前は知らんが」
「バッカスって言います」
なお、開発者はバッカス。
メタな考えは一旦ステイ。ちなみに大正解である。
「キャラメルみたいな香ばしい香りがするな」
「匂いは全然甘いですわよ?」
と、言いながらも一口飲むと。
「苦いのか……」
「思ってた味と違ってギャップがありますわね……」
見た目からはかけ離れたその味に、思わずグラスを顔から離すが……。
「美味いぞ?」
「だな。うめぇよ」
飲兵衛たちからの評価は高く。
「キャラメルの香りと焦げの苦み、そこからじんわりと広がっていくナッツ類のような香ばしさ」
「苦すぎる、と言う訳ではありませんものね。しっかり加減が分かっている苦さですわ」
「お酒のウッてなる匂いも少ない……。苦いのに飲みやすい?」
「これは是非ともレシピが知りた……いや、やめておこう」
「ちなみに甘さを足したのもありまして、それも最終選考に通ってるんですけど……」
とお出しされる綺麗な水色のカクテル。
このネームド、無法が過ぎる。
「色の対比といい、味の対比といい、凄まじいな」
「甘い方も全然うめぇ。ていうか、甘すぎない、苦すぎないのラインが上手すぎる」
「もうコイツ優勝でいいだろ」
と、鬼のように評価が高かったバッカスのカクテルは、当然のようにこの大会で優勝し。
なんと、王城の地下が新設され、その地下でバーの経営を開始。
王族貴族から各国の要人、ドワーフに名だたる冒険者たちと来客には恵まれまくり。
売り上げの一部を蒸留ギルドに投資し、新たな蒸留酒が出来ると即座にメニューを考案。
そのサイクルが早すぎて、三日訪れないとメニューが変わる、とまで言われた『バー 酒一滴』は。
ドワーフ達から酒が沸く場所として、聖地認定されたのだった。




