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食べ物の怨みは……

「……飲む、だけ?」

「アメノサから思いっきり殺意を向けられているのだが……」


 異世界に戻り、カケルから教えて貰った鱧の土瓶蒸し。

 これをアメノサと『無頼』……仕事に圧殺されて翔宅に来られなかった組に振舞ったのだが……。

 そもそもアメノサは、土瓶蒸しを食事として認識せず。


「とりあえず試してみてからだろ」


 と『無頼』にフォローを入れられても、


「満足しなかったら承知しない」


 向けられる殺意の強さは変わらない。

 ちなみに異世界土瓶蒸しは鰹出汁ではなく、イセカイカワブタ節で取った繊細で上品なお出汁。

 料理酒は無いので特には入れず、松茸の代わりにマイコニド……どんな所にでも生え、動き回るキノコ型の魔物を使用。

 もちろん、マイコニドの中では高級とされる、香りも出汁も良いものを使用。

 仕上げに軽い清涼感のある香りの香草を入れて蒸せば完成。

 なお、異世界に土瓶は当然存在しないが、何のためのドワーフ族か、という事で、ガブロが一晩で作ってくれました。


「初めはそのまま、その後は好みでこいつを入れてもいい」


 皆に食べ方を教えるラベンドラ。

 彼の言うコイツとは、もちろんすだち――ではなく。

 ラベンドラなりに調べ、すだちに近いとして採取した葉っぱである。

 葉の葉脈を折り、そこから出て来た汁が非常にすだちに似ている。

 なお、色はショッキングピンクなのは、この場に翔が居ればツッコミが入っただろうが……。

 残念ながらこの場には居ないのでツッコミも入らない。


「いただきます」


 土瓶に合わせて作られたお猪口(当然ガブロが一晩で作った)に注がれた土瓶蒸しの出汁に、静かに口を付けるアメノサ。

 ……そして、


「ふぅー」


 大きくため息。からの深呼吸。


「美味しい」

「ああ、うめぇ」


 叫ぶでもなく、ただただ静かに。

 自分の飲んだお猪口に、愛おしそうな視線を向ける『無頼』アメノサの両名は。


「この汁を入れる?」

「うむ」


 続いて、すだちもどきを数滴垂らし、一口。


「香りが……」

「一気に広がる割に、出汁の邪魔を全然してねぇ」


 その香りの変わりようと、変化した香りに全く流されない出汁の旨味に驚愕。

 そして、ここで『夢幻泡影』も土瓶蒸しに口を付け……。


「沁みる」

「体に浸透する感じがありますわね」

「何じゃろうな、動の美味さではなく静の美味さ。あらゆる無駄を削ぎ落した、美しさすら感じる美味さじゃわい」

「食材の相性が良すぎる。そうか……ここまでか……」


 と、現代でも高級料理の土瓶蒸しに舌鼓。


「絶対満足しないつもりだったのに……」

「はっ。ものの見事に満足しちまってるじゃねぇか」


 そうして、初めのお猪口の一杯を飲み干すころには、既にアメノサの最初の殺意はどこへやら。

 満足しきった顔で、二杯目の土瓶蒸しをお猪口に注ぎ……。


「ああ、見つけました。探しましたよ、アメノサさん」


 アメノサと『無頼』が宿泊する宿の一室。

 来賓として、そして、運営に関わる者としてニルラス国から用意され、今現在、『夢幻泡影』と食事を楽しむその場所に。

 ソクサルムが登場する。

 瞬間、


「何?」


 アメノサの殺気が、先程以上に膨れ上がるのだった。



「いらっしゃ……うぉい!?」


 紫の魔法陣が出現し、お、来たかと思ったら。

 魔法陣から飛び出した……いや、突撃してきたアメノサさんが俺にダイレクトアタック。

 後ろがソファだったから良かったものの、これがテーブルとかだったらどうしてくれる。


「カケルに迷惑かけンな」

「だって……」


 なんかもう、へそ曲げてます感がすっごいけど、一体何があったので?


「土瓶蒸しを振る舞ったのだがな」

「半分くらいはソクサルムに飲まれたのだ」


 俺の疑問に、しっかりと答えてくれるラベンドラさんとマジャリスさん。

 ……ソクサルムさん、また嫌われるよ? 誰か知らないけど。


「土瓶蒸し……美味しかったのに……」

「美味かったから奪われたンだろ」

「アイツイツカコロス」


 ひっ!? なんか過去最大でアメノサさんがぶちぎれてる。

 し、鎮まり給え~。


「カケル、今日のご飯は?」

「異世界の食材をふんだんに使った御膳にしようかと」

「……面白そうだ」


 御膳とはどんな料理だ? と聞かれない辺り、うまい事翻訳されてるんだろうな。

 説明が楽で結構。


「俺がお吸い物と酒蒸し、焼き物を作るので、ラベンドラさんは茶碗蒸しと天ぷらをお願い出来ますか?」

「分かった。茶碗蒸しか。久しぶりだな」

「で、アメノサさん達は食べた事無いので、一度プリンとして出したいと考えてて……」

「お主も悪よのぅ」


 ヨシ、やりたい事は伝わったらしい。

 ほな、料理を作っていくか。


「あ、そうだ。アメノサさん」

「何?」

「換毛期用のブラシ、届いていますよ」

「本当?」


 柴犬用のやつ。

 言わないけどね? へそをもっと曲げそうだから。


「『無頼』よろしく」

「たまにはテメェでしろよ」

「よろしく!」


 と言う訳で調理をする場所からは離れたところでブラッシングをし始める獣人組。 

 ちゃんと料理に入らないよう配慮してて偉い。


「んぎっ!! 尻尾もげる!!」

「これめちゃくちゃ取れるぜ! 楽しいな!」

「もっと優しく!! バカ『無頼』!!」


 なお、アメノサさんは少しだけ目に涙を浮かべてたもよう。

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― 新着の感想 ―
換毛ブラシは、手袋型がいいよね〜 撫で回すだけでとれるから猫も嫌がらないのよ
アメノサさんダイレクトアタックが可愛かったw
毛が抜けるのなんか楽しいですからねw 同じくやってみたい。
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