洗う必要なし
「おひしひ」
「しっかりと甘いのにコーヒーやチョコレートの苦みやコクも確かにある」
「アイスだから当然なのですけれど、冷たくて美味しいですわ!」
「ほぼアイスじゃが、土台にスポンジケーキがあるな。そこにコーヒークリームが挟んであって、良いアクセントじゃわい」
結構好評だな、アイスケーキ。
俺食べた事無いんだよね。
わざわざアイスケーキを買わないんだ……。
男の一人暮らしなんて、年に一回買うか買わないか。
それもバラエティーパックの六個入りに好きなの詰め込んで終わりだし。
そういや、高校の同級生にバラエティーパック12個をオレンジソルベで埋めた友人がいたな。
その時はバラエティーの意味を本気で考えた。
……彼は元気だろうか?
「ゆっくり味わいたいのですけれど、アイスだから溶けてしまいますわね」
「状態保存の魔法をかけることも可能だが、やはりアイスはそのまま食べたい」
「ラベンドラに完全同意だ。アイスとは溶ける所も含めてアイスなのであって、溶けないアイスなどはアイスとは呼ばん!!」
……あるんだよなぁ、溶けないアイス。
しかもコンビニに売ってる。
あの杏仁豆腐のアイス、結構美味しくて好きなんだけど……。
でもマジャリスさんに紹介したら、
「これは杏仁豆腐を冷やし固めた物であってアイスではない」
とか言われそうだ。
黙っておこう。
「? どうした? カケル? 早く食べないと溶けるぞ?」
「え? あ、いただきます」
なんて考えてたらケーキのシルエットが緩んできてた。
じゃあいただきますか。初アイスケーキ。
「あ、美味い」
結論、普通に美味い。
そりゃあアイス店のレギュラーフレーバーがメインで使われてるんだから不味くなりようが無いんだけどさ。
普通のフレーバーには無い、ケーキならではのデコレーションたちがかなりいい感じにしてくれてる。
まずアイスの上に絞られたクリーム。
チョコレートクリームで甘さはアイス自体よりもやや弱め。
その代わりチョコレートの香りを先鋒として口の中に広げる役割がある。
そして散らされたローストアーモンドの香ばしさと、後掛けチョコソースの甘さとコクが次鋒として職務を全う。
メインにして中堅ポジションのアイスフレーバーによる、コーヒーの香りとほろ苦さ、そしてこのケーキ一番の甘さがしっかりと口内に伝わって。
副将で土台を支えるコーヒー風味のスポンジとクリームが、食べているものがケーキであるという事を思い出させる役割を果たし。
全てを飲み込んで、大将であるコーヒーを口に流し込めば、口に残った甘さを苦みとコクでしっかりリセット。
次なる一口にもしっかり身構えられるって寸法よ。
……アレ? これでいいのか?
「アイスのケーキは貴族たちに喜ばれるかもしれませんわね」
「一部レシピを公開した氷菓は既に人気が高いと聞いている。……朝食代わりに食べている貴族も居るとかなんとか」
……朝からアイスか。
夏バテの時なら分からんでもないけど……。
日本人としては、朝もしっかり食べようね、って感想しか出ないな。
日本のチェーン店の朝食メニューとか見てみなよ。
ご飯、納豆、味噌汁、海苔、塩鮭とか出てくるからな。
しかもワンコインで。
朝ご飯はしっかり食べろ?
「我々が懇意にしている貴族の誕生日にでもサプライズで送りつけるか?」
「サプライズするにしてはサイズが大きい。確実に検閲に引っ掛かるぞ」
「毒ではないと保証するのも面倒ですわよ? もちろん、私たちは毒なんて盛る必要ありませんけれど」
「サプライズと言うなら誕生日の一月前に、シェフたちにレシピを教える程度でいいんじゃないか? 流石に何の為に教えられたか察するじゃろ」
まぁ、ガブロさん達にもあるよな、貴族の後ろ盾。
それはそれとして『夢幻泡影』は言う事聞かなさそう。
この人らに首輪つけるの、不可能だろ。
「ふぅ。……アイス無いなった」
「満足ですわね」
「メロンのような果物のギュッと凝縮された甘さもいいが、こうしたアイスやチョコの甘さもいいもんだ」
「ほろ苦くもあり、コクもあったから普通に食べられたぞい」
流石にメロン六玉と比べると食べ終わるの早いね。
まぁ、アイスだからゆっくり食べてられないってのもあるんだろうけど。
「皿に残った溶けたアイスが勿体ない」
「同感ですわ」
……うん。
本人たちの名誉の為に言っとくけど、別にお皿を持って舐めたりはしてないよ?
ただ、お皿と溶けたアイスを分離させて宙に浮かして、飴玉みたいなサイズに丸めて口の中に放り込んだってだけ。
おかげでお皿がピカピカだぁ。
「カケル、このタイプのケーキはまだ種類があるのか?」
「あ、ありますよ。もう二種類ありました」
「ふむ。後日でいい。そちらも味わってみたい」
「適当に期間を開けて買って来ます」
「恩に着る」
「出来ればあの二人がいない時がいいですわ。取り分が減りますし」
「その分多く買って来て貰えばいいだけだろう?」
「あまりカケルの負担を増やすでないわ」
……ガブロさんがそれ言う?
いやまぁ、何と言うか。
甘味よりは明らかにお酒の方が安上がりなんだけどさ。
重量って意味では、お酒の負担も結構なものだぞ?
「よし、では持ち帰りだが……」
「お蕎麦、二人分余ってるんで持って帰ります?」
「いただこう」




