稼ぎ時と見た
「早速食べよう」
「ですわね」
……久しぶりだなぁ、五人で食べるの。
すっかり大人数で食べる事に慣れちゃってるや。
「普通に混ぜて食えばいいのか?」
「ですね」
山掛けそばの食べ方を聞いてくるラベンドラさん。
他にどんな食べ方があると?
「いただきますわ」
と言う事でまずはみんなでお蕎麦をすする。
ん~……んまい。
乾麺では再現出来ない強烈な蕎麦の香り。
麺の程よい弾力と滑らかな喉越し。
そして蕎麦に絡む山芋マンドラゴラの素晴らしい旨味よ。
決して蕎麦の味わいの邪魔はせず、だけども確実に自分も主張をしてくるその姿勢。
山芋マンドラゴラ君、君、かなりの和食材の才能あるよ。
「香りがいい」
「マンドラゴラとも合いますわね」
「何の薬味と合わせても美味いだろうな」
「酒が飲めそうじゃわい」
うむ、蕎麦の評価、上々。
あと、蕎麦を使ったお酒もあるから、当然お酒とも相性はいいぞ。
「つゆが美味いな。蕎麦の香りを邪魔しない、そして、蕎麦の甘みやうま味を引き出す味わいだ」
「マンドラゴラとも合っていますし、最高ですわね。……魚介出汁ですわね」
「醤油の風味もあるが角は取れている。ある程度寝かしたつゆなのだろう」
……言わない方がいいかな。
そのつゆ、生麺タイプの蕎麦に同梱されてる奴です、なんて。
知らぬがエルフ、あるいはドワーフ。
「続いて天ぷらじゃな」
「抹茶塩で頂くんでしたわよね?」
「そうだ。カケルのおすすめだ」
と言う事でお蕎麦は一旦休憩。
みんなのお箸は天ぷらへ。
「おほっ! 美味い!!」
久しぶりに聞いたなぁ、ガブロさんのオホ声。
二度としないで。
「魚の天ぷらが最高に美味いですわ!!」
「サクッとした衣の食感に甘味すらある上品な脂の魚。その身はフワフワで、噛むほどに脂が溢れるほどのノリっぷり」
「塩の塩味と抹茶のコク、苦み。全てが合わさって最強に見える」
「美味い魚だ……。小さな体からは想像も出来ん」
皆が最初に食べたのはキスの天ぷら。
正直、キス天は無限に食えると思う。
塩、天つゆ、抹茶塩と味を変えてさ。
「!? マンドラゴラの天ぷらも美味いぞ!!」
「どれどれ……。!! 美味い!!」
次に食べたのは山芋マンドラゴラの天ぷらか。
俺も食べよう。
……!? え? うま。
え?
「滅茶苦茶美味い」
「想像していなかったな……」
「うグッ……酒……酒が欲しい……」
山芋マンドラゴラの天ぷら、凄いよ。
まずカリっとした衣を歯が破ると、一切固い感触が無いの。
山芋のあの食感すら消えてて、あるのはただふんわりとしたスポンジみたいな食感。
ただ、そのスポンジに歯が当たると、そこから途端に山芋の味とか風味が溢れ出してさ。
なんだろうな、滅茶苦茶美味いとろろを塊にして、そのまま油で揚げた、みたいな。
――まさか!?
「やはりすりおろしてから天ぷらにしたのは成功だったな」
ラベンドラ、お前だったのか。
……いやまぁ、理屈は分かるよ? すりおろした方が舌触りとかいいし、そっちの状態で天ぷらにしたいってのも分かる。
やるな、本当に。
エルフ知ってるか? その工程は、人間には出来ない。
「漬物もいい塩梅の出来ですわ!」
「過去に食べたことあるな。あれも山芋のぬか漬けだったか……」
「あー、確かに出してたかもしれませんねぇ」
漬物期間があったからな。
その時に出したんだ、山芋のぬか漬け。
まぁでも、自家製って意味じゃあ初めてだから、許してクレメンテ。
「スッキリした香りと程よい塩味。噛む度にねっとりと舌に乗るマンドラゴラの旨味がいい」
「ほっほ。天ぷらで口の中に残った油が漬物でリセットされるようじゃわい」
「口の中、と言うよりは鼻だな。油の匂いが漬物の香りで飛ばされるんだ」
まぁ、漬物は香の物って言うし。
そう言う用途なんじゃないですかね?
「漬物の塩味が残った口内に迎え入れる蕎麦が美味い」
「その蕎麦の香りでリフレッシュした口で頬張る天ぷらも美味いぞい」
「そして天ぷらの後に漬物を食べる事で、俺の食事コンボは完成する」
「まさに無限ループ」
食べ物なんだからどう考えても有限です本当にありがとうございました。
「キノコの天ぷらが美味い」
「もう一つの魚の方も美味しいですわよ?」
「と言うか天ぷらってだけで全部美味いじゃろ」
「抹茶塩がかなりいい味をしている」
ちなみにラベンドラさん、当然のように天ぷらの揚げ加減完璧です。
キスやアナゴは身の中心にギリギリ火が通るくらいの塩梅で、噛むどころか箸で切って持ち上げるだけで肉汁が溢れるほどにジューシィ。
キノコや茄子は衣が固くなり過ぎない薄さで、しかも噛んだ時に具材と調和する分厚さに調整されてるし。
なんと言っても山芋マンドラゴラの天ぷらは、とろろを球体に固定して衣を付けて揚げるとか言う人間には出来ないやり方でしているのに、衣の厚さも、火の通りも完璧というね。
さてはお前エルフだな? エルフだったわ。
「こんなに美味しいものの時に来られないなんて、あの二人には同情しますわね」
「仕方がない。大会の調整が膨大なんだ。……特に大会会場付近の出店の管理を割り振られたせいで、どこよりも忙しいだろう」
「ソクサルムが分かってて振ったんだろうな。これぐらい、やれるだろ? とな」
「可哀想なのは各所工房じゃわい。こんなドワーフの祭典なんぞ開かれたら、全ドワーフが休むに決まっておる」
「結果として工房の職員全員が休みになり、余計に大会は活気付くと予想される」
「食材の調達で冒険者ギルドも依頼が舞い込み過ぎててんてこ舞いらしいですわよ?」
「酒だけの大会のせいで、食事にデザート、ツマミにソフトドリンクと、酒以外の出店が鬼のように要請されているからな」
……こわ。
いわゆるカクテル大会のはずなのに、出店みたいな話が聞こえて来た理由はこれか。
酒しか提供されない、つまりはその他は自分たちが出せば稼げる! っていう、商人や料理人たちの思考が噛み合っちゃったのか。
これ、どのツマミとどの酒を合わせるかで絶対議論されるやつじゃん。
変に優勝とか決めても絶対禍根が残るだろ。
「僕は関係ないです」
「? どうしたカケル?」
「ナンデモナイデス」
一応、宣言しといたし。
これで、俺には関係ないな、ヨシ。




