新たな食材
いつも通りに明日食べるものを用意しようとしたら、
「明日は朝から王の所へ向かうから」
と言って断られちゃった。
献上する物がモノだけに、相当な歓迎を受けることになるだろうって。
そこで満腹になってて何も食べないとあっては無礼に極まるって事らしい。
ちなみに、王の所へ向かう前に領主の所にも顔を出すとのこと。
こっちについては、既に人が動いているようで、その人に任せてるってさ。
信頼するに値する人物って事で、特に不安とかもないらしい。
「じゃあ、明日は朝から豪勢な食事になるんでしょうね」
それにしても王の歓迎かぁ……。
こう、イメージとしては大量の食事に盛りだくさんのフルーツ。
滅茶苦茶長いテーブルにそれらが所狭しと並べられてる感じなんだけど……。
何故にこの人たちの表情は暗いので?
そう言う堅苦しいのが嫌いなのかな?
「ただなぁ……」
「どうあってもカケルの料理より美味しいという事は無いだろうからな」
「そうなんです?」
またまた、おだてても何も出ませんよ?
何で喜ぶかもまだ把握してないし。
「食材としては希少なモンスターだったり、香辛料を使った料理ではあるだろうが……」
「煮ただけ、焼いただけ。それに香辛料などで味を付けただけ、な料理ばかりですもの」
「味に深みがない。もちろん、モンスターの素材の味を最大限に引き出していると言えば聞こえはいいが……」
「逆に言えば、モンスターの素材の味を越えることは無いんじゃわい。どこまで言っても素材の味の延長線上じゃ」
……なるほどな?
いやまぁ、でも日本食も割とそんなとこない?
素材の味を生かした~とか、よく聞くじゃんね。
「その点カケルの作る料理よ。素材の味は確かにあるが、味付けはそれをさらに引き立てるものばかり」
「ソースやスープなど、素材よりも味の濃いものももちろんあるが、それらですらメインである食材の良さを引き立てている」
「このカレーなんてもっと凄いですわよ? 絶対にどんなものを入れても、それを主役に押し上げんとするポテンシャルを感じさせますわ!」
「それを言うならクリームパスタもじゃろ。あれも何を入れても絶対に美味いという確信があるわい」
う~む。
結局何と言うか、『旨味』の底力、みたいな印象なんだよな。
出汁って概念とかって、日本人が古くから培ってきたものじゃん?
もちろんよその国にも無い事は無いけど、日本ほど深く追求してない、みたいな。
魚の種類によって出汁の味が変わるとか、俺らからしたら当然とも思えるけど、実際にみそ汁を飲み比べた外国人は驚く、みたいな。
結局は作る俺が凄いんじゃなく、これまでの歴史の積み重ねだと思うんだけどなぁ。
「まぁ、だから、その……なんだ? 明日の夜はまた美味い物をぜひ……」
「言うだけ無駄じゃろ。カケルの料理が不味かった試しがないぞい」
「そうだそうだ。言うだけ無粋だ。ただカケルを信じてここに来ればいい。それだけだ」
なんて、三人が言っていると。
「私達に出来ることは、食材と宝石を置いて楽しみに待っている事ですわ」
と、リリウムさんが言った。
瞬間、あ、やべ、と察した俺と。
確かに、と表情だけで納得している三人。
そして、案の定、
「そう言う事なら食材を渡さんとな!!」
ガブロさんからでっかいお肉が渡されたよ。
ブタノヨウナナニカみたくピンクっぽくもなく、脂肪の白すら見えない赤い肉の塊。
見た目は……うん、牛肉っぽい。
けどなぁ、この大きさの牛肉で、サシが一切無いってのが不気味すぎる。
元の大きさどうなってるんだよって感じ。
「その肉は若干筋っぽい。そこを考慮しておいてくれ」
俺が取り出されたお肉を観察していると、そんなアドバイスをくれるラベンドラさん。
ありがてぇ。
……ありがてぇんだけど、どうせなら何のお肉か説明をですね?
あの、無言で帰る準備進めないでもろて。
「それじゃあカケル、明日の夜を特に楽しみにしている」
「マジャリス、そこまで強調するとプレッシャーになるぞ?」
「どれだけ王との会食が嫌なんじゃ……」
「素直に出てくる料理を楽しめばいいのですわ。カケルの料理を知らなければ、贅沢な料理なんですから」
うん、あまり期待しないで貰えると助かります。
……にしても牛肉かぁ。
どう調理しても美味いけど、一体どうしたもんか。
「それじゃあ、また明日」
「本当に楽しみにしている」
「じゃからやめんかっての」
「では、お邪魔致しましたわ」
と言って、魔法陣に消えていく四人。
……まぁ、明日は休みだから、そこそこ手の込んだものは作れるけど……。
――ん? 待てよ? 何か忘れてるような……。
あっ! 徳さんから頼まれてたやつあるじゃん!
あれ作んなきゃ!!
となればこの貰ったお肉が本当に牛肉っぽいのかを確かめねば。
いつも通りの塩茹でからの試食!!
――うん。言われた通りちょっと筋っぽいけど、牛肉みたいで間違いない。
少し固い気もするけど、その分噛んだ時にうま味が溢れてくる。
すっごいジューシーな肉ガム、みたいな印象。
そこまで噛み切れない程の固さじゃないし、普通に牛肉として使えそうだ。
このギュウニクカッコカリ、ありがたく使わせてもらおう。




