特級呪物
「抹茶のテリーヌが濃厚で最高だった」
「杏仁の爽やかな感じも負けてない」
「酒飲みには水羊羹だろ」
「じゃな」
「プリンおぶゴッド」
「レアチーズケーキが大変美味しかったですわ」
……残ったら持ち帰りって伝えてたじゃん……。
なんで普通に全部平らげてるんだよ……。
おかしいだろ。
そもそも食べ過ぎたとか言ってなかったっけ?
何人前食べたと思ってんだこの人ら……。
「明日は果物ゼリーらしいからな。楽しみだ」
「ですわね」
この調子なら、明日は各二本ずつ買ってくる羽目になりそう。
……待てよ?
デザートがあるから食うのでは?
と言う事は、各一本だけ買ってきたら、それらを食べきったら満足するのでは?
……試してみる勇気はないなぁ。
「む、そうだ、カケル」
「? どうしました?」
「農業ギルドから依頼が来ていたんだった」
……?
なんかすごく嫌な予感が……。
「マンドラゴラの変種が確認されたとかで、捕獲したらしいのだが、……呪いが強くて扱えないという事らしい」
「あー……」
「カケルの解呪能力、おかしいもんね」
「いや、俺が凄いわけじゃあ……」
どう考えても凄いのは現代の塩と言うか、それらなわけで。
俺じゃなくても解呪は出来るんだよな、塩さえあれば。
「食べるどころか触れるだけで猛烈な痒みに襲われるというマンドラゴラの変種、託していいか?」
「? まぁ、構いませんけど」
「返事軽っ!?」
返事が軽いとか言われたって……だって、ねぇ?
マンドラゴラとは異世界に存在する生きた野菜たち。
そんな野菜の中で、触ると痒くなるようなものと言えば……。
そう、山芋だよね。
むしろ今まで出てこなかったのが不思議な位だったんだよな。
山芋があれば天ぷらにステーキ、お好み焼きとか色々出来たわけで。
ここまで登場が遅れたんだ、美味しくなきゃ許さないからな。
「……出しても構わないか?」
「はい、お願いします」
「それ」
……うん?
今までは、と言うか、これまでの流れ的に凄く大きな山芋を期待したのだけれど……。
見た目は山芋と言うかさつまいもなんだが?
一応皮の色はベージュと言うか、普通の山芋のソレと同じだけどさ。
形状がさつまいもなのすっごい違和感だな。
「では、頼む」
「はぁ……ん? これ一つだけです?」
「そうだ」
「一食分にもなりませんよ?」
確かにさつまいもサイズの山芋なら、一人分くらいは十分に賄えるとは思うよ?
でもさ、都合七人分になると、途端に足りなくなるのくらい、理解はしてるよね?
流石に異世界のエルフと言えど、分量は間違わないだろうし……。
「安心しろ。そいつは様々な研究の末に産まれた変種だ」
「はぁ……」
「ドラゴンの肉が、刺激が無くなると即座に生肉に戻る再生力ならば、そのマンドラゴラは刺激が無くなるとその形状に戻る」
「……はい?」
「原型の三分の一ほど残っていれば、数秒でその形に再生するはずだ」
「無限食材じゃん……」
「そう言う研究の果ての産物だからな。だが、色々と掛け合わせすぎたせいか、触れるだけで呪いの影響がある」
「やってることがマッドサイエンティストのソレなんですけれど……」
まぁ、この大きさでも全員分が賄えるのならばいいや。
……本当は良くはないんだろうけど。
あと、凄く今更なんですけど……。
「俺が触ってるのは大丈夫なんですかね?」
ガッツリ受け止めてますけど。
*
「酢にも解呪効果があるの?」
「いや、山芋の痒みに効くってだけで……」
結論、影響ありました。
で、どうも酢水で洗ってもそこまで痒みは緩和されないね。
やっぱり普通の山芋とは違うのか。
「持ち帰りの料理はこちらでしよう」
「すみません、お願いします。その間に手の痒みを何とかするので……」
ちなみに恐らく初めて受けた異世界の呪いの痒み、凄く不快。
蚊に刺されたみたいな表面的な所じゃなく、骨にくっついてる肉の部分が痒い、みたいな。
皮膚の内側に痒みがあるもんだから搔きむしっても全然痒みが収まらないんだよね。
むしろ届かないもどかしさで余計に痒く感じる。
爪切った日で良かったよ。伸びてる時だったら確実に皮膚破って搔きまくってるわ。
「とりあえず解呪の為に塩水作りますか」
「酒でもええんじゃないのか?」
「流石に勿体ない気持ちが勝っちゃいますね」
炒り塩水より清酒の方が解呪効果は高いんだけどね。
バハムートクラスじゃないと清酒はやり過ぎ感がある。
「……ふぅ。――ん?」
で、炒り塩水を作って手を付けたら、嘘のように痒みが引いていき……。
炒り塩水に、俺の手から紫色の何かが滲み出る。
……怖すぎんか?
「呪いが……あっさり……」
「やっぱすげぇな、カケル。解呪士としてうちの国に来ねぇか?」
「抜け駆けは許しませんわよ!? カケルは私たちのパーティに入るんですからね!!」
「決まってませんよね?」
俺じゃなく塩を欲しがれ塩を。
……やっぱ俺を欲しがって欲しい。塩に負けるのはなんか嫌だ。
「とはいえ、触るだけで呪いにかかるんじゃあ、ちょっと考えなきゃですね」
「ちょっとで済むのか……」
「そこはまぁ、これまでの経験から……」
角煮サンドを作り終えたラベンドラさんに言われるけど、当てがないわけじゃない。
とりあえず、明日は軍手を買って来なくちゃなぁ……。




