エルフ式調理術
「すまない、厨房を貸してくれるか?」
「あいよ。好きに使っておくれ」
リリウム達が宿泊している宿屋の一階。
そこは、酒場や食事処として利用されており、こうやって申し出れば宿泊者が自分で調理をすることも可能。
ラベンドラは、そこで翔に教わった料理を作り始める。
「オレンジマンドラゴラとブラウンマンドラゴラを洗って泥を落とし、適当に切る……」
そう言いながら虚空から取り出した、人参のようなシルエットに顔のあるものや、ジャガイモのシルエットに足の生えたものを食べやすい大きさにカット。
「カラフルスワンプトードの肉をバターで炒める」
翔と同じくたっぷりのバターを使い、肉を炒め。
そこに、先程切った野菜を投入。
「後は水を入れ、具材が柔らかくなるまで煮込むんだったな」
なお、異世界には鍋の元スープなどあるはずもなく、パッケージ裏に書かれた通りのレシピで作っていくラベンドラ。
すると……。
「いい匂いがするわい」
食いしん坊のガブロが目を擦りながら降りてきて。
「ガブロか。……丁度良かった。オークバターを頼む」
「む、了解した。――ホレ」
そんなガブロにラベンドラが頼むと、ガブロは真っ白な塊をラベンドラに投げて寄越す。
それを魔法で浮かせてキャッチし、カレーの具を煮込んでいる横で細かくカットしていって。
「頼んでおいた焼く前のパンを貰えるか?」
宿の女将へとそう言って、前日に頼んでおいた、後は焼くだけとなったパンを受け取ると。
手で押さえ、平たく伸ばしていく。
そして、
「具材はもういいだろう」
柔らかくなったことを確認し、カレールゥを投入。
瞬間、爆発的に広がるカレーの匂い。
その匂いは、一度食べたことのある人物の脳みそをぶん殴るには十分で。
「その匂いだけで腹が減るわい」
既に起きてきているガブロはもちろん。
「カレーか!?」
どたばたと起きてきたマジャリスと、
「いい匂いですわ」
いつの間にかラベンドラの背後に転移してきたリリウム。
「後はコイツを包む……前に」
そんなメンバーを気にもせず、新しい鍋に少量の水を張り、熱していくラベンドラ。
そこへ、先程細かく切った、オークバターと呼ばれた白いものを大量投入。
すると……。
「これもいい匂いじゃのう」
「オークバターか。また珍しいものを」
「一体どうなるのでしょう」
既にテーブルに着き、完成を待ちわびる三人と。
カレーが出来た時から気になるのか、チラチラとラベンドラと鍋とを見ている女将に見守られ。
ラベンドラは、パンにカレーを包んでいく。
「あまり欲張らない量、だったな」
翔の忠告を聞き、控えめな量のカレーを掬うと、魔法で浮かせ、球体にしてパンで包む。
これを繰り返し、用意されたパンが無くなる程に包む頃には、オークバターを熱していた鍋がいつの間にか油で一杯になっていて。
そこへ、カレーを包んだパンをすかさず投入。
揚げ物のいい音が響き、女将のさらなる興味を引き付けた時。
「少し残った。味見をどうだ?」
ラベンドラとしては、ほんの好意。
厨房を借りたお礼程度の認識だったが、そもそも異世界の料理だという事をしっかりと失念。
しかも、香辛料が――この世界では希少なスパイスが大量に入った料理を差し出された女将は、ごくりと生唾を飲みこみ。
小皿のカレーを、少し飲んで……。
…………また一人、カレー中毒者を産まれさせてしまう事態へとなった。
「そろそろか」
そんな事は露知らず、カレーパンの出来具合を見守っていたラベンドラは、完成が近い事を察知。
「リリウム」
「何でしょう?」
そこで、リリウムへ、
「オズワルドを拉致って来い」
「任せてください」
当たり前のように指示を出し。
指示を受けたリリウムも、さも当然のように姿を消して。
数秒後、指示通りオズワルドを連れて戻ってきた。
「い、いきなりなんだ!?」
あまりにも突然な事に驚きを隠せないオズワルドだが、その前に。
「カレーパンだ」
出来立て揚げたてのカレーパンが提供されて。
リリウム達にもカレーパンが差し出され、三人は迷うことなく手に取りパクリ。
ザクッ! という揚げ物特有の心地よい音を響かせ、噛みついた三人は。
「美味い!!」
「美味いのう!!」
「これ! 凄くとてもすごいですわ!!」
大絶賛。
その様子を見たオズワルドも、当然かぶりつくが……。
「んぐっ!?」
まさか中に何か入っているとは思いもせず。
突然襲ってきたカレーの不意打ちに、思わず咽る。
「か、辛い!?」
舌に襲ってくる刺激。
揚げられた香ばしいパンと共に、鼻を直撃する香辛料の香り。
口内に広がる様々な風味に、身体を熱くするほどの辛さ。
それらを、一切の事情を知らないオズワルドは意識の外から受け止めなければならず。
まず最初の感想は、味についてではなく刺激についての物となった。
だが、
「美味い……」
辛さの後。
そこから襲ってくる旨味に圧倒され、ただただそう呟くしかないオズワルドは。
「美味い!!」
唸りながら、あっと言う間にカレーパンを完食。
「おかわりもあるぞ」
というラベンドラの言葉に、反射的に頼みそうになる――が。
踏みとどまり、考え込むようにあごに手を当てた後。
「なぁ……物は相談なんだが……」
と言って四人へ、
「この食べ物、王に献上してみないか?」
驚くべき提案をするのだった。
オークバター:オークの体内にある脂肪の塊。上質な脂として用いられるが、オークの肉や血の匂いが付きやすく、解体に手間取ったり、雑にすると耐えがたい生臭さを有してしまう。その為、匂いの付いていないオークバターはそれなりの高値で高級店や貴族、王族に買い取られる事が多い。




