卵とお肉……
背中の肉だけど、確か脂が多いんだっけ?
それを洗いにするってのもなぁ……。
神様、炒り塩水に浸しさえすれば解呪出来るんですよね?
(じゃぞ?)
……作るか? ドラゴンのタルタルステーキ。
ちなみに油で揚げた場合も刺激が無くなったら元に戻ります?
(戻るじゃろうな)
どうしろと……。
(ふむ……そうじゃのぅ。……まず、よーく肉を叩く)
ふむふむ。
(次に玉ねぎとりんごをすりおろした物をよーく肉にまぶす)
ふむふむ。
(塩コショウを振って焼く)
……シャリアピンステーキでは?
もしかしなくてもだけど。
(なんじゃ、あるではないか)
いや、有る無しの話ではなくてですね。
それでドラゴン肉の再生の特性が消えるかって話で……。
(神の言う事じゃぞ?)
あ、はい。
じゃあなんも言えねぇわ。
んじゃあ言われた通り玉ねぎとりんごを……いや待て。
無いって、そんなピンポイントでリンゴとか。
(えー)
えーとか言わない。
神様でしょ。
え、マジでどうしよう。
もういっそ、フライパンから直接口の中にダイブさせるか?
火傷と隣り合わせな危険行為だけど……。
……待てよ?
「刺激さえ与えていればいいんですよね?」
(じゃな)
「じゃあ指で揉んだりしていても?」
(元には戻らんな)
……やるか、ドラゴン肉手掴み食い。
某漫画の会長がステーキを手づかみで食ってたけど、まさか似たような事をすることになるなんて……。
バターを溶かしたフライパンにドラゴンの背肉をそっと乗せ、色が変わったらひっくり返す。
ひっくり返したら塩コショウを振り、焼き加減はミディアムに調整。
しっかり洗って殺菌した手袋を装着し、焼き上げたドラゴン肉を持ち上げて……。
元に戻らないように、そして肉汁を絞らない絶妙な力加減で肉を揉む!
その間に息を吹きかけ冷まし、口に入れても火傷しない温度まで冷まして……口へ。
まず味わうよりなにより噛んで刺激を与え、生に戻らないように注意して……。
試食なのにやることが……やることがあまりにも多い……!!
「いやうめぇんだけどさ」
なお、労力に見合う味わいではあるもよう。
頬肉の脂よりもコクがあってうま味も強い。
それでいてサッパリしてる不思議な脂の感じ。
身質自体は牛肉のソレなんだけど、脂の味的には白身魚とかの脂の感じなんよな。
バターのコクと合わせて口の中一杯に旨味が広がるし、こりゃうめぇわ。
身質は牛肉と言っても確実に和牛のソレ。
噛んだ瞬間にパッとほぐれて旨味のジュースに変わる感じ。
飲める、とまでは言わなくても、ほぼ液体って表現は出来る。
そんな美味しさ。
「問題は手間よ」
あまりにも調理が面倒。
というか、食べる時も気が抜けないのが本当にダメ。
食事はゆっくり楽しくするもんだぞ。
食材が食う側を急かすんじゃあない。
「これじゃあ鉄板焼きとかでしか食えないじゃん」
……言ってて思う、俺ひょっとして天才?
そうじゃん、鉄板焼きなら常に刺激があるわけだし、生に戻らないまま食べられるじゃん。
一食決まったな、何するか。
「ちなみに神様」
(なんじゃ?)
「ラベンドラさん達もこんな風に苦労してるんです?」
それは、何となく聞いた一言だった。
ただ、その一言が、異世界組のチートっぷりを思い出させるものであり。
(? 焼けた状態で状態保存の魔法をかけとるが?)
どうあがいても、現代生まれの人間程度では達成出来ない壁を作り上げていた。
「……ズル」
ようやく俺が絞り出した一言が、この時思っていた俺の全てである。
マジでズルい。
*
はぁ、気を取り直して首肉いこう。
確か、脂と赤身のバランスがいいんだったか?
ん~……洗いでいいか。
というか、試食なのにそのまま食べさせてもらえないって改めてドラゴン厄介だな。
(そんなところで厄介に感じとるの、お主だけじゃぞ)
うるさいやい。
茹でたら即座に冷水ダイブ。
からの氷の上に置いて条件はクリアー。
今度は再走無し、確実に腕が上がっている。
……絶対に現代で必要ないスキルだろコレ。
「おー、もっちり系か」
洗いにしてあるのに意外にもその食感はもっちりとしたお肉。
例えるなら馬肉かな。
でも馬肉よりは脂が入ってて、その分脂の旨味も追加されてる。
冷たくてもお肉が固くならないのが救いか。
「なんか、当たり前に赤ワイン飲みたくなってくるの、あの人らの影響なんだろうな」
こう美味い赤身肉を食べると、赤ワインの渋味や酸味を求める体になりつつある。
そんなことを一人でしてたらあの人らに何言われるか分からないからしないけど。
(せんのか)
しませんよ。
というか、今それやったらあの人ら、嗅ぎつけて戻って来るとかワンチャンやりかねないし。
(確かに)
でしょう?
……さて、一通り味わったけど、やっぱまずは鉄板焼きかな。
野菜とか買って来て一緒に炒めて、ガーリックライスも前の時みたく作って貰って。
「……お腹すいてきた」
寝る前に、しかも食後なのにこんなこと考えたせいでお腹すいてきたじゃん。
明日の事は明日考えよう、おやすみ!!
*
「……あれ?」
ドラゴン肉、昨日試食したよな?
貰ったままの状態な気がするんだけど……。
あれって夢だった?
(カケルやい)
なんです神様?
(ドラゴンの肉は生命力が凄いと言うたじゃろ?)
言ってましたね。
あれ……? でもそれって夢の中じゃあ……。
(夢ではない。ドラゴン肉はその生命力で元の形状に戻っただけじゃ)
……それ、生命力って言うか再生力って言うか……。
てことは何?
これ、このまま放置してたらドラゴンに戻る?
(流石にそれは無いわい。ペグマ刀……こっちで言う日本刀じゃな。それがドラゴンの生命力すらも断ち切っておるから、その形状にしか再生出来んぞい)
……ラベンドラさんがオーバースペックって言ってた意味、ちょっとだけ分かった気がする……。




