いなりラブラブ天驚拳
「私の魂が真っ赤に燃える。いなりを食せと轟き叫ぶ」
燃えるな、叫ぶな。
大人しく食べてください。
「うっめぇなこれ」
「分からないものばかりなのに味が絶品すぎる……」
「酒との相性もばつ牛ンじゃわい」
「お寿司っていっぱいありますのね!」
「カケル!! この黒いのなのだが!!」
アメノサさんが某ロボットパイロットみたいな台詞を言ってるのにそれに関してはみんな無視、と。
ははーん? さてはまた翻訳魔法さんの仕業だな?
俺は詳しいんだ。
「黒いのはひじきと言って、海藻になります」
「海藻なのか……」
「てっきり魔物の尻尾の毛なのかと思いましたわ」
「流石に毛は食べられないでしょ……」
そりゃあ、ひじきは漢字で『鹿尾菜』と書くらしいけどさ。
いや、読めんて。この漢字をお出しされてひじきっては読まんて。
あと、まるで異世界だと毛も食材みたいな言い方してるけど……食べないよね?
「え?」
食べないよね!?
「出汁が溢れるほどに混ぜて焼かれた卵は最高じゃなー」
「この白いのを乗せてサッパリ食ってもうめぇし、そのまま出汁と卵の旨味に浸ってもうめぇ」
「そして何より?」
「「酒に合う!!」」
まーじで仲いいな、飲兵衛コンビ。
……あと、
「うめ……うめ……」
アメノサさん、ずっといなり寿司食べてるけど止めなくて平気?
量はまだあるけど、今まであんなに食べてたかなーって。
ちょっと不安になってくる勢いで食べてるんだけど。
「かゆ……うま……」
いや止めないとダメだろそれ!?
「勢いよく食い過ぎだ。のどに詰まるぞ」
なお、俺が止めようとした一瞬前に『無頼』さんがアメノサさんを制止。
そっとお茶を差し出して飲ませるプレイング。
こーれはお兄ちゃん力高いですねぇ。
「カケル! この料理の名前何!?」
「いなり寿司ですけど……」
「私、今日からイナリと名乗る! それくらい好き!!」
なんか色々とややこしくなりそうだからやめません?
ワンチャン八百万の反感を買うぞ?
ヘイ神様? こちらの世界の神様たちの反応を教えて?
(全員でサムズアップしとるが?)
いいんだ。イナリ名乗り。
その心は?
(これでわしの居る世界と足掛かりが出来るからこれを機に乗り込んで――ダメじゃ駄目じゃ絶対にダメじゃ!!)
……神様同士で話し合ってください。
ボクハシリマセン。
「あー……俺が知ってる伝承に、お揚げが大好きな狐の話がありましてね?」
「?」
急にどうした? みたいな顔で見られるけど無視。
「その狐は五穀豊穣を司る神様の使いなんですけど、その神様にお供えする時に俵を模したこのいなり寿司を納めるようになったという経緯でして」
「ふむふむ」
「イナリというのはその神様の名前なので」
「安易に名乗るのはダメ?」
「というか、神様が怒らないかなーと」
「……ふむ」
だいぶ短くしたし、適当に言ってる部分もある。
ただ、異世界の神様的には名乗らせたくないみたいだし……。
これ位雑な説明で納得してくれると嬉しいんだけど……。
「分かった」
「ホッ」
「でもレシピは頂戴」
「あ、はい」
大丈夫だったな。
レシピ程度ならお安い御用ですよ。
……どこからだ?
豆腐をお揚げにする工程からか?
それとも異世界ピーナッツを豆腐にする工程からか?
にがりとかラベンドラさん達も分かってないのに大丈夫か?
もうどうにでもな~れ。
「すまし汁が美味い」
「ただただ純粋な、研ぎ澄まされた旨味って感じですわ」
「ふわりと広がり柔らかい風味と旨味。それらは繊細で、呼吸の時に入ってきた空気と触れ合う事で様々な変化をする」
「酒の後に最適な汁物じゃわい」
「美味すぎて黙りこくって深呼吸しちまうンだよな。この椀物」
すまし汁も大好評と。
作ったの俺じゃないけど。
さて、じゃあ俺もいなりを頂きますか。
……すっかり量は減っちゃったけど。
「ん~」
最の高ですわよのさ。
お揚げが吸った出汁がまた上品でねぇ!
イセカイカワブタの出汁の旨味はそのままに、醤油の香りや塩味と砂糖の甘さのバランスがもう有頂天。
こう、助六寿司とかに入ってるいなり寿司とも、お寿司屋さんで食べるいなり寿司とも一線どころか三線くらい画してる美味しさ。
そこに同じイセカイカワブタ由来の旨味たっぷりの炊き込みご飯と、ひじき、枝豆の食感がプラスされてもう大変。
このいなり寿司なら、いなりが食べたくてお寿司セットを頼んだのにいなりが入ってなくて暴れる気持ちも分かるってもんよ。
「あ~……最高」
その後にすまし汁をすすれば、和の心ここに極まれりって感じ。
なんだろうな、マジで目を閉じれば高級旅館の食事と言われても俺は疑いなく信じるね。
それくらいの旨味とわびさびの雰囲気を感じるわ。
「なぁカケル」
「はい」
「このいなり寿司に入ってる緑色の豆、これはなンだ?」
「枝豆ですね。元は……というか、大豆の未成熟の果実です」
「……それって昨日の白いのの原料な訳だろ?」
「です。あ、今日のお揚げも豆腐の加工品なので、元を辿ればラベンドラさん達から渡されたアレですけど」
庭でブルーシート巻いて置いてるアレね。
異世界ピーナッツね。
「昨日の白いのと今日のこれが同じ材料から作れるのか?」
「ですよ?」
どうしたんだろう『無頼』さん。
すっごく信じられないみたいな顔してるけど……。
「何つーか……不思議なもんだな、食材って」
なんとか自分の中で折り合いをつけられたらしい。
これ、味噌とか豆乳プリンとかも出して困惑させたいな。
明日辺りやろうかしら……。




