現代法則の敗北
「カケル、湯呑にこの間の焼酎だけ注いでくれ」
「ストレートで飲むんですか?」
ご飯をよそっていると、『無頼』さんにそんな事を言われた。
焼酎、あまりストレートで飲むなんて聞いたことない気がするんだけど……。
「いや、こいつを入れる」
と言って取り出されたのは……クルミ?
なんかよく分かんない、恐らくは木の実っぽい真っ黒な何か。
「おぉ、そいつか!」
で、ガブロさんは何か分かっている様子。
ちょっと説明を。
「それは何です?」
「あれじゃ、氷の逆じゃな」
「??」
「こいつは温度が低いと溶けだして周囲を熱する性質がある水が凍ったものだ」
水じゃないだろ、それ。
そして凍らないだろ、その性質じゃ。
「こいつを焼酎に入れりゃあ、ロックの気分で熱燗が飲める。そうだろ?」
「いやまぁ、そりゃあそうかもですけど……」
あったかいロックの焼酎って事?
自分で言っといてなんだけどぜんっぜん意味が分からない。
なんだろう、気軽に物理法則無視したもの出すのやめて貰っていいですか?
「とりあえずストレートで出しますよ」
「構わねぇ」
「ガブロさんはどうします?」
「わしはお湯割りじゃな。最初からロックでアクセル全開という気分じゃないわい」
お湯割りですら最初に飲むものじゃないと思いますけど……。
いやまぁ、宅飲みだから好きなもん飲めばいいとは思うけどさ。
「で、皆さんはもちろんワインですよね?」
「おう」
「当たり前ですわ」
「ワインいずゴッド」
ツッコまない。俺はツッコまないぞ。
さて、本日振舞うワインはやっぱりドイツ産。
甘口の白ワインで、特に果実味と香りの強い一本だそうだ。
甘口だと合わせる料理を選びそうだけど、豆腐……というか日本食って甘い味付けが当たり前にあるし、調和するんじゃないかって事で。
「む、絞りかすだと侮っていたが、全然美味いぞ!?」
あー……うん。
翻訳魔法さん? 絞りかすじゃなくておからね。『お・か・ら』。
「香りは華やかで旨味はしっかり。野菜やきのことも相性がバッチシですわ!!」
「味付けには闘魚倭種の乾燥節が使われている。その相性ももちろん抜群」
「この旨味や香りが焼酎と相性が天井知らずだ。いくらでも飲めちまわ」
「お湯割りのゆっくり膨らむうま味と共に、口の中でずっとずっと膨らみ続けるぞ~い」
おから、美味しいよね。
特にこの、ふりかけか? って思う位にからっからに炒ったおからが俺は好き。
香ばしさが食欲をそそるんよ。
「甘口の白ワインとすっごく合いますわ!」
「香り同士は邪魔することなく、旨味は甘みと手を取り躍る。後味に少しだけあるスパイスのニュアンスが、余韻をしっかりと演出して楽しませてくれる」
「甘いだけじゃなく塩味も感じられる不思議なワインだ。このおからと不思議と合う」
焼酎組もワイン組もおからでまずは飲んでおりますわ。
……俺も食べよ。
――あー、これこれ。
子供の頃に食卓に出ていたあのおからの味。
懐かしいなぁ……最初はそこまで好きじゃなかったんだよね。
それがなんか、食べ続けるうちに自然と好きになっていたというか……。
いや、待て。
記憶にあるおからより全然美味いぞ……。
口の中の水分を持って行くもそもそ感が全然ない。
炒られてからりとしながらも、噛むとうま味の汁が溢れる。
しかもそれは、イセカイカワブタ節の旨味も含めた極上の出汁。
そこにシイタケや人参の食感、ちくわのほんのりとした塩味と合わさって……。
全然おかずになるじゃん。
ていうかこのおから、ふりかけとして機能するだろ……。
美味すぎるんよ、単純に。
「焼酎の温ロックはどうじゃ?」
「うめぇぜ? 加水すると香りや味が膨らむ酒だが、ロックの時はその過程が楽しめる。ストレートのダイレクトな酒の味から、徐々に広がっていく様子を口ン中で楽しめるってのは乙なもンだ」
「わしにも『――』をくれ」
「構わねぇぜ? マスター、ガブロにも焼酎の温ロック一丁」
誰がマスターだ誰が。
あと、その注文ならマスターより大将の方がしっくりくるだろ。
風情を守れ風情を。
「どうぞ」
なお、一応店のマスターっぽく口数少なく、そしてややぶっきらぼうに焼酎を注いでみる。
俺のイメージがそうなんだ、すまない。
「ん~……この強烈な酒! という感じがたまらんのぅ~」
「だろ? んで、こっから広がりと伸びを楽しみながらチビチビやンのさ」
「お主がいける口で本当に良かったわい」
……これあれか?
酒飲みのガブロさんを、『無頼』さんがたった一人で相手出来てるって事よな?
いや別に、今まで暴れてたわけじゃあないんだけども、酒の事になると結構騒がしかったし。
だいぶ助かってるんじゃないか? これ。
「みそ汁が美味い」
「お豆腐の滑らかな舌触りが凄いですわ」
「豆腐からも出汁が出ているようだ。闘魚倭種だけの出汁の味ではない」
「マジです?」
と言う訳で気になったお味噌汁を一口。
あ……うめぇ。
ホッとする味と同時に、いつぞやの即席みそ汁のコマーシャルみたく、ご飯を頬張ってみそ汁を飲むってのを繰り返したくなる。
ていうか、やる。
……あー、白米が美味い。
んで、白米が口の中にある状態で飲む味噌汁が美味い。
ていうか出汁の美味さが秀逸すぎる。
旅館とかでも太刀打ち出来ないレベル。
某漫画の美食陶芸家が満足するレベルだわこのみそ汁。
「さて……」
「それでは……」
「このメイン料理に入るか……」
……いや、その。
ただのゴーヤチャンプルーなんですけど?
そんなに覚悟が必要ですか?
「カケル、一応聞いておくが」
「はい」
「毒は無いんだな?」
「あるわけないでしょ」




