酒のターン!!
「そう言えばなんですけど、この魚のヒレとかってないですよね?」
「? 何故そんな事を聞く?」
もうすぐ食事が終ろうかというタイミングで、ふと思い出したことがある。
俺自身が飲まないからすっかり忘れちゃうね。
「この世界には河豚のヒレ酒と言うものがあってですね……」
「酒か……」
で、ですね?
言ってて思ったわけですよ。
俺の想像する……と言うか、俺らが知る普段の河豚のサイズはまぁ……そこまでじゃないじゃん?
でもさ、イセカイカワブタのサイズを考えたら、ヒレが例えあったとしても、コップに入るようなものではなくないか? と。
「そのヒレ酒とやらはやるとどうなるんじゃ?」
「二級の酒を特級に変えるとか言われてますね」
別に今日出した日本酒が二級だって言ってるわけじゃないからね?
あくまでそう言われてたって話。
「ラベンドラ!」
「解体した本人が俺に尋ねるな。ヒレは武器などの加工に用いると決めただろうが」
「ぐぬぬ……」
「でもまぁ、身を炙ってお酒に入れても美味しいと思いますよ?」
おでんの出汁を日本酒に入れる飲み方とか、カニの甲羅に日本酒注いでカニミソと一緒に飲む飲み方とかあるし。
炙ったイセカイカワブタの身をお酒に入れて飲んでもいいよね。
「やってみるか」
「じゃあ、それ用の身を用意しましょう」
と言う訳でイセカイカワブタの身を薄切りにし、炒り塩水を作って浸す。
水が緑色に染まり、元の透明に戻ったのを確認して取り出して……。
「……あの……何か?」
めっちゃアメノサさんに見られてるんですけど?
「なんで……?」
「?」
「なんでそれだけで解呪できるの?」
「なんでと言われても……」
清めの塩だから……とか言っても絶対に納得しないよな、この人。
「八百万パワー……ですかねぇ」
「?」
今は分からなくていいよ、うん。
と言う訳で……、
「ラベンドラさん」
「なんだ?」
「この切り身をお猪口の上に浮かして、魔法で炙って貰っていいですか?」
「構わんが」
俺の指示通りにイセカイカワブタの身が宙に浮き、ガブロさんと『無頼』さんの二人のお猪口の上で静止。
直後に発火し、パチパチと音を立てて身からうま味のジュースが滴りお猪口に落ちて。
身は、反り返り、縮みながら焦げを発生させていく。
「それくらいで」
「うむ」
炙り終え、火が消えたらそのままお猪口の中にイン。
お酒を注いでやれば、ジュンッと酒の温度でイセカイカワブタの身が冷やされ、お酒を蒸発させる音が。
その音の直後に、日本酒の香りと魚を炙ったいい香りが一気に部屋に充満する。
「匂いだけで美味いのが分かる」
「じゃな」
で、飲兵衛二人は早速飲もうとするけど……。
「ストップ」
それを止め。
「少し待って、お酒に香りが移った頃に飲んでください」
正しい河豚のヒレ酒の飲み方を伝授。
河豚でもなければヒレでもないけど、きっと誤差。
「まだか?」
「もういいじゃろ」
と言う事で待つこと数分。
流石にもういいんじゃね? となったのでGOサイン。
「多分大丈夫です」
「ひゃっほう!!」
一番! 『無頼』! 飲みます!!
「お? おぉ~……」
勢いとは裏腹に、小さく傾けて舐める程度に飲んだ『無頼』さんは。
最初は怪訝な顔をしたが、すぐに納得の表情。
――を通り越して頬が緩み、まじまじとイセカイカワブタの身酒を見つめ始める。
「どうじゃ?」
「うめぇ。まず元の酒がうめぇのは大前提。そこに炙った身の香ばしさ、身の肉汁の旨味、深いコクが追加されて一気に広がりやがる」
「ほう」
「何よりすごいのは余韻だ。飲み込ンだ後もずっと口ン中に広がって楽しめる」
「総合評価は?」
「俺らの国の酒がカスに思えるくらいにはうめぇ。ていうか、これあれだな。自国の酒をこの飲み方すりゃあ、もっと販路が広がんじゃねぇか?」
大絶賛……でいいんだよね?
アメノサさんに飲んでみろよ、と勧めてるけど、頑として拒否されてるけど。
「むほっ! 美味いのぅ」
ガブロさんも飲んだらしく、奇声が発せられてますけど……。
でも、目元が緩みまくりで美味しいってのは伝わってくるね、うん。
「こりゃ……確かに美味いわい」
「どれくらい美味い?」
「わしらの国でこの酒を再現したものがあるじゃろ?」
「ああ、あるな。……料理に使う分には問題ない位の品質だが」
「あれをわしらの国のワインとした時の、この世界のワインのような感じじゃ」
「越えられない壁が三枚くらいと言う事かしら?」
……?
何枚あっても越えられないんだから、一枚も三枚も変わらなくない?
そこに枚数はいるんか?
「それくらいじゃ。そのぐらい衝撃的じゃったな」
「では『無頼』の言う通り、その飲み方で売れば?」
「販路は広がらん」
「何故?」
「ドワーフ連中がこぞって買い占めるからじゃ」
「納得」
まぁ……お酒と言ったら見たいなもんだし。
でもさ、ふと思うんだけどドワーフって自分たちでお酒作ろうと――しないか。
と言うか出来ないか。
目の前にお酒があるのにドワーフが我慢出来るわけないもんな。
「なぁ?」
「うぉ!? びっくりしたぁ!」
「あ、わりぃ」
急に『無頼』さんが俺の目の前に乗り出してきたんだ。
驚くって。
「他に酒の飲み方は無いのか?」
「う~ん……探せばあるかもですけど、パッとは思いつきませんね」
「そうか……」
ガッカリしてるな、『無頼』さん。
耳も力無く垂れてますわ。
「カケル」
「はいなんでしょう?」
「酒はいいからデザートを頼む」
「……あ、はい」
で、お酒談議に興味が無いと言わんばかりに、デザートを要求してくるマジャリスさん。
だいぶ耳が下がってるな、甘味ゲージが底を尽きかけてる。
……それじゃあ、デザートを用意しますか。




