価値あるもの?
「…………」
日本酒……お猪口を全員に配って注いで回りまして。
口にした『無頼』さんが機能を停止した。
飲んだままの格好で動かなくなっちゃった。
「『無頼』が感動してる……」
「確かに美味い酒ではあるが……」
「そんな固まる程の事ですの?」
アメノサさん曰く感動しているらしい『無頼』は、そのまましばらく沈黙し。
カッと目を見開いたかと思えば、イカの寿司を手に取り口に運び。
ゆっくりと咀嚼し、俺が注いだ日本酒をクピリ。
「はぁ……うめぇ……」
深いため息をつきながら、ようやく出てきた言葉がそれ。
マジで気に入ったっぽいな。
「米の甘さや魚の旨味とぜンっぜン喧嘩しねぇ」
「強いはずなのに飲み口スッキリ。変な臭いもしないし飲みやすい」
「美味いじゃろう? カケルの用意する酒は」
「ワインも極上ですわよ? バハムートの血を垂らして熟成されたワインよりも美味しいんですもの」
「こんな場所があるから、ニルラスは食文化が急速に発展した?」
「その通りだ」
いや、別に俺の存在が無くても勝手に発展したんじゃ……と思いはするけど、その場合ラベンドラさんのレシピ自体が国に回らなさそうだしなぁ。
割とマジで、この家に『夢幻泡影』が来たのがリリウムさん達の世界の一大転機になってそう。
俗に言う特異点的な。
「ニルラスばかりズルい。神がこの場所を作ったなら、私達も神からの恩恵を受けるべき」
「信仰の強さは? 供え物の質や頻度は? あと、カケルの手を煩わせることになるからそっちへの報酬も必要だぞ?」
「……お前らは何を渡してンだ?」
「手に入れた宝石を定期的に送っていますわ」
「宝石か……」
あ、これ送られてくる宝石が増える流れ?
それなら俺への負担は特に増えないんだけど。
「私達……と言うか、『無頼』が持ち帰ってくる宝石は質が悪い」
「文句言うなよ。俺は石なンざ興味ねぇンだからさ」
「良質なのは貴族が高く買う。いつも言ってる」
「俺が興味ねぇの!」
なんだろう……この、自由奔放な兄とそれを制御しようとする妹感。
あるいは幼馴染みたいな空気感。
『無頼』さんがワイルド属性な見た目だから、凄くカップリングとして美味しいと思ってしまう。
「まぁ、この場所がバレたわけだし、今後も行きたいと言うならば同行させるが……カケルへの報酬と神への供え物だけはしっかりと用意しなければな」
「特にカケルへの負担は絶対にダメですわ。何とかこの世界でも価値のあるものを渡さないと……」
「つってもなぁ……俺らがすぐ用意出来そうなものと言えば……」
「香りがする木くらい?」
……うん?
香りがする……木? ちょっと詳しく。
「どんな香りです?」
「? 普通にスパイスのような香りの物もあれば、濡れた草原みたいな匂いの物もあるが?」
「……それ、今あります?」
俺自体は詳しくないけど、某背後に立たれることを嫌うスナイパーの漫画で香木がネタになった事があった。
その話の内容は詳しく覚えてないけど、読んでた時に、匂いのする木に価値があるのか……と思ったのは覚えてる。
「あるぞ。と言っても俺のお守り替わりの物で、もうしばらく使い続けてるから香りは薄いが……」
と言って渡されたのは木札のようなもの。
きっと加工された奴だろう。
鼻を近付けてみると、匂いだけなのに辛みを感じ。
その後には胸をスッと撫でるような酸味と、静かに沈むような苦みの香りが鼻腔に広がっていく。
……もしかして、こっちの世界で売れたりしない? これ。
「ちょっと失礼しますね」
サーモンを口に放り込み、断りを入れてスマホを操作。
姉貴に、
『香木を捌ける伝手とかある?』
と聞いてみる。
返信はっや。
『知り合いに居る』
か。
『今度宝石と一緒に送って貰うから、値段ついたかどうかだけ教えて』
『りょ』
「『無頼』さん……でいいんですよね?」
「おう」
「その香りのする木、四人が宝石を送るときに一緒に送って貰っていいですか?」
「金になるんか?」
「分かりません。でもまぁ、可能性はあります」
「よし」
不安そうに成り行きを見守っていたアメノサさん、可能性がある、と聞いた瞬間に小さくガッツポーズして尻尾揺らしてた。
ちょっとかわいい。
「ただ、売れないかもしれませんよ?」
「そンときゃ、代わりになりそうなものを考えて送って貰うさ」
「候補は?」
「ねぇよ。その辺考えンのがお前の仕事だろ」
「『無頼』はいつもそう」
このやりとりが最高に兄妹してると思ってしまう。
私だけでしょうか?
「食べ終わっちゃいましたけど、ちょっと物足りないですね」
持ち帰り用も含めてお寿司を平らげたけど、流石に二人増えたしなぁ。
ちょっと足りないや。
「では私が何か作ろう。チーズ水は残っているな?」
「もう少しだけ」
「よし、カケルも座っているといい。米はあるか?」
「冷凍のがあるんで解凍すれば」
「よし。では作ろうか」
自分たちも気付いて無かったとはいえ、連れてきた責任は感じているようで。
物足りない分の補填にと、ラベンドラさんが料理を作ってくれることに。
「ちなみに何を作るんです?」
「テンペストワイバーンとリボーンフィンチの卵を使った他人丼だ」
「うわ、すっげぇ美味そう」
俺のその言葉を聞いて、『夢幻泡影』の残りの三人と『無頼』さん、アメノサさんがちょこんとテーブルに着席。
『無頼』さん、ガブロさんよりごついから体を縮めてて凄い狭そうだな。
……面白いからいいか。




