誰ぇ……?
「『闘魚倭種』……かなりデカいな」
「鮮やかな見た目で威嚇をするし、あのでけぇヒラヒラの先には毒があンぞ」
「内臓にも毒がある。鑑定スキルが高くないと食べるどころか調理も出来ない」
『夢幻泡影』に『無頼』、アメノサの一団で倭種が多いと噂のダンジョンを攻略中。
辿り着いたのはボスエリア。
ただしそこは、自然が豊かに実る密林のような場所であり。
部屋の中央に流れる川から顔を出したのは、『闘魚倭種』という魔物。
現代で言う闘魚とは鑑賞目的等で飼われるベタという魚の事であるが、異世界の『闘魚』も見た目はベタによく似ている。
ただし、『無頼』の言う通り、現代のベタには無いヒレの先の毒や、アメノサの指摘した内臓にも毒があるというより殺意の高い仕様になっており。
「かなりの身が期待できそうだ」
ヒレの大きさに負けず劣らず、本体の大きさも大きいもので。
現代のベタのような体型ではなく、風船のように丸い体が確認出来て……。
「魔法を撃つ時は体が膨らんでとげが出てきますわよ!」
何故だか、他の魚の特徴も持っているようで……。
「どんな味なのか気になるな!」
「頭に『レンジでチン』をぶちかまして即締めますわよ!!」
『夢幻泡影』達は、その味がどんなものか、心を躍らせるのだった。
*
「ふぅ……」
仕事も終わり、帰宅をし。
部屋着に着替えたところでため息を一つ。
今日は疲れたな……。
いやまぁ、毎日疲れてはいるんだけど、今日は特に疲れたというか……。
ぶっちゃけ、料理とかしたくないなぁ、という感じ。
ちょっとお金かかるけど、宅配で済ませちゃおうかなぁ、なんて。
「ラベンドラさんには悪いけど、俺にはもう体力が残ってないよ」
という事でチラシを見ながらどの宅配にしようかなぁ……と。
「……寿司にするか」
考えた末、そう言えば寿司って手巻きとか、数種類の握りとかしか食べさせてなかったな……と思い。
本日の晩御飯はお寿司に決定。
人数分……だけじゃあ絶対に足りないし、持ち帰りの分も合わせるともっと……。
「ヒェッ」
そんなこんなで注文しようとしたら、お会計が恐ろしい金額に……。
た、たまの贅沢と思おう……。
姉貴からの入金もあるからこれ位ならまだ致命傷だ、うん。
――異世界食材が貰える事前提の食事回しになるな、これから。
……今まで通りなのでは?
ほな大丈夫か。
「日本酒だけは買って来とくか」
という訳で震える指で注文ボタンを押し、到着予想時刻を確認して買い出しへ。
寿司には辛口との事なので、辛口でリーズナブルな日本酒を買って来ましょ。
*
ただいま! という事でね。
お酒買って来ました。
酒屋さんに行って、店員さんに、
「寿司に合う日本酒を探してて……」
と言ったらめっちゃいろいろ紹介してくれた。
そんな中から俺に選ばれたのは……『楯野川』という日本酒。
すっきりした後味ながら、キレと旨味のバランスが良く、冷やしてヨシ、ぬる燗にヨシ、熱燗にヨシとどう飲んでも美味いとの事。
で、どうせなら日本酒とデザートも合わせるかって事で、この日本酒に合う和菓子も教えて貰った。
ようかんが抜群なんだってさ。
という訳でようかん……それもあんこベースのプレーンなやつを購入してまいりました。
後は宅配が到着するのを待って、『夢幻泡影』を迎え入れて終わり。
いやぁ、楽でいいね、宅配は。
……その楽の分を金銭で埋めてるわけだけども。
何なら『夢幻泡影』達がこっちの世界に来て、一番お金がかかった食事になるのでは?
ただし、姉貴がワインを買って来てた時を無視するものとする。
オーパス・イチが強すぎるのよ、値段的に。
「はーい」
で、『夢幻泡影』よりも先にお寿司が到着。
受け取り、支払い、テーブルに並べて……。
「小皿と醤油……一応塩も」
ラベンドラさんが過去に握り寿司した時に塩で食べてなかったっけ? と思い出し。
醤油だけじゃなく塩もご用意。
後はガリは付属してるからそれでいいし、熱い粗茶だけだな、用意するの。
ちなみになんでお寿司に熱い粗茶なのか知ってる?
熱さは魚の脂を洗い流すため、粗茶なのは香りで魚の風味を邪魔しない為なんだってさ。
魚の脂は融点が低くて、牛や豚と違ってお茶の温度で溶けちゃうらしい。
全部理由があるんだねぇ。
「お、来た来た」
という訳で紫色の魔法陣が出現。
「……寿司か」
「です」
「もう出来とるの」
「これカケルが作ったんですの!?」
「まさか……お店から持って来てもらいましたよ」
「見た目鮮やかで美味そうだ」
魔法陣から出るや否や、テーブルに並べられたお寿司に全員注目。
俺が寿司を握れるわけないでしょ。
飯炊き3年握り8年という言葉を知らんのか。
知らないだろうな。
あと、エルフなら、
「そんなもんか」
くらいのノリでやりそう。
ケッ、これだから長命種は。
「……うん?」
ここで目星ダイスロールクリティカル。
四人が転移してきていつもならすぐ消えるハズの魔法陣。
何故だかまだ残っていません?
「リリウム!」
マジャリスさんもそれに気づいたようで、リリウムさんを呼んで確認を促し。
「へ?」
呼ばれたリリウムさんも、魔法陣の方を見て驚いている。
……なんか、とても嫌な予感が……。
「……なンだここは?」
「どこ……ここ?」
そんな居残りしていた魔法陣。
そこから出てくる二人の存在。
……片方は、犬だか狼みたいな耳と尻尾の生えた白髪の長身男性。
片や九本の赤い尻尾と耳、白髪男性の胸程のサイズの女性。
「付いてきたのか!?」
「気配は完全に消してましたわよ!?」
「そもそも転移魔法に相乗りなぞ出来ないはずだ!」
「何が目的じゃ!?」
と、『夢幻泡影』が二人を鋭く睨み、臨戦態勢。
ただし、俺にとってはそんな事よりなによりも。
「とりあえず! 靴を! 脱いでください!!」
これから食事と言う場所に、土足で立っている事が、我慢出来なかったりする。
……と言うか、『夢幻泡影』に任せれば、騒動はすぐに解決すると思ったし。
「お、おう」
「すまない」
俺の気迫に押された……わけではないだろうけど、素直に俺の言った通りに靴を脱ぎ、手に持った二人に。
「靴はこっちじゃ」
ガブロさんが玄関を案内する。
――さて……。
ご飯、足りるかなぁ……。
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