日本のは凄いと聞く
「毒か!?」
物騒な事を言いながら、目を指でガシガシと搔いているマジャリスさん。
……辛そうだなぁ。
「カケル……これは?」
「多分、花粉症かと」
「花粉症?」
俺はありがたいことにその苦しみを味わったことは無いけど、会社の同僚に居るよ。
すっごい花粉症の人が。
かなり酷いらしく、花見とかは自殺行為とか言ってたな。
なのでシーズンになると、病院に行って治療したり、薬貰ったり、注射打ったりしてるらしい。
「えーっと、花粉症とは……」
花粉症の概念を知らない『夢幻泡影』の皆さんに、検索結果をそのまま伝えまして……。
「……なるほど。つまりは過剰に反応しているという事か」
「まぁ、大体は」
ちなみに説明中もマジャリスさんは目を掻き、くしゃみを連発。
鼻水ずびずびでティッシュを凄い勢いで消化してたりする。
「この紙布、凄くありがたい……」
とか言いながらチーン! てしてます。
信じられるか? これ、エルフなんだぜ?
「ちなみに治療法は無いのか?」
「今のところは……。季節ものなので、一シーズン我慢すれば来年までは再発しませんけど……」
なお、同じ花粉では、という注釈が付く。
どの季節でも花粉って飛んでるからね。
「せめて目のかゆみはどうにかならないか?」
「目薬ならありますけど……」
なおもずびずびマジャリスさん。
正直汚い。
本人にとってはどうしようもない事なんだろうけど。
「目薬?」
「と言っても花粉症用のではなく、普通にクール系のやつですけど……」
主に眠気覚ましとかに使う用のやつ。
眼精疲労用のもあるにはあるけど、花粉症なら刺激強い方がよくね? と思いこちらをば。
「……どう使うんだ?」
「俺がしましょうか?」
「頼む」
と言う訳で頼まれたのでマジャリスさんに近づき。
指で目をこじ開ける。
「おい!? 何をするんだ!!?」
「目、閉じないでくださいねー」
と言いながら狙いを定めて目薬を――発射!
すると……。
「お。お? お!? おおおおおおお!!!?」
片方にしかまだ差して無いから、もう片方も……と体を動かしたら、マジャリスさんから跳ね飛ばされて。
「目が! 目がぁぁぁっ!!」
魔法の三文字を食らった某映画のキャラクターの台詞をそのままに、のたうち回り始めるマジャリスさん。
そんなオーバーな。
「カケル!」
「な、なんでしょう?」
「本当に大丈夫なのか!?」
「ちょっと刺激は強いですけど、別に体調に支障をきたすようなものでは……」
ここまで言ってふと気づく。
これ……エルフに取って毒とかではないよね? と。
サーっと血の気が引いていく中、
「一応、マジャリスさんの状態を見て貰えますか?」
と何とか絞り出し。
リリウムさん、ラベンドラさんがマジャリスさんの状態を鑑定。
――結果は……。
「ド健康だな」
「ですわね」
ただの健康じゃない、ド級の健康、ド健康だ。
あっぶねー。これで実は毒でしたてへぺろとかだったら許されざるところだった。
「無いなった!! 俺の目ないなった!!」
「落ち着け、ちゃんとある」
「どころか病状も回復していますわ」
「ちゅーか家の中で暴れるんじゃないわい」
と、まだ目を押さえてのたうち回るマジャリスさんに、何とも優しい言葉をかける三人。
俺なら泣くね。色んな意味で。
「……ぐすっ。てぃっしゅ」
「はいどうぞ」
「……痒くは無くなった」
「良かったです」
べそかいちゃったか。
どうしたもんかな。
「いい、私たちが戻ってからフォローしておく」
「ありがとうございます」
「それより持ち帰りだ」
「チーズ水で照り焼きソースを作って、それでバーガーを作ろうと思いますけど……」
「そうしよう」
と言う訳で今だぐずってるマジャリスさんを放置し、持ち帰り料理の開始。
と言ってもやることは少なく、醤油、料理酒、みりん、砂糖を混ぜて煮切って完成。
煮切り終わったソースを冷ましてからチーズ水を混ぜ、そのソースをテンペストワイバーンの肉にたっぷりと絡ませてしっかり焼き。
からしマヨを塗ったバンズにレタスをたっぷりと挟み、その上に照り焼きテンペストワイバーン。
思ったよりボリュームが出たので、型崩れ防止のピックを刺して完成っと。
「美味そうだ」
「まぁ、不味いはずが無いですね」
「それもそうだな」
てな感じで持ち帰り商品も出来たので、それを『夢幻泡影』に持たせまして。
「ではまた」
「はい、お待ちしてます」
「ずびっ」
皆が紫の魔法陣に戻っていく中。
「カケル」
ラベンドラさんだけが一度引き返して来て。
「先ほどの目薬とやら、試していいか?」
「構いませんけど……」
好奇心? に負けたらしく、ラベンドラさんも目薬初体験。
ちなみに自分で上手に差してました。
「……なるほどな」
んで、マジャリスさんみたいに騒いだりすることもなく、そのまま魔法陣へと入って行かれました。
やっぱりオーバーだったんだよ、マジャリスさんが。
*
「あれ? ラベンドラは?」
「先ほど森の中へと入っていきましたわ」
「目が血走っとったが大丈夫かのぅ」
「ふーん」
異世界に戻り、早々に姿を消したラベンドラ。
その行方は……。
「目が……爆ぜるっ!!」
誰にも見つからないよう森の深くで。
通りすがる魔物に向けて理不尽な怒りをぶつけていた。
そしてそれは、目薬を差した片目の刺激が収まるまで、激しく続くのだった。




