閑話 政治の一手
「また変なもんを作らす……」
「じゃが、これまで作らせたものは全部有用じゃったろうが」
ペグマ工房内にて、弟のペグマに図面を渡し、チョコレートファウンテンを作らせるガブロ。
本来、たとえ兄であろうと飛び込みでの仕事の依頼は受けてはいない。
……何の手土産も無ければ、の話であるが。
「これがあればさっきのワインが製造可能になるんか?」
「いや、ワインは今後あの味の物が今のままで量産されるじゃろ」
「じゃあこれは何じゃ?」
「貴族たちがこぞって欲しがる代物じゃよ」
バハムートの血を一滴垂らし、熟成期間一日。
本来ならば大きな変化は見られないであろう現象も、それが異世界であれば話は別。
あくまで神の言う完璧な熟成タイミングが三年というだけで、バハムートの血を垂らした瞬間からワインの変化は始まっている。
現代で言う所の『ワインが若い』という表現をイメージして貰えれば分かりやすい。
「ふぅむ……」
「わしらにはこのサイズで十分じゃが、貴族からはもっと大きなサイズを頼まれるかもしれんのぅ」
「難儀な……」
そう言って作らせたチョコレートファウンテン一号を、リリウム達と合流し届けたガブロは。
この後、チーズフォンデュを食べるのを、今か今かと待ちわびるのだった。
*
「……で? なンであんたは片頬だけ赤ぇンだ?」
「…………聞くな」
翌朝、ガブロが持って来たチョコレートファウンテンで、翔と話したチーズフォンデュを実行。
魔力を込め。起動させ、水分チーズの特性を持つ果汁を流し込むと……。
チョコを流す時に冷えないようにする保温機能により、水チーズは加熱。
結果、伸びる特性を有し。
チーズが伸びるという事は、全体が一体化するという事で。
「なんじゃ、流れが悪くなっとりゃせんか?」
「……だな」
魔道具の不調か? と顔を近付けたガブロとラベンドラに。
――チーズが襲い掛かった。
「へぶっ!」
「むへっ!」
勢いの付いたチーズのビンタ。
それが、ガブロとラベンドラの片頬が赤い理由である。
「そんで? また今日はフローラパールを探しに行くのか?」
「いや、今日は予定がある」
「予定?」
「こいつをちょっと届けに行かなくては、な」
そう言ってチョコレートファウンテンを指差した『夢幻泡影』は。
「どこにだ?」
と聞く『無頼』を無視し。
強制的に巻き込んで、転移魔法を発動。
目的地は――現在、国王会談が行われている場所である。
*
「勝てぬ、と?」
「間違いなく。あれらは『無頼』個人でどうにか出来る範疇の外。というか、『無頼』の相手の片手間に全滅させられるかと」
「……むぅ」
国王会談中、アメノサは、国王に付いてきていた側近と会話。
内容は『夢幻泡影』の戦力に関する報告であり。
「私も、敵意を向けた瞬間にやられる」
「奇襲も無理か?」
「完璧に成功したとして、仕留めるまでは至らない」
彼女の口から話される報告は、あまりにも大きな戦力差を示しており。
さらに言えば、『夢幻泡影』以外にも『ヴァルキリー』という存在も居る。
丁度、国王会談の警備を担当している彼女らが。
「あと、国力の差が歴然。今かの国は、国を挙げた料理の大会を開催している」
「平和ボケしているだけではないか?」
「そちらに回す資金が潤沢にあるという証左。これらが軍事にフル投入された場合、私たちの国はプチっと潰される」
「……敵に回すのは悪手か」
この言葉をようやく引き出したアメノサは、心の中でだけため息をつく。
理解するのが遅すぎる、と。
――と、
「止まれ!! 何者だ!!」
突如として、警備をしていた『ヴァルキリー』のリーダー、『タラサ』が声を上げる。
そこには……、
「別に怪しいものではありませんわ」
「おもっくそ怪しいがな」
よく分からない魔道具……チョコレートファウンテンと『無頼』を脇に抱えたリリウム達『夢幻泡影』の姿が。
例え顔見知りであろうが近付けるわけにはいかない。
武器を構え、警戒を見せる『ヴァルキリー』に、
「新たな魔道具が完成した報告ですの。ペグマ工房より『チョコの泉』の献上ですわ」
チョコ、という単語が甘く突き刺さる。
無論、他の国の護衛達――チョコを知らない者たちにとっては、なんのこっちゃであろうが。
「……なにあれ?」
「さ、さぁ?」
アメノサも、側近も、同様に。
何の事か分からない、と首をひねっていると。
「実演してみせた方が早いですわよね?」
と、リリウムが目配せ。
前に出たラベンドラが、あらかじめ溶かしてシャジャの実の果汁と混ぜておいたチョコを『チョコの泉』へと流し込み。
マジャリスが、指をくわえながら魔力を込めて起動。
すると……、
「んぐっ」
『ヴァルキリー』の一人、アタランテが大きくつばを飲み込むほどに。
その名に恥じぬ、チョコの泉――というよりは噴水が出現。
辺りに立ち込める甘い香りに、自然と周囲の警備も寄ってくる。
そんな時、
「皆、会議は一度中断だ。食事にする。カレーを持ってまいれ」
会議を行っていた建物から出て来た従者の言葉に、皆がはっと我に返り。
「ん? なんだそれは?」
出て来た従者は従者で、『チョコの泉』へと目を奪われ。
「これからお昼でしたのですね。では丁度いいですわ!」
と、それを見越して転移してきたリリウムが白々しく言い放ち。
この国王会議に出席していた国王とその側近たちは。
『カレー』と、そして『チョコレート』という、全く未知の二つの料理を味わうことになり。
その後に再開された会議で、ニルラス国への二つの食べ物の輸入を打診。
様々な国が、ぜひ我が国にもと手を挙げる中で、ソクサルムは後ろを向いて悪役チックな笑みを見せているのだった。
――と、同時に。
「それ、本当?」
「あいつらが言ってたンだぜ? 嘘なもンかよ」
『無頼』もまた、アメノサに何かを耳打ちするのだった。




