虎に翼、エルフにチョコ
「で? デザートは?」
「ありますよ、もちろん」
ワインの話で盛り上がった熱も、結局はこちらの世界にワインを持ち込めない都合上、一旦辞めざるを得ず。
その代わり、異世界で四人から捧げられたワインは絶対に受け取り、神様自らの時間跳躍魔法で熟成を促進。
どの食材がどのような味の変化をもたらすかを――何故か俺に報告するという流れで話がまとまった。
曰く、
「私たちが神の声を聴いたとどこから漏れるか分からん。そうなったら、神職全てを敵に回す」
「敵に回ったところで物の数ではないのですけれど、回さないでいいなら回したくありませんわ。面倒ですし」
「しかも無駄に横の広がりが強いからな。私達に影響が出せなくとも、冒険者ギルドやギルド新聞……ガブロの弟にまで手が及びかねん」
「そうなりゃ弟は受けとる教会関連の仕事を全部拒絶するじゃろうがな」
まぁ、宗教関連については敵に回さないのが得策だよね。
君子、危うきに近寄らず、って言うし。
まぁ、そう言う事らしいので神様、どのワインとどの素材の組み合わせがどうなったか、詳しく教えてくださいね。
(任せておくのじゃ)
自分はただワインを飲んで感想を伝えればいいだけだからテンション高いんだよなぁ……。
別にいいけど。
「というわけでデザートはキャラメルムースです」
「ほう」
正確には生キャラメルのムース。
いつもケーキを買ってたお店の新商品とかで、気が付いたら買ってました。
次に来た時でいいのでよろしければ感想くださいって言われちゃったよ。
この四人は絶賛するだろうし、その言葉をそのまま届けようかね。
「キャラメルというと、ダルゴナコーヒーの時にトッピングにあったソースだな」
「ですね。まぁ、本来はキャラメルはお菓子なんですけどね」
「そうなのか」
キャラメル、小さい頃はよく食べてたな。
トリコロールカラーのパッケージのキャラメルだった記憶。
冬場は固くてねぇ。銀歯が取れた! とか姉貴が騒いでた記憶があるよ。
「切り分けて貰っていいですか?」
「うむ」
と言う訳でそんな生キャラメルのムースをラベンドラさんに五等分にして貰い、それぞれのお皿へ。
包丁すら使わないのやっぱ楽だな。
「では早速……」
待ちきれない、と言わんばかりにマジャリスさんがクラウチングスタート。
誰もを抜き去って真っ先にムースを口内にゴールさせる。
「滑らかっ!!」
「ん~、このほろ苦い香りがいいのぅ」
「実際に苦さは感じないのですけれど、匂いで苦いと錯覚してしまうのですのよね」
「しっとりとしていて濃厚、であるのに重くなく、滑らかに口の中に広がっていく」
なお、後続の三人も続々とゴールしております。
それでは最後に俺も一口。
……お、美味い。
確かに滑らかさ、甘さってのが最初に来るけど、何よりムースのしっとりした食感と舌触りが凄い。
舌の上で転がすだけで溶けて行って、口内をキャラメルの香りで満たしてくれる。
ガブロさんやリリウムさんがキャラメルの香りをほろ苦いって表現してたけど、どっちかというと香ばしい、かな。
いわゆる焦げの匂いに近いニュアンス。
焦げが苦いって認識があるから、その香りも苦いと認識された感じ。
でも、この香りがあるだけでクリームの味わいが全然違う。
すっごく美味しい。
「これには紅茶か?」
「あー、キャラメルティーラテとかありますね」
「紅茶だな!!」
期間限定で自販機とか、スーパーとかに並ぶよね。
あれ結構好きなんだよな。
いい感じに甘くて、疲れた時に飲むとたまんねぇんだ。
「下のスポンジもしっとりしていて美味い」
「ムースと一緒に食べる事を計算された固さをしている」
「全体的な完成度が高いですわよね」
「これも晩餐会に出されるレベルのスイーツじゃわい」
なんて言ってますけども?
こっちの世界で食べた大体のスイーツに晩餐会で出せるって言ってるからなぁ。
もし本当なら、晩餐会のスイーツが異世界スイーツ一色になっちゃうよ。
……『夢幻泡影』の四人なら大喜びしそうだけど。
「ちなみにキャラメルをクリームにしてコーティングしたケーキとかもありますよ?」
「ゴクリ」
「なんなら、キャラメルを固めた物もありますし」
「ゴクリ」
なんでも唾飲み込むじゃん。
「カケル、明日もキャラメルを用いたデザートをお願いしてもいいだろうか?」
キャラメルに魅了されたマジャリスさんからそんな事を言われた。
俺はいいよ? 俺は、ね。
だが言い出しっぺのマジャリスさんがそれを許すかな!!
「とりあえずこの動画を見てください」
俺は見つけてしまったんだ。
あの禁断の家電を。
「なんだ?」
と四人が俺のスマホを覗き込む。
――そこには……。
「天国?」
「チョコの泉……?」
「なんですのこの凄く素晴らしい光景は!!」
「よっぽどわしらの世界より不思議な光景なんじゃが……」
チョコレートフォンデュを楽しむ人たちが写る映像が。
「明日はこれの予定だったんですけど……キャラメル――」
「これ!! これだ!! これがいい!!」
「……チョコの泉をカケルが持っていますの?」
「動画ほど大掛かりな物じゃありませんけど、家庭用のが売ってあるんですよ」
しかも手ごろな値段で。
掃除とか洗うのが色々と大変そうではあるんだけど、見つけちゃったし。
チョコフォンデュを楽しんでもらおうかなって。
「ひゃっほい!! よし! 今すぐ帰ろう!! 帰って時間跳躍を世界に使って翌日にしよう!!」
「落ち着けバカ。そんな事出来ない上に持ち帰りの商品がまだだ」
「それに、チョコレートの泉は逃げませんわよ?」
「仕組みさえ分かれば弟と図面に起こして作ってみるか」
「ガブロ! ぜひ!! すぐに!!」
……今日教えたの失敗したかもしれん。
でも、前もって教えとかないと、当日に知らされたマジャリスさんが何するか分からんからなぁ。
「カケル、うるさいのは放置して、持ち帰りの料理に入ろう」
「はい」
まぁ、『うるさいの』認定されたマジャリスさんはリリウムさんが作り出した結界の中に放り込まれ。
声が聞こえなくなり、姿すら視認できなくなり。
「はぁ、手が掛かりますわね」
と、手を払いながらリリウムさんが言ったのを、冷や汗を流しながら聞き流すしかなかった。
……南無。




