異世界銘柄
「出汁が美味い」
「お米の一粒一粒に、蟹の旨味が染み込んでますわ!!」
まずはみんな蟹の炊き込みご飯に箸を付ける。
蟹を殻ごと茹でて出汁を取ったら、そこに醤油とみりんで味付け。
それをお米と一緒に土鍋に入れて、ゴー君に炊いて貰ったら、解した蟹の身をしっかり混ぜて完成。
おこげになってる部分が美味いんだこれが。
「米と蟹の身の甘さ、蟹の出汁の旨味、米の粘り気のある食感と全てが完璧な調和を見せている」
「蟹の個体差で味わいや風味が変わるのも素晴らしいですわ」
「ラピスラズリ個体のねっとりとしたうま味から、あっさりしたオパール個体まで。一口食べる度に違った味わいが顔を覗かせるわい」
「これはおにぎりで持って帰りたいな」
分かる。
俺も明日会社に持って行くのはこの炊き込みご飯のおにぎりと、蟹の身以外の具を入れた味噌汁にたった今決めたし。
……流石に会社で蟹を殻から外したりはしたくないかな。
殻から身を外すのも楽しいんだけどね。
「ゴーレムに炊かせるのはやはり美味いな」
「当たり前に話していますけれど、ここのゴーレムは普通に規格外なのですよね……」
「まぁ、王城辺りに移されるだろうな。我々の世界に持ち帰ったら」
「わしの所の弟も欲しがりそうじゃわい」
……やらんぞ?
どこの馬の骨とも分からん奴に、うちのゴーレム君はあげませんからね!!
「バター醤油とか言う魔性の調味料……」
「バターが米と醤油に合うのは本当に不思議でしかありませんわ」
「しかも美味い」
分かる。
というか、なんでだろうね?
こう、ご飯を作るのが面倒な時はとりあえず米炊いて、よそったご飯にバター落として醤油回して食べてたっけな。
そう言う、ずぼら飯のレパートリーも結構増えたんだよなぁ。
マヨ醤油ノリから始まり、とろけるチーズブラぺとか。
それに味噌汁とか付けてさ。
疲れすぎた時とか、もう何もしたくないと精神沈んでた時とかはかなり食べたよ。
……もちろん、今回みたいに蟹とか無かったけど。
「トパーズ個体との相性が抜群じゃな」
「あら、ラピスラズリ個体も負けていませんわよ?」
「そいつは単体で既に美味すぎるからナシじゃ」
「美味しい事はいい事ですわ」
ちなみに炊き込みご飯のラピスラズリ個体も凄かった。
しっとりとろけた身がご飯に絡んでさ。
マジで頬張るだけで頬が緩むんだ。
ガチャならSSRってとこだな。
まぁ、宝石蟹全部がSSRなんだけども。
「……で、気になっとったんじゃが」
「これは何だ?」
「クリーム煮です」
何故か七色の蟹つみれが入ってますけど。
あ、味は確実に美味しいんで……。
「レシピは確認した。普通にご馳走だ」
「そうか」
「ならば良し」
と言う訳でクリーム煮の実食。
「~~~!!」
「うっま!」
「蟹が口の中で暴れるぞい!!」
……それは美味しいって表現で合ってるのか?
蟹が口の中で暴れたら痛いよ?
という事で俺も蟹つみれを一口。
――っ!?
なるほどなっ!?
暴れるってそう言う事か!!
あれだ、弾力が凄い。
ぷっりっぷりの蟹の身が、噛む度に口の中を弾むんだ。
だから暴れてるなんて表現したんだな。
しかもこれ、歯を立てた部位の個体によって跳ね方が違う。
そして混ざり具合でどの辺まで歯が抵抗なく入るかってのも変わってくる。
つみれ一つどころか一噛みするたびに味わいが変わって来るね。
こりゃうめぇわ。
「クリームのまろやかさも合わさって最高じゃな」
「米にも合うが絶対にパンにも合う。これは向こうでぜひとも再現したい」
「これ、こんなに美味しいなら蟹焼売とか最高でしょうね」
蟹の身以外を一切使わない、贅沢な蟹焼売。
しかも濃厚で臭くないカニミソまではいってるとくれば、どうすれば不味くなるのかを探す必要があるレベル。
「そのレシピも後で詳しく」
「分かりました」
そう言えば、エビ餃子なんてあるんだし、カニ餃子もあってしかるべきだと思う。
いやまぁ、あるんだろうけどさ。
エビ餃子程浸透してないというか……聞かないよね。
エビは比較的安価な個体が存在するけど、カニにはその辺居ないんだろうなぁってのは原因として思いつくけど。
「む、忘れておったがこれらに合うワインを探すんじゃったな」
「確実に白。そして、香りは高くフルーティな方がいい」
「甘さがあると蟹の身の邪魔をする。辛口がいいだろうな」
「スパイス的なニュアンスが広がれば、より蟹の身の味にフィットするだろうな」
思い出したようにカニ料理に合うワインの特徴を出し合う四人。
良かったですね神様、忘れられていませんでしたよ?
「俺としては『ドゥルガルデ』を推すな」
「『フェルソリス』の方が合うと思うが?」
「『ヴァントス』でいいと思いますけれど……」
「『クラスタ・ノクティス』一択だろう」
……異世界のワインの銘柄かな?
全部聞いた事無いし。
――スマホ君に聞いてもそんな名前のワインは出てこないし。
「どれも試すのが一番だ」
「そうじゃな」
「何を入れる?」
「『――』の牙は入れたい」
「『――』の鱗もですわ」
「『――』の目玉はどうじゃ?」
「バハムートの血は……いややめておいた方がいいな」
血……抜いてたんだ。
バハムートの。
でもまぁ、尻尾の肉を削いだ時に手に入るだろうし、持ってても不思議じゃないか。
んで、ワインに入れるのをやめるのも分かる。
なんと言うか、エリクサーとかの材料になりそうだもんね、バハムートの血。
勿体ないか、流石に。
「生命力が強すぎて下手すると暴走しますものね」
おっと? 全然思ってもない理由だったっぽいぞ?
「生命力が高いと暴走するんです?」
「じゃぞ? ワインを乗っ取って攻撃してくるかも知らん」
ワインが攻撃……とは?
というか、無理では?
異世界だとワインは神の所有物みたいな扱いでしょ?
それを乗っ取れるの?
(わしが許すはずが無かろう)
ですよね。
「バハムートごときと言っては何ですけど、神様のワインにそう簡単に影響を与えられないのでは?」
「……確かに?」
「試してみる価値はあるな」
なお、そこまで話した後、まるでノルマクリアとでも言わんばかりにまたカニ料理達へと手を伸ばし。
今日のデザートの出番は、いつもよりほんの少しだけ後ろに回されることになったのだった。




