数撃ちゃ当たる……?
……炒めなくても溶けるのか。
ああ、いや。こっちの話で……。
後乗せトッピングのラピスラズリ個体、ソースに触れている部分が溶けて行ってるんだよね。
絵面だけ見たらウニみたいな感じかな?
常温に放置して溶けちゃったウニ。
明らかに見た目は蟹なんですけどね。
「うぅむ……」
「というか思ったんですけど、ラピスラズリ個体が溶けるってラベンドラさんも知らなかったんですね」
「うむ。これまで何度か調理をしてきたが、今までは溶けるという事は無かった」
とするとなんだ?
オリーブオイルだけに溶けるのかな?
そんな事あるんかな?
無いと言い切れないのが異世界食材の恐ろしい所か。
「とりあえず食わんか?」
「ですね、食べましょう」
まぁ、七色カニクリームパスタは一色だけ溶けちゃったけど、他の色は生きてるし。
ともあれ食べるとしましょうか。
「……」
「……」
「……」
「……」
ボクこの反応知ってる。
美味しくて言葉が全然見つからない奴だ。
俺も一口……。
「うま」
……うん?
なんだこの……なんだ?
蟹の身の旨味、トマトの酸味、バターと生クリームのコクにブラックペッパーの刺激。
それらを感じられはするんだけど、もっと何か……全体を纏めて下から支えるどころか掲げてるような濃厚な旨味……。
まさかカニミソ?
というかラピスラズリ個体?
「口の中に含んだ瞬間に爆発的に広がる美味い! という感覚……」
「舌で味わうより先に、本能が理解しているような感じですわ……」
「考えてた事全部を吹き飛ばすような強烈な衝撃じゃわい」
「なんでこんなに美味い?」
全員が静かに自分の感じたことを口にしてるよ。
キョトンとした表情でさ。
「ソース自体にラピスラズリ個体の味が付いてますね」
「ああ、なるほど。……いや待て? だとしても味がかなり濃厚になっていないか?」
「溶けた事でそうなった可能性はどうだ?」
「有り得る」
と言って、薬指でソースを掬ってペロリと舐めるラベンドラさん。
「凄いな。酸味やペッパーの刺激と言った少しでも角のある部分が、濃厚なソースで押さえられ、旨味に変換されている」
「こんな力強いソースのパスタなら、白でも赤でもどちらのワインでも合いそうですわね」
「ビールも合いそうじゃし、日本酒でも合いそうじゃぞ?」
分かる。
濃厚な旨味の前に、全部の酒が合いそうだと感じるわ。
後あれだね、ラピスラズリ個体の時からそうだけど、カニミソなのに変な臭いとか一切無いって言う。
それがさらにソースのクオリティを上げてますわ。
マジで純粋な旨味と風味だけ追加された、みたいな。
「パスタに絡むし他の個体の身とも相性抜群」
「互いに殺し合うかと思いましたけれど、美味く旨味や甘みが調和して、より強いそれらに置き換わりますの」
「このラピスラズリ個体の溶けた油を使ったソース、どんな料理にも合うかも知れない……」
「今一度こちらの世界の油を詳しく調べた方がいいかもしれない。この味を向こうで再現出来ないのはもはや世界としての損失だ」
そこまで言うか……。
んでもあれじゃん? マジャリスさんが見つけたスイカの種油あるじゃん?
あれじゃダメなのかな?
素人質問で恐縮ですが。
「マジャリスさんが見つけた油でもダメなんです?」
「ダメ……いや、試していないな」
「今すぐ試しなさい!」
「カケル、キッチンを借りるぞ!!」
と、食べ終わっても居ないのにキッチンへと走り、フライパンに恐らくはスイカの種油を引きまして。
ラピスラズリ個体をイン。
結果は……?
「溶けない」
いや溶けないんかーい。
そこはほら、溶ける流れじゃないの?
マジでオリーブオイルにだけ溶けるの?
何が入ってるんだ? オリーブオイルに。
「とりあえず炒めたラピスラズリ個体は食べましょう」
なんてな。本当は普通に食べたいだけだけども。
……確かに、ソースに溶けた方が味が濃いな。
オリーブオイルに溶かして食べるのが実は一番美味しい食べ方なのか?
――待てよ? 気が付いてしまったかもしれん。
「アヒージョ」
「ん?」
「なんじゃ?」
「アヒージョに使ったら、とんでもないことになるのでは?」
私の考えはこうだ。
そもそも煮込むオリーブオイル自体がべらぼうに美味しかったら、それはもう暴力的な美味さのアヒージョが作れるのでは? と。
「明日だな」
「任せてください」
通じ合った俺とラベンドラさんに長い言葉はいらない。
明日ですね、分かりました。
「なんじゃがっしりと握手なんぞしおって」
「放っておいていいですわ。明日も美味しい料理が食べられることが確定しただけですもの」
「うむ」
いやまぁ、正直異世界食材を調理し始めてからと言うもの、めっきり料理を失敗しなくなってんだよね。
食材のポテンシャルが凄いのと、全然冒険してないからだけど。
俺も昔は色々あったよ。
……ほとんどが思い出したくないけど。
「ラピスラズリ個体の報告はどうする?」
「我々の世界に溶かせる油が無い以上、不要だろう」
「とはいえこの味は到底諦めが付かない。あらゆる油を仕入れて片っ端から試そう」
「それがいいですわね」
ちなみに皆さんとんでもない速度で完食し、お皿に残ったソースはしっかりバゲットで掬って食べられまして。
今日の料理で、過去一お皿が奇麗になるまで食べたって事だけ追記しとく。
さて、いよいよデザート……今川焼きの時間だぁ!!
さぁ行くぞ翻訳魔法! 翻訳の貯蓄は十分かっ!?




