らくらく異世界フォン
むっ!?
蟹が食べたい。
……無性にカニが食べたい。
それも美味しい奴を……生で。
――ヨシ。
蟹召喚の儀式をしよう。
必要なものはちょっと上等のワイン。
(神様って辛口と甘口、どちらのワインが好みです?)
(なんじゃ藪から棒に)
(いいから)
(まぁ、合わせるもの次第じゃが、どちらかというと辛口かのぅ)
(ふむふむ。ちなみに赤と白なら?)
(それこそ合わせるもの次第じゃな)
(肉なら?)
(断然赤じゃ)
赤の辛口ね。
合わせるのは当然バハムート肉。
タルタルステーキにして付けてあげよう。
(と言う訳で神様、お供え物です)
(何がどうと言う訳なのかは知らんが、ありがたく貰っとくぞい)
神様に供えたワインとタルタルステーキが消失したのを確認し、儀式は次のフェイズへ。
(お供えの代わりにあの四人に伝言を頼めますか?)
(む……、わしが断れんようにするためのお供え物じゃったか……)
気付いた時にはもう遅い。
何も不老不死にしろとか、金銀財宝を寄越せと言ってるわけじゃないんだ。
それくらいいいでしょ?
(まぁ、可愛いもんじゃな。それで? わしは何と伝えれば?)
(俺が蟹を食いたいと言っていると。飛び切り美味しい奴を、と)
(ほいほい。……バハムート肉とワイン、合うのぅ)
*
「――っ!?」
「……聞きましたわよね?」
「ハッキリと」
「うむ」
一方こちらは異世界組。
オイスターソースの材料集めに、海底ダンジョンへと再び入ろうとしていたその時。
脳内に響くは、神様経由の翔の欲求。
曰く、蟹が食べたい。
「では、目的地を変更してレシュラック領に行きますわよ!」
「市場も見たい。たこ焼きのおかげで活気が凄いと噂だ」
「素材の清算もそちらでしとくか。最近、何かとダンジョンに潜り過ぎで溜まる一方だ」
「地図も凄い量あるんじゃないか? ……次回大会の優勝者の為にも、今の内から金は準備しておくに越したことはないぞい」
その意思を汲み、四人は。
大きな港を有するレシュラック領――アキナがギルドマスターを務める場所を目標に移動を開始。
なお、移動は転移魔法の為、一切風情の無い刹那の時間に行われるのであった。
*
「この間来た時よりも盛況じゃな」
「食材だけでなく、魔物の素材を加工したものも多く売られているな」
噂通り活気に沸く港町を探索する『夢幻泡影』。その視線の先には。
丁寧に卸された魔物の食材や、丁寧に加工された魔物の素材。
更には魔物を捕獲するための道具や武器、果てには船を改造するためのパーツまで。
おおよそたこ焼きだけでは説明が付かない程の盛り上がりに、四人がワクワクしていると。
「ちょっとごめんよお兄さん方」
不意に、誰かに声を掛けられる。
振り向けば、
「……アキナだったか」
「覚えてくれててどーも。とりあえずこっち来てくれる?」
ギルドマスターアキナの姿が。
ただ、そのアキナはどこか不機嫌であり、四人を有無を言わさない雰囲気で付いてこさせる。
目的地は、冒険者ギルド。
ギルドマスター室に案内し、適当に座れと促して。
「とりあえず、一つ」
全員がソファーに腰掛けた事を確認し、口を開いたアキナは。
「あんたら、自分の立場分かってる?」
と、四人からすればなんのこっちゃな事を口にして。
「何も追われるようなことをした覚えはないのですが?」
「はぁ……」
その問いかけに、正直に答えたリリウムへの返事は、大きなため息。
「まぁ、あんたらの言う通り、あんたらは何もしてないのよ」
そのため息に続いた言葉に、四人はさらに首を傾げるが。
「でもさ、考えて? 次回大会の開催を宣言し、そのお題も決まった。そんな状況であんたらが市場で素材を買う。……どう見ても次の大会で使う食材の調達だと思われるでしょ?」
「まぁ……確かに」
「そう見えなくもない……ですわね」
アキナの懸念は、審査員である『夢幻泡影』がレシュラック領で素材の買い物をした。
つまり、次回大会の正解はレシュラック領の食材を使う事だ、と間違った認識を持たれること。
もちろん、食材が売れるのだから喜ばしい事ではあるものの、それはレシュラック領の許容を越えない場合の話。
もしこれで買い付けに来た料理人たちが殺到し、材料が枯渇してしまったら?
材料がないからと、本来は賄えるはずだった従来の顧客が離れてしまったら?
買いに行ったのに食材が無い、行っても無駄だと思われたら?
そうなっては将来的に廃れてしまう可能性すらある。
だからこそ、早い段階で声を掛けたのだ。
周りに、変な邪推をされる前に。
「欲しい食材はギルドに伝えて。こっちで買ってあんたらに渡すから」
「市場に並んであるリストを貰おう。もちろん、報告させているんだろう?」
「……あるわよ」
「口頭では面倒だ。このリストに印を付けて構わないか?」
「構わないわ。同じのを何枚も複写させてるから」
若干の不自由さを感じつつ、それでも『夢幻泡影』は文句を言わず、この状況を受け入れた。
ランクが上がれば、こうなる事は予想出来ていたから。
「……すまない、茶か何か出ないか?」
「酒でもいいぞい」
「紅茶がいいですわ」
訂正、文句は出た。お茶も出た。




