考えすぎか……?
「持ち帰りの料理は?」
カタラーナをご機嫌に食べ終え、紅茶のお代わりを一杯。
ゆっくりと時間をかけて楽しんだら、お次はお持ち帰りの品へ。
「これをと思ってるんですけど……」
「……パテか」
俺の考えはこうだ。
パテを渡す。向こうに戻った後、焼きたてのパンに塗って食べる。
以上。
別に手を抜いたとか、持ち帰りのメニューが思いつかないとかそういうわけじゃないよ?
いいね?
「ちなみに今日のカレーにも入れましたね」
「……カレーに?」
眉を片方だけ上げて怪訝な顔をするラベンドラさんだけど、本当の事だしなぁ。
「とりあえず味見をどうぞ」
買ってたクラッカーと共にパテを渡せば、すぐに察してクラッカーでパテを掬い、一口。
「……お、おぉ……」
ラベンドラさんが美味しさに震えておられる……。
やっぱ美味いよな、パテ。
「作り方を……」
「解呪して加熱したバハムートに、バターと生クリーム、塩コショウで味付けして混ぜるだけです」
「解呪と加熱をする時点でだけではないがな」
言われてみると異世界視点はそうか。
いや、現代視点でも解呪なんて工程は普通は入らんからだけではないのか?
最近色々と定義が壊れて来てる気がする。
主に俺の中の常識の。
「ワインは入っていないのか」
「あー、入れてないですね」
入れても美味しいだろうなとは思う。
ただまぁ、入っては無いな。
「これはサンプルに貰っていくとしよう」
「サンプル?」
「これを基準に向こうでもパテを作る」
「なるほど……」
「パンだけ貰えるか? もはやこちらの世界のパンでなければあいつらが満足しない」
そう言って指差す先には……。
「こちらの世界のパンを食べると、向こうのパンが陳腐に思えてしまうんですのよね……」
「こちらのパンは軽く、美味い。向こうは少し重たいんだ」
「小麦の香りも全然違うわい」
……あれだな。
餌を待つ雛鳥を思って欲しい。
巣から顔を出して口を開けて待ってるやつ。
今あんな感じね。
「まぁ、いいんですけども」
ちなみに食パンよりもバゲットの方が好まれる。
もし家に異世界からエルフとか来たら参考にして欲しい。
「何度か挑戦しているのだが、中々こちらの世界のパンのように焼けないんだ」
「それでも、ラベンドラの焼くパンはいい所まで行ってるんですのよ?」
「ボーダーは越えているな」
「けど、なーんか足りんのじゃよな」
焼いてるんだ、ラベンドラさん。
なんだろ? 酵母菌とかが違うとか?
そもそも日本のパンが世界的に見ても美味しいかつ尖ってるしなぁ……。
あまり参考にはならなさそう。
「パテ、カタラーナ、試したい物がいっぱい出て来た」
「明日は色々と楽しみですわね」
なんて言いながら帰り支度をするラベンドラさん達。
「そうだ、カケル」
「はい?」
「この魚たち、解呪して干物にしておいてくれ」
そう言って渡されたのは……いや、何の魚かは分からないけどさ。
恐らく、干物にするサイズ感では無いと思うよ、うん。
ブリくらいの大きさあるし。
でもまぁ、ゴー君に任せれば出来るか。
「分かりました」
「ちなみにそれ、私たちの世界版鰹節ですわ」
「へ?」
「その魚から取れる出汁がこちらの世界のソレと非常に似ているんだ」
「やっと辿り着いたんだ……」
「かなり探しとったからのぅ」
見つけたのか、雷電。
鰹節……でも干物にするのか。
いや、干物からでも出汁は取れるけども。
本来の鰹節は干物どころじゃなく、結構な時間かけて燻したり乾燥させたりするし……。
まぁ、異世界組がその工程を面倒だと思ったんかな。
……エルフなのに。人間より時間がたっぷりあるはずなのに。
――日本人が食べ物に対するこだわりが強いだけだったりする?
しそう。
「ではカケル、明日も頼む」
「お邪魔しましたわ~」
と言う訳で全員が魔法陣にて帰還。
さて、と。
「明日何を作るかなぁ……」
*
「大変美味しいですね……」
「煮たり焼いたりと試したが、ユッケやこうして食うのが一番美味い」
「口当たりはトロリとクリーミィ。でも、味はガツンと来るようなうま味と濃厚さがたまりませんわ」
「ピリッと来る胡椒のアクセントがいい」
「紅茶にも合うし、パンにも合う。最高の朝食じゃわい」
元の世界に戻り、早速パテ作りを行って。
夜が明け、朝になる頃には、試作n号パテが完成。
四人を尋ねたソクサルムを巻き込んで、試食会兼朝食が開始された。
「スープも美味しいです」
「バハムートを入れるだけで一気に高級なスープに早変わり。やはり素晴らしい食材だ」
「また採りに行かないとですわね」
「それで? まさか朝食を一緒にするために我々を探していたわけでは無いのだろう?」
その最中、もちろん気になるのはソクサルムの事で。
彼が直接出向いたとなれば、明らかに四人に対する何かがある。
その確信は、当然のように当たっており。
「『無頼』さんは覚えていますね?」
「もちろん。短い期間でしたが、共にダンジョンを踏破した仲ですもの」
「その『無頼』さんからの依頼で、バハムートを一目見たい、と」
「構いませんわよ?」
「ですが、その期間が我らの国主催の国王会談の前日からなのですよ」
切り出された話は、『無頼』から『夢幻泡影』への依頼。
バハムートを確認したいという内容で、その内容には違和感はない。
ただ、依頼された期日が付け足された瞬間に、途端に違和感が増す。
「我々を引き離したい?」
「ですが、向こうには『無頼』さん以上の戦力はいません。対してこちらにはあなた方以外にも『ヴァルキリー』が居ます」
「隠し戦力などは無いんか?」
「戦力を隠せるほど国力は無いように思えます」
「……何か裏があるか?」
「分かりません」
そこまで話し、パンとパテ、スープを食べ終え、紅茶を飲み干したソクサルムに。
「何故それを私達に?」
リリウムが問いかければ。
「『無頼』さんに注意してください。もしかしたら、何か考えがあるかもしれませんので」
とだけ残し、ソクサルムの姿は虚空へと消える。
それを見送った四人は……。
「いっその事、『無頼』をこちらに引き込めないか?」
「飯で釣るか? 案外ホイホイ付いて来そうだぞ?」
「とりあえずバハムートを使った料理とカレーで様子を見るとしましょう」
「カレーのレシピに関しては絶対秘匿だ。いいな?」
割と成功率が高そうな引き抜きを思案してたりする。
なお、王の元へと戻ったソクサルムは、バハムートパテの事をうっかり王へと報告してしまい、四人へレシピを聞きに数秒後、再び舞い戻ってきたりした。




