閑話 大きく渦を巻き始め
「回答が来た」
「なンて?」
「近々国王同士の会議を行うって」
「同伴は?」
「一名。護衛は対象外だけど、中には入れない」
湖。
その湖面に釣り糸を垂らし、誰かと会話をする『無頼』は。
「俺は?」
「連れて行かない。国王と私で定員」
「そ。ンじゃあ任せるさ」
彼の背後にて、同じく釣竿を握りしめた九尾の女性に向け……。
「で? いつまでそうしてる?」
先ほどから、釣りに来たというのに一向に釣り糸を垂らさない彼女に向かって、疑問を口にして。
「『無頼』」
「ン?」
「餌……付けて」
ウニョウニョと、蠢く芋虫型の魔物を指差し、そう言った彼女に対して。
「はぁ……。丞相様ともあろう御方が虫を触れねぇとはねぇ……」
「キモイ物はキモイ」
「はいはいっと。ホレ」
「虫を触った手をこちらに向けないで欲しい」
「はっ倒すぞ」
まるで、旧知の間柄のように、釣竿を渡す。
「ンで? 国王はなだめられそうなのか?」
「まだ攻め込んでも勝てないのは理解してると思う。問題は変な事を吹き込む取り巻き」
「だから戦力として一番に見られてる俺にダンジョン探索に出とけって言ってんだろ?」
「そう。……んっ」
会話の最中、九尾の女性の竿がしなり、水面が大きく揺らぎ始める。
「来た」
「昔っから釣りうめぇよな、お前」
「日頃の行い」
そう言って何やら片手で印を結び、水面を睨みつけると。
クンッと、竿のしなりが解消される。
何も知らない者が見れば、針が外れたと思うのだろうが……。
「抜いたか?」
「うん」
九尾が印を結んだ手を解けば、そこからぼたぼたとおびただしい量の血が零れ落ち。
「吸血姫、『アメノサ』。敵に回したくねぇな」
「気合! とか言って私の術が効かないバグな癖に」
動かなくなった魚を湖面まで引き寄せ、糸を手繰って釣り上げたアメノサは。
「外して」
「お前さぁ!!」
魚も触れないらしく、針から外せと『無頼』に頼むのだった。
*
「国王会議?」
「そうだ」
『夢幻泡影』の四人はオズワルドに呼び出され冒険者ギルドに。
あと数分呼び出しが遅ければ、また彼らは海底で魚卵の乱獲に勤しもうとしていたため、タイミング的にもギリギリの声掛けであった。
「それで? 私達には護衛を?」
呼び出しの内容は国王会議。
バハムートの存在を共通認識としたニルラス国国王は、その討伐を目的に周辺国へと働きかけ。
緊張状態の多い周辺国同士で不可侵条約の締結を提案。
その提案に賛同する国もあれば反対の国もある。
そして、こういった条約は全体のまとまりが無ければ成立しない。
つまり、今回の国王会議と言うのは、この不可侵条約を反対を表明している国々に飲ませるためのもの。
「いや、護衛は会議の会場までで中には入れない」
「同伴か?」
「同伴はソクサルムに決まった」
「なら、私たちの仕事はないじゃありませんの」
先ほどの『無頼』、アメノサとの会話の通り、護衛は付いても会議場には入れないし、同伴もソクサルムに決定済み。
リリウムに言わせれば、ソクサルムが居るなら自分たちの出番は無いという事なのだが……。
「それがな。他国からこのニルラス国の食文化に付いて興味を持たれていてな。会議に提供される食事を引き受けることになったんだよ」
「……それで我々に白羽の矢が立った、と言う事か」
「そう言う事だ。何かいい料理はねぇか?」
あったよ! 出番が!!
と言っても、直接的な出番ではなく、会議でお出しする料理の提供というものだったが。
「条件は?」
「なるだけ誰も食べたことが無い料理がいい」
「バハムート」
「既に他国に送ったよ。存在を証明するためにな」
「……むぅ」
誰も食べたことが無いような料理と聞いて、真っ先にバハムートを挙げるも。
そもそも今回の会議を開始するスタートラインとして、その身を他国に転送済み。
「ああ、なんだ。あるじゃないか」
「?」
「ちょっと待っていろ」
何かを閃いたらしいラベンドラが席を外し。
「厨房を借りるぞ」
冒険者ギルドの厨房へと入っていく。
そして数分後。
日本人なら匂いで空腹を覚えそうな、美味しい匂いをまき散らしながら、鍋を浮かせて戻って来るラベンドラ。
その鍋の中身は……。
「カレー! ですわね!!」
「そうだ。これなら我らの国王は食べたことがあるし、他の者は食べたことが無いだろう。少し前までレシピは秘匿していたが、安定して手に入るようになったため、これを機に解禁しよう」
カレーである。
そもそも、翔からカレールゥを貰って来なければ作れなかった代物だが、『夢幻泡影』が声を掛けられなければ取りに行こうとしていた魚卵から作ることが可能となった。
と言う事は、『夢幻泡影』が魚卵を市場に流し続ける限り、カレーが今後安定して食べられるという事。
「まずは国王に報告。材料の核となる素材を献上したのち、専属の料理人たちの手で改良を加えれば立派な料理になるだろう」
「かなりの量が出来ますもの。護衛に来た皆さんにも振舞えばいいのですわ」
「余裕を見せる、と言うのが大事になるだろう。誰も知らない料理を大量に用意する。これだけで、ニルラスの国力を示す事さえ可能だ」
「会議の日取りは?」
「もう少し先だが……」
「ペグマに言って土産を作らせとくか? この間送ったペグマ刀の一振りじゃあ寂しいじゃろ?」
タイミングが良かったとはいえ、あっと言う間に解決策を示す『夢幻泡影』に、オズワルドは静かに拳を握る。
唇を噛み、眉間にしわを寄せ……、
「とりあえず、そのカレーを頂けないか?」
ごくりと唾を飲みこんで、そう懇願するのだった。




