そ、そう来たかぁ~……
「……そうだ、カケル」
「?」
「カケルから告げられた天啓は素晴らしいものだったぞ!!」
お代わりもペロリと平らげ、何なら用意したビーフシチューがほとんどなくなり。
バゲットも当たり前のように買って来た分は消え去って。
現在食後のティータイム。
紅茶を淹れてそれぞれ団欒をしていると、ラベンドラさんから声を掛けられる。
「何の事でしょう?」
なんかあったっけ?
「深海に行き、卵を探せというやつだ」
「――ああ!」
あったな。そう言えば。
なんだっけな……異世界でスパイスを手に入れるための神様からのアドバイスなんだったっけ。
なんで魚卵がスパイスに繋がるのかは分からないけど、まぁ、異世界だしなぁ……。
「見つかったのは二種類だったが、どちらも画期的だぞ!!」
そう言ってテンションの上がったラベンドラさんから渡されたのは……。
ハンドボール?
なんか、透き通った濃い水色の球体と、同じく赤と茶色の球体。
これらが魚卵なんだろうか?
デカくね? ハンドボールサイズって。
「……これがそれです?」
「そうだ!」
いやその……そうだと言われても……。
こいつを俺にどうしろと……。
「ラベンドラ? 食べてみて貰った方がいいのではなくて?」
「む、そうだな……」
見かねたのか、口を出してくるリリウムさんに素直に従うラベンドラさん。
出されたのは……。
「漬物です?」
恐らくは濃い水色の魚卵なのだろう。
その魚卵の卵液って言うの? 中身の液体に漬けた野菜……マンドラゴラたち。
漬物かぁ……と思いつつ、爪楊枝でマンドラゴラを一つ頂くと……。
「んげほっ!?」
咽た。
それもそのはず、見た目と味が結びついて無かったから。
ただ……、
「キムチですか?」
一度舌で味わえば脳にインプット出来る。
この見た目は食欲をそそると言えない濃い水色の漬物……。
なんとキムチ味。
……と言う事は。
「これで俺たちの世界でもキムチが食える!」
「それだけじゃない。この成分を分離、分解、研究をすれば、こちらの世界のスパイスが数種類分手に入るのと同義だ」
「なるほど……スパイス単体じゃなく、混ぜ合わせた液体として存在させてるんですか……」
こう、魔物の鱗粉だとか言ってた時期が懐かしいよね。
それが今じゃあこうして調味液を手に入れてるんだから。
「ん? とするとこちらの卵は?」
濃い水色がキムチとするなら、こっちの赤と茶色の魚卵は何だろう?
「こちらは薄めて使う。だが、驚くはずだぞ」
という事でその薄めた奴があるらしいのでそちらをペロリ。
……そのお味は?
「なるほど!? カレーですか」
なんとカレー。
言ってる通り結構味が濃くて、薄めたと言ってたけどそれでも十分に濃いなと思っちゃった。
……にしても、
「面倒くさくなってカレールーを作っちゃったか……」
神様、もう少しこう……段階を踏みましょう?
(何を言う。そもそも普通なら深海を探索する事さえ適わん。それだけの実力を備えた事へのご褒美じゃ)
……本音は?
(出来る奴出てくるんかのぅと思っておった)
つまり、誰も到達出来ない可能性があるし、少しはっちゃけた物にしても問題ないだろう……と?
(あと、こっちの世界のカレーも美味そうじゃったしな)
……うん、そんな事だろうと思った。
「これで再三に渡って要求されていたカレーのレシピが国王に献上できる」
「あー……異世界のカレールゥなんて流石に書けませんものねぇ……」
んで、こっちがラベンドラさんがテンション上がっていた理由、と。
恐らくだけど、こっちのカレーを再現するために色々レシピを考えてたんだろうなぁって。
ただ、カレールゥなんて言うのは企業努力の塊なわけで。
そうそう再現など出来る筈も無く。
下手したら何度か挫折してたりして。
「それにこの卵も凄くてな。希釈の倍率がとんでもなく高い」
「? どういうことです?」
「今カケルに舐めて貰ったのがおよそ千倍希釈。だが、それでも濃いと感じただろう?」
「ですね」
「つまり、もっと倍率を大きくしてもカレーとして成立するという事だ。そして、この卵の大きさ。一つでどれほどの量のカレーが作れるか想像もつかん」
……なるほど。
希釈の倍率が高いってそう言う事か。
にしても千倍でこれか……。
もう倍にしても全然カレーとして通用するから、単純二千倍として。
ハンドボール大の大きさの卵で、カレーライス二皿分と仮定すると……。
四千食分。……四千!? 卵一個から?
「レシピと共に卵を二つ国王に献上すれば、それだけでしばらくは持つだろう」
「……ですねぇ」
俺バカだからよ。分かんねぇけどよ。
そんな量のカレーって傷みそうなもんだけどな。
――あ、異世界って食あたりとかの概念無いんだっけ。
全部呪いとか毒なんだよな確か。
てことは作り置きし放題? 天国か?
(来るか?)
行かないっての。
ことあるごとに勧誘しない。
(むぅ……)
八百万ジェットストリームアタックをけしかけますよ?
(せん! せんぞい!!)
全く……。
「ただ、確かにカレーではあるが、カケルの振舞ったカレーには及ばない」
「まぁ、色々隠し味とか入ってますし」
コーヒー牛乳、バター、お鍋の素。
バターを除いて異世界には無いだろう物が入れられてるしね。
「つまりここから私なりのアレンジが可能という事だ!!」
「……そろそろいいか?」
と、ラベンドラさんが力説したところで、何やら割って入ってくるマジャリスさん。
「どうしました?」
「デザート」
「あ、はい」
この人? エルフが主張してくるんだから明白だったわね。
それじゃあ、デザートをお出ししますか。




