この人らは……
紫の魔法陣が出現し、いつも通りに四人が登場。
そう、時刻は夕飯時……を通り越して晩御飯時である。
「美味い」
「ですわね」
……まだ何も食べてないでしょ。
まぁ、ただ、言わんとしてることは分かる。
部屋中にバハムートビーフシチューのいい匂いが充満してるんだよな。
だから、匂いを嗅いで美味い、と確信したわけだ。
……それでも、せめて食べてから言って欲しいな。
見た目は、匂いだけは美味い……みたいな料理も無きにしも非ずだからね?
「ビーフシチューか?」
「です。と言っても、もちろんバハムートを使っていますけれど」
鼻をひくつかせながら尋ねてきたラベンドラさん。
耳も一緒に動いてる辺り、期待してるのだろうか?
「む、いい香りじゃな」
で、最後に入って来たガブロさんも匂いに言及か。
換気扇回した方がいいかな。
「温めなおしますね。バゲットはトーストとそのまま、どちらにします?」
「トーストで」
「全員トーストでいいですわ」
「じゃな」
「うむ」
ほな焼くか。
ちなみにビーフシチューだけというのもな、という事で、サラダは買って来てある。
今日のご飯はバゲットにバハムートビーフシチュー、サラダの洋食セット。
作ったビーフシチューを味見して確信したんだ。米よりパンだって。
「芳醇なワインの香りがするが……」
「ワインと牛肉、玉ねぎを煮詰めてこいつを作りましたからね」
俺はもうすっかり鼻が慣れちゃってるけど、ラベンドラさん達はこの部屋に充満するワインの匂いを嗅ぎ取ったらしい。
「ワインを煮詰める……か」
「この世界のワインですもの。さぞかし深い味わいなのでしょうね」
「ちょっと味見しましたけど、凄かったですよ」
「楽しみだ」
バゲットが焼けるまでと、ビーフシチューが温まるまで。
つまるところ食べられる状態になるまでに、料理への期待感が指数関数的に上昇している気がする……。
「お待たせしました、バハムートビーフシチューになります」
だが、慌てない。
どんなに期待されようと、そのハードルを楽々と飛び越えるポテンシャルをこのシチューは持ち合わせている。
「とってもいい香りですわ~」
「すこぶる美味そうだ」
と言う訳でスプーンを手渡したら即座に臨戦態勢。
あ……。
ちょっと待った~!
「スイマセン、仕上げを忘れてました」
「?」
あっぶね~。
ゴソゴソと取り出したるはポーションミルク。
いわゆるコーヒーフレッシュ。
何気に一番最初にカップ麺に入れて以来の登場ですね?
コーヒーとかに入れるのはいつも牛乳だったし。
「それを……どうするのだ?」
「もちろんこうします」
ラベンドラさんの疑問に答えるように、ポーションミルクを俺のビーフシチューに回し掛けまして。
よし、完成。
俺がよく知る美味しそうな、そしてどこか高いお店で出てきそうなビーフシチューのビジュアルになりましたよっと。
「……なるほど」
なお、その様子を見てちゃんと真似する四人。
あれだな。俺がやってるから美味しいんだろうっていう信頼があるんだと思う。
それじゃあ気を取り直しまして。
「いただきます」
「「いただきます」」
ほぼ反射。俺がいただきますって言うと、つられて手を合わせて追いかけるよう脳にインプットされてるみたい。
いとうつくし。
「おほほー!! たまらんのぅ!!」
「すっごく凄い美味しいですわ!!」
「濃厚でコクがあり……美味い」
「パンと合わせても美味い!!」
で、ビーフシチューを一口食べた感想がこちらになります。
うんうん。ちゃんと美味しさのハードルは越えてくれたみたいだな。
「本当にワインと肉を煮込んだだけか?」
「玉ねぎをペースト状になるまで炒めて入れていたり、コンソメを入れたりはしましたけど、材料のほとんどはワインと肉ですね」
と、説明しながら俺も一口。
……うめぇ。
味見の時から知ってたけど、これうめぇわ。
マジでこう……高いレストランのビーフシチューってこんなのなんだろうなって感じ。
ワインの酸味と玉ねぎの甘み、牛肉から出たうま味とバターの塩味。
それらがコンソメを中継して手を取り合い、混ざり合って深い味わいを作り出してる。
そこに追加されたバハムートの出汁が、全体を一気に高いレベルに押し上げてくれてる。
煮込んだ事で牛肉は少しパサついてるけど、パサついた牛肉もバハムートの出汁と一緒に食べるとまるでミディアムレアの肉みたいに感じられるから最高だね。
どんな食材もオールウェイズクオリティの高いものに押し上げてくれる。
それがバハムートの魅力。
「バゲットのザクザクとした食感も合うな」
「焼いてあるので香ばしさも相まって非常に美味しいですわ」
「米よりもパンが合うだろう。だからこそバゲットなのだろうが」
「ワインは煮込むとここまで美味くなるんじゃな」
ね。
それ俺も思ったよ。
ワインって煮込むとスープになるんだ、って。
思えばワインもかなりの使われ方してるよね。
スープにソースに……日本酒とあまり変わらないか。
「キノコ類も何か欲しかったですね」
唯一惜しむとすれば、マッシュルームか舞茸辺りを入れればよかったかな。
絶対に合うはずだから。
「カケル、お代わり!」
「私もお願いしますわ」
「同じくじゃ」
「頼む」
あっという間にシチューを完食した四人からおかわりの声が。
「バゲットの追加は?」
……全員ね。 少々お待ちくだされ。




