次なる目標
「ばっかも~~んっ!!」
冒険者ギルドにオズワルドの声が響く。
それは、ギルドマスター室にて報告という名の取り調べを受けていた『夢幻泡影』に対するもので。
報告の内容は当然海底ダンジョン内の事。
特に、バハムートと対峙したという事実は、これまで僅かな文献にあるのみだった、ほぼ幻の魔物の新たな情報であり。
冒険者ギルドとしてはもちろん重要どころではない情報なのだが……。
そんな事よりも、
「あれだけ!! ダンジョンに行くときは!! 連絡をしてからいけと言っただろうが!!」
オズワルドが怒っているのは、そもそも『Sランク』の冒険者パーティが行き先を告げずに行方を眩ませるな、という事であり。
一度その事は、海底ダンジョンから第二回のスイーツ大会審査員の為に呼びだした時に口を酸っぱくして伝えたはずで。
同じことを何度も言わせるな、という思いも込められている。
「反省している」
「悪かった」
「という事で報告は終わりですわ」
「……待たんか」
前回のように、悪かった『ように』思ってはいないものの、それでもあまりにもあっさりし過ぎている謝罪に待ったをかけ。
「バハムートの発見は我らの国だけで納めていい問題じゃあない。周辺国と情報を共有し、対策が必要になるだろう」
引き留めた理由を説明。
現在、少なくなってはいるものの、ダンジョン内から突如として魔物が溢れ出す事象――『パンデモニウム』というものが存在する。
もしこの『パンデモニウム』が海底ダンジョンで発生した時、あのバハムートがダンジョンから解き放たれるわけで。
その時までに何かしらの対抗策が必要なのは明白。
だが、今のところニルラス国最高戦力の一角である『夢幻泡影』が、まるで歯が立たないという事は、現状だとなす術が無いという事。
その事を解決するために、同じ脅威にさらされるであろう周辺国への情報共有が必要……と言う訳なのだが。
「私たち以外が知ったところで、どうにかなるとは思えませんのですけれど?」
「だがお前らだけでもどうにもならんだろ? 国としても数を揃えて少しでも安心できる材料を増やしたいはずだ」
「一応我々の手に入れた情報は記す。あとは、尾の肉は採って来たから、それも付随させよう」
「解呪のやり方も一応は把握済みじゃ。……時間はかかるがの」
「……お前ら、飯が絡むと途端に頼もしくなるんだよなぁ……」
オズワルドは深くため息をつくと、まずは今回の件を国王へと報告。
報告書をソクサルムに叩きつけるという事で、リリウムの転移魔法で転送。
文字通りソクサルムの顔面に叩きつけられたことは、転送者のリリウム以外は知る所ではないが。
「んで? 効いた攻撃は?」
「まず比喩抜きで存在が膨大だ。我々はバハムートから見れば砂粒のようなもの。そんな砂粒が何をしても、効果があると思うか?」
「……ねぇな」
「唯一素材の尾の肉を剥ぎ取った際に反応は示したが、それまでは意に介さず寝ていたようだ」
「砂粒サイズでも肉を切られたら流石に痛い、か」
「ペンで指先を突くと痛いだろう? 痛さは当然あるのだろうな」
と、バハムートに関する調書を取っていると、ソクサルムからの返送が。
「むがっ!?」
――オズワルドの顔面へ叩きつけられた。
「……国王も俺と同じ考えらしい。可能な限りの情報を隣国へ伝えておけとの事だ」
「ほとんどの武器は歯が立たなかったが、この武器だけは例外だった」
「……ペグマ刀か」
ペグマ刀……翔が伝え、ガブロとペグマが異世界で再現した日本刀の事である。
その製作者の名前を取って、異世界ではそう名付けられている。
「……隣国に輸出するほど生産出来ちゃあいねぇんだろ?」
「サンプルを送ればいい。腕のいい鍛冶師が居るなら再現するだろう」
「オリジナルに比べて粗悪品にはなるじゃろうがな」
オズワルドは知らない。
ガブロの言うオリジナルが、異世界……つまりは現代の日本刀だという事を。
そもそもそんなものがある事すら知らず、オズワルドの中ではペグマ刀こそがオリジナルなのだから。
「連絡はやっておく。あとはバハムートの肉と、その解呪方法を……」
「国王にだな?」
「……そうだ」
ソクサルムからの返書の最後には、国王がバハムートの肉を所望しているとハッキリ書かれており。
その事を無視できるオズワルドでは当然なかった。
――そして、この『夢幻泡影』の報告を基に作成された報告書が隣国へ、ペグマ刀サンプルと共に送られたことで。
バハムートという存在を知った国々で、より強力な戦力を求めてダンジョン攻略や積極的な素材の売買が行われていくようになる。
……そんな中、
「へぇ……。こいつはすげぇ」
「これまでのどの刃物より切れ味が滑らかで、美しい」
「こンな武器を持っていて、あいつらは俺といる時に一度も見せなかったな……」
「奥の手か……それとも」
「出せない理由があったか……だな」
オズワルドの報告書と、ペグマ刀のレプリカを受け取った『無頼』と。
その隣に立つ、九本の尻尾を生やした赤髪の女性は。
「とりあえず知り合いの鍛冶屋集めて片っ端からこいつを作らせるか」
「一本でダメなら、二本。戦いは質よりも、数」
触れもせず、ペグマ刀を振り回し。
周囲の魔物たちを倒しながら、ズカズカと歩いていくのだった。




