欲しがります、貰うまで
異世界フルーチェも食べ終わり、お持ち帰りのご飯……と思ったものの。
思い出して欲しい。今夜は七草粥だったのだ。
つまりは持ち帰る様な食べ物はない。
七草も全部使い切っちゃってるしね。
「お持ち帰り……どうしましょう?」
「そうだな……」
てなわけで、俺とラベンドラさんが二人で考え込んでいた時。
ふと、とあるものが目に入る。
それは、俺が準備していた代物であり。
時間がかかるからと放置していたものでもあり。
さらに言えば、かなり柔軟に使える代物――オイスターソースである。
「これ……使いますか」
「? ソースか?」
「です。魔牡蠣をなんやかんやして絞ったソースで、こちらの世界ではオイスターソースとして有名ですね」
これまでの料理にも何度か使ってるけどね。
まぁ、自家製ではないけど。
「少し、味見を……」
ボウルに絞りっぱなしのオイスターソースを、薬指で少し掬って舐めてみるラベンドラさん。
――瞬間、
「うぉおおおおっ!?」
叫んだ。
もちろん何事かとこっちを見てくる全員に、
「お、驚いただけだ」
と言って手の平を見せて制止。
一度深呼吸をし、軽く咳払いをして……。
「これは……凄いぞ」
俺の手を取り、真剣なまなざしで見つめながら言ってくる。
あの、顔……近いです。
「凄まじいほどの旨味と風味。ほんの少量舐めただけのはずであるのに、思わず噛むという動作が入りそうなほどに濃厚。野菜にも肉にも魚介にも合う。私が保証する」
「じゃあ、これで野菜炒めを作ってパンに挟んだら……?」
「確実にご馳走だ。と言うより本当に凄いぞこのソース。ワインも赤にも白にも合うであろうし、恐らくは甘口、辛口を問わない。ちょっとレシピを……」
と言う事で、自家製オイスターソースで野菜炒め……文字通り野菜だけの炒めものを作りながら、ラベンドラさんにオイスターソースの作り方の説明。
「この量を作るのにそれほどミミックが必要なのか……」
「まぁでも、この量ありますから……」
出来た量と材料を比べつつ、そう言うラベンドラさんだけど……。
あれだけ使ってなお半分以上余ってるからね。
ちなみにオイスターソースはタバスコ瓶一本分くらいは出来ました。
俺も味を確かめてみたけど、かなり濃い。
で、噛むって言ってたラベンドラさんの言葉の意味が理解出来た。
一瞬牡蠣を口に放り込んだんじゃ? と錯覚するくらいには牡蠣の味と風味が濃厚。
そんなにドバドバ使う代物じゃないなってのが俺の印象かな。
「これはレシピと材料込みで王に献上したい。一気に食事のレベルが上がるはずだ」
「そこまでか……」
「私たちも味見を……」
「二人だけでズルいぞい!」
「姉にも恵みを~!」
「作ってるんだから持ち帰って食べるまでのお楽しみですよ」
食いしん坊ずに姉貴が加わると面倒なんだよ。
我慢しろし。
「私の分も作れ~」
「姉貴には明日の朝にもっと美味い物を準備しとくから」
「待つ」
急に落ち着くじゃん。
……ふっふっふ、俺は思いついちゃったのだ。
この自家製オイスターソースを美味しく食べられる最高の料理を。
「今聞き捨てならん言葉が聞こえた気がするが?」
「気のせいです」
「カケル、私にだけ何を姉上に食べさせるのか耳打ちしてくれ」
「ズルいですわ!!」
しょうがないにゃぁ。
と言う訳でラベンドラさんだけに耳打ち。
「卵ご飯です(コソコソ)」
なお、伝えたらラベンドラさんが目頭押さえて天を仰ぐもよう。
一体何がそうさせた!?
「ラベンドラ?」
「……私、ここに残っていいか?」
「ダメに決まっていますわ!!」
「道連れに決まっておろう!!」
「余計に気になる!! 何を食べさせるつもりなんだ!!」
はぁ……。
しょうがない。
「卵ご飯ですよ」
「……なに?」
「熱々ご飯に卵のコクと甘み。そこにオイスターソースの旨味と風味が乗るんです。最高でしょう?」
「……」
「……」
「……」
「あ、あの……」
何か言ってもろて……。
「カケル」
「はい」
「後生だから我らにも卵ご飯を……」
「……卵とソースだけでいいです?」
「米も」
「生米でいいので……」
と言う訳で本日のお持ち帰り、異世界で簡単現代卵ご飯セットと自家製オイスターソースの野菜炒めサンドになります(ヤケクソ)。
「はぁ……またオイスターソース作らなきゃ……」
「作り方は把握した。こちらで用意しよう」
「あ、それは滅茶苦茶助かります」
「カケルの要望で貝柱を確保していたらかなりの量のミミックが手に入ってしまったからな。こちらとしても処分をどうしようか考えていたのだ」
「市場に流しては?」
「買い取れる量が明確に存在しているからな。明らかにその量を超えるミミックが手に入っている」
「諦めて捨てるって選択肢は?」
「それを捨てるなんてとんでもない!!」
さて、朗報です。
魔牡蠣のオイスターソース、『夢幻泡影』が作ってくれることになりました。
ドンドンパフパフ~。
ぐへへ、あんな美味い調味料が手間も金も不要で手に入るとか最高ですわね。
ちなみに自家製オイスターソースの評価は、手間でも一度作ってみる価値はある、だった。
何度も作るかはその人次第かな。俺は材料が手に入ったなら作ってもいいかな派。
ただ、作る前に大部分が俺の腹に収まるだろうけど。
「明日には貝柱を渡せるだろう」
「楽しみにしています」
「では、世話になった」
「ごちそうさまでしたわ」
「次も楽しみにしとるぞ~い」
と言って異世界に戻っていく四人。
さて、と。
「オイスターソースの搾りカス、ゴーレム君にあげてこよっか」
「いくいく~」
俺もやる事やって、お休みしましょ。




