高い壁
「ちなみに今日のデザートは姉貴のリクエストになります」
「どうしても食べたくなっちゃってね~」
と言いつつ取り出したのは、先程買って来ましたフルーチェになります。
「皆さんは元の世界で食べて来たみたいですけど……」
話を聞くに、スイーツ大会の決勝にまで残ったらしいし。
何なら、そのフルーチェっぽいスイーツに投票したらしいし。
食べたくない可能性、あるよな? とか思ってたら、
「いや、こちらの世界のフルーチェなら食べたい」
「あくまで再現したようなスイーツと言うだけで、完璧ではありませんでしたし」
「滑らかさと甘さが足りなかった」
「せめてラベンドラレベルの再現をしてくれんと満足出来んわい」
だそうです。
いかに独学でフルーチェみたいなスイーツに辿り着こうと、この四人のお眼鏡にかなうには遠かったみたい。
まぁ、比べるのが酷なんだけどね。
「ちなみに味はピーチマスカットと濃厚ブルーベリーぶどうとありますけど――」
「両方!!」
「ですよね」
で、姉貴がご飯前にストロベリーを平らげたけど、それとは別に買って来たのは、普段あまり買わないなーってのをチョイスしてみた。
濃厚ブルーベリーぶどうに関しては、レギュラーフレーバーのミックスベリーとの違いが気になる所。
「じゃあ早速作っていきますか」
右手にボウルを、左手に牛乳を。
欲しがりしエルフ達に、スイーツの施しを。
秘技、死者の目覚め!!
……嘘です。
「片方は私が作ろう」
「お願いします」
ちなみに当たり前にラベンドラさんと分配して作成してます。
と言っても、計った牛乳を入れて混ぜるだけなんだけどね。
「やはりこちらのフルーチェはすぐに出来て楽だ」
「……一応聞きますけど、異世界で再現したフルーチェはすぐに出来ないんですか?」
「材料の関係で時間がかかる。それに、固まるのもこんなに早くない」
「朝に仕込んで食べられるのは夕方ごろですわ」
「そんなに……」
そりゃあ、俺もフルーチェがこんなにすぐ固まる原理を詳しくは知らないけどさ。
知識ゼロの状態で再現するってなると、そんなに時間がかかるものなのか……。
もしかしなくても異世界でのフルーチェは高級品なのでは?
「開発はされたが、開発者は有名なレストランの人間だったしな」
「完全予約制で、一週間前までに要予約と言ってましたわね」
高級品でした。
……でも、ホテルの朝食とかでお洒落な容器に入れられたフルーチェが出されたとしても違和感ないな。
ヨーグルトとかの代わりにとか。
「よし、出来たな」
「早速食べよう!!」
なんて言ってる間にフルーチェ完成。
それを奇麗にボウルから浮かせて、六等分してそれぞれ器へ。
俺が作ってたやつも同じことをして、これでスイーツの完成っと。
……ボウルに一かけらどころか一筋すらフルーチェが残ってないんだが?
やっぱり魔法って便利すぎるな……。
「ん~、サッパリ!」
「爽やかな甘さですわね」
「入っている果肉が嬉しい」
「これじゃこれじゃ」
「ここに神殿を建てよう」
家の中だぞ?
建てるな建てるな。
「この滑らかさ、この軽さ、この甘さ」
「やはりオリジナルは越えられませんわね」
「今から発泡ゼリーへと票を変えられないものか……」
「もう集計しとる。無理じゃろ」
なんかさ、ここまで言われると異世界のフルーチェを食べてみたくなるよな。
持って来てくれないかな。
「ラベンドラさん」
「なんだ?」
「再現されたフルーチェが気になるので、持って来てもらえません?」
「あ、私も気になる」
ラベンドラさんに声をかけたら姉貴も便乗。
やっぱり気になるよね。
「むぅ……このフルーチェと比べてかなり落ちるぞ?」
「でも気になるんですよ」
「そうそう。食べてみたいな~」
「……分かった。明日持って来よう」
「やった」
と言うわけで明日のデザートは異世界フルーチェになります。
ただ、色々アレンジの為の材料は用意しておくけどね。
わざわざラベンドラさんが『味が落ちる』と言うほどだもの。
持って来てもらったのに食べきれない、なんて失礼はしないようにするよ。
……アレンジをするのは失礼に当たらないものとする。
「異世界のフルーチェにも何かしら果肉を混ぜるか?」
「じゃがそうすると固まらんのじゃろう?」
「うむ。……待て、ならば同じ材料の物を使えばいいのでは?」
「と言うと?」
「発泡ゼリーだ。あのゼリーを角切りして再現したフルーチェに混ぜれば……」
「食感の変化と味の変化が追加されますわね」
お、なんか盛り上がってる。
この時、ラベンドラさんはふと閃いた。
このアイディアは再現レシピに使えるかもしれない。
「戻ったら発泡ゼリーを作った調理士に突撃だ」
「海底ダンジョンは?」
「そんなもの後回しだ! フルーチェが一段美味くなるかもしれないんだぞ!?」
ラベンドラさんが興奮するの珍しいな。
今探索中の海底ダンジョンを『そんなもの』呼ばわりしたことにマジャリスさん目を丸くしてるけど。
「こうなったラベンドラは話が通じませんわ。明日一日、探索を休みましょう」
「ふむ、そうするか」
「分かった」
なんて『夢幻泡影』の明日の予定が決まった? ところで。
濃厚ブルーベリーぶどうフルーチェへと、それぞれスプーンを伸ばすのだった。




