審査開始
「全く! 大会の開催が控えているのにダンジョンに潜るな!!」
「しかもよりによって海底ダンジョンとか言う他に誰も探索しないような所に行くんじゃないわよ!!」
昼前。
あまりにも見つからない『夢幻泡影』を探すべく、ソクサルムを頼ったギルドマスター達は。
ソクサルムの探知に微かに引っ掛かった魔力から、四人が海底ダンジョンを探索中であることを確認。
座標を指定し、海底ダンジョン全域に響き渡る、念話と言う名の呼び出し放送を行って。
ようやく地上に戻ってきた『夢幻泡影』を無事確保。
現在大会の会場へ連行中である。
「悪かったように思う」
「悪く思え。悪かったように思っているだけでは反省していないだろう?」
「チッ……」
「反省しろ……」
なお、当の『夢幻泡影』達は、大会の事は忘れていたわけでは無いのだが。
翔が強く求めた海鮮ミミックの貝柱――つまるところアワビの確保が最優先事項に食い込んでおり。
結果として、押しのけられた大会はそっちのけになっていただけ。
それもこうして連行されれば、舌打ちはするしため息は吐けど、大人しく審査員としての仕事は全うするつもりである。
「ご無沙汰してるっす!」
で、会場に付いた瞬間、最近聞いていなかった声が『夢幻泡影』の耳に届く。
「…………アエロスか」
「ぜってぇ名前忘れてたっすね」
「気のせいだ」
「そういう事にしておくっす」
それは、『夢幻泡影』に巻き込まれたおかげであれよあれよと出世の道を転がり上がり。
気が付けばギルド新聞に『今日のレシピ』なんて特集コーナーが設けられ。
その特集コーナーの責任者に祀り上げられてしまった『カウダトゥス・アエロス』の声である。
なお、ついでにギルド新聞の部門長にまで上げられてしまったが、もはやこうなったら行くとこまで行ったらぁ! と変に決心したりしているのは内緒である。
「にしてもあれっすね。前回は海鮮で今回はスイーツ。第二回大会開催前から次回大会の課題が何かを予想する賭けすら始まってるっすよ?」
「その賭けの元締めはどうせお前らギルド新聞であろう。……新聞の一部を投票券代わりにして配当を高くしたければ新聞を多く買え、と言ったところか?」
「うっ……か、考えたのは自分じゃないっす」
何やら金の匂いがするが、そこら辺に目くじらを立てるような『夢幻泡影』ではなく。
「今回から大会の形式が変わったらしいな」
「はいっす。前回の盛況っぷりから参加者が膨れ上がったっす。なので地域ごとに予選からの本選。本選優勝者を決勝大会へ……と言った流れで進行したっす」
「選考員に不満は出なかったか?」
「大丈夫っす。選考員は『Aランク』の冒険者で構成されて、賄賂などが発覚したら選考員除外からの冒険者登録抹消っす。美味い物を食べてるであろう『Aランク』の冒険者を使う事で、審査への不満は無いっす」
目の前に並べられた、僅か四つの皿。
それが、決勝大会へと駒を進めたスイーツなのだろう。
「目の前に用意されているのは決勝大会の最終戦に駒を進めた珠玉の一品ばかりっす。みんなどうやってこんな発想をするんすかねぇ……」
その四つの皿の中に、『夢幻泡影』が見たことのあるものが入っているが、その事については誰も言及しない。
言えば、色々と面倒な事になりそうだからである。
「というわけでまずは一番左の皿っす。最初っから飛ばすっすけど、皆さんが広めたチョコレートなる食べ物。それを寒天で固めたものっす」
最初に食べるよう促されたのは、いわゆるチョコレート寒天である。
現代でチョコレートを食べ過ぎた四人にとって、まだまだ改良の余地が残るこの世界のチョコレートを使ったスイーツにどのような反応をするか……。
「む、意外といける」
「少々甘さが足りない気もしますが」
「滑らかな舌触りじゃな」
「全然美味い……」
意外な事に、思ったよりも酷い出来ではなかったと四人は驚く。
寒天で固めてはいるが、固い食感ではなく。
固める工程を研究したのだろう、しっとり滑らかに固められたそれは、舌に、唇に触れるだけでチョコが溶け出てくるよう。
このスイーツならば現代日本に持って行っても通用するのではないか? と思わせる完成度に、自分たちの世界を舐めていたことを恥じる四人。
「続いては一部から猛烈な支持を受けての勝ち上がりっす。甘くないんすけどどうやら飲兵衛たちに大好評だったとの事で……」
そして、次に紹介されたのはなんと。
翔がこの場にいたら絶対に反応したであろう代物で。
「商品名としては突きスライム……略して突きスラとの事っす」
寒天をついて押し出した、いわゆる『ところてん』であり。
突きスラと呼ばれたソレに色が付いている事から、どうやら味は付いているらしい。
「むっ!?」
「むげほっ!?」
「酸っぱいのですね……」
「むぐっ……」
勢いよく口に入れた四人は、予想外の味に思わず咽た。
なお、現代日本のところてんよりも固めに作ってあるらしく、フォークで刺しても形が崩れず。
その分しっかりと歯ごたえがあるようで。
「強い酸味に驚いたが、奥の方には旨味があるな」
「噛むともっちりしていて美味しいですわね」
「スイーツなのかは怪しいが、軽食や食後のシメとしては悪くない」
「よくもまぁこんな発想が出てくるものだ」
と、意外にも四人からは好印象。
そうして、前半戦が終了し。
試食の後半戦へと折り返すのだった。




