物欲センサー突破
「あまりに誰も足を踏み入れないからか、かなりカオスだな」
「水中というのもあるでしょうけれど、生態系などがかなり違いますわ」
海底ダンジョン。
文字通り海の底にあるダンジョンなのだが、本来ならばそんな場所には足を踏み入れることすら容易ではない。
そもそもダンジョンに入ることも出来なければ、ダンジョン内を探索する事すら困難。
……なのだが、それは海底ダンジョンが、文字通り海底に存在すれば、という前提の物であり。
この『夢幻泡影』が挑む海底ダンジョンは、ダンジョンの入口が海底に存在するというだけで、ダンジョン内に入ってさえしまえば、普段のダンジョンと何ら変わりが無かったりする。
――もっとも、ダンジョン内の魔物は水生生物が主になっているが。
「ダンジョンの特性か、空中をまるで水中の如く進んでくる魔物が居るのには驚いた」
「空気自体が水の魔力を濃く纏っているんじゃろう」
本来は水中でなければ生きられない魔物。
それらが、このダンジョン内では当たり前に存在しており。
そのどれもが、空中を泳いで行動している。
おおよそ常識というものが崩壊している空間だが、魔法が存在する異世界では日常に近い。
「宝箱が貝なのは驚きましたけれどね」
「宝石も真珠がメインになっているしな。……ルビーパールやエメラルドパールは貴重だ」
「言っとる間にも宝箱じゃぞ。ほれ、あそこ」
現実には存在しない、ピンクではなくほぼ深紅に染まったパール。
あるいは、鮮やかな緑色をした真珠をブレスレットを、貝の形をした宝箱から手に入れホクホク顔の四人。
そんな四人の前に、また貝が現れ……。
「待て」
「うむ。気付いたわい」
「ミミック……。一体このダンジョンのミミックはどんな形状なのでしょうね?」
「食えるとありがたい。そろそろカケルに渡した食材が尽きる頃だ」
四人がミミックだと気が付いたその貝に、四人はそっと手を添えると。
「「レンジでチン!!」」
優しく、一切の容赦なく。
問答無用の一撃を叩き込む。
そして、
「これは……」
「うむ」
倒したミミックの中身を確認したラベンドラとガブロは、大きくゆっくり頷くのだった。
*
ふぅ、ただいま。
という事でね?
「お帰り~」
「たでま。カニ買って来たよ」
秋刀魚はね、うん。
時期が外れると一気に見なくなるね。
鯖とかブリとかはずっとあるのに。
「秋刀魚無かったかー」
「次は秋に帰っておいで。七輪引っ張り出して庭で焼いて食うべ」
「ありよりのありにけり」
で、姉貴の所望は日本っぽい料理だったんだよな。
となるとやっぱお鍋じゃない?
「で、カニ鍋の予定ですけど?」
「いいじゃん」
最近鍋ばっか作ってるような気がしなくもないけど、美味しいし、寒いし、しょうがないよね?
洗い物も少ないしさ。
「でも、ただのカニ鍋じゃあ味気ないよね?」
「そんな事無いけど?」
「そこは乗ってくれよ……」
空気読んで、姉貴。
「じゃあ、白子とかあん肝入りの痛風鍋にしなくていい?」
「カニだけじゃやっぱり味気ないよね」
よろしい。
本来は……というか、痛風鍋発祥のお店ではカニではなく牡蠣が入ってるんだけど。
まぁ、「kani」と「kaki」は似てるし誤差だよ、誤差。
というわけで、早速作っていきましょ。
白菜、ネギ、豆腐、大根。
材料を切っていきまして。
「ウニは?」
「無いです」
探したんだけどね、ウニ。
いいのが無かった。
今度休みの日に、超早朝に起きて、市場でも探しに行ってみようかな。
「醤油スープ?」
「もちのろん」
お鍋のスープは醤油ベース。
ちなみに味噌と悩んだ。
どっちでも美味しいだろうからね。
「カニは冷凍か」
「生は市場とかでないと買えんのよ……」
冷凍だから、大体どこでも売ってるし、いつの時期にも売ってある。
そこまで値が張るってわけでもないし、食べて楽しむなら俺は全然冷凍で満足ですよ。
……たまに生のカニを腹いっぱい食べたいなぁとか思うけど。
――待てよ? 今の俺ならカニミタイナカタマリを生で食えるのでは?
いや、耐性が付いたとかそういうわけじゃなく、解呪の方法を会得したからだけど。
「あー……ケジャンとか食べたいかも」
「日本の料理とか言ってた口はどこに捨てた?」
おもっくそ韓国料理ですがな。
あと、ケジャンなら使うカニが違う。
ワタリガニ買って来なきゃ。
「後は煮込むだけ?」
「あん肝の下処理しなきゃならん」
流石にスーパーには売ってないから、鮮魚店で購入。
あとは臭みを抜くだけにして貰ってる。
日本酒と水を1:1出ボウルに入れて、そこに塩。
そしたらそこに漬け込んで臭み抜きっと。
「……やっぱ牡蠣欲しいな」
「でしょ?」
まぁでも、無いものは仕方ない。
あーあ、誰か異世界のエルフが異世界の牡蠣を持ってきたりしてくれないかなぁ。
あーあ、牡蠣ならきっと白ワインが合うだろうしなぁ。
あーあ。
(……わしに言うとる?)
いいえ? ただの大きい独り言です。
牡蠣に合うソースも作れるし、何よりこの世界のワインと異世界の牡蠣の、世界の壁を越えたコラボとかワクワクするんだけどなぁ。
あーあ。
(……すぐには無理じゃ)
あ、全然無理しないで大丈夫です。
出来れば、でいいので。
(いや、もう四人がこっちに向かっとる)
なるほど。
今から食材を見つけさせるとかが出来ないってことか。
もう少し早く神様に言っとくべきだったな、ちくしょう。
(やっぱりわしに向けて言ってたんじゃろうが)
……あ、バレた。




