凄いワイン……
さて。
俺はとりあえずご飯に手を付ける前に、カルパッチョとタルタルステーキ、バゲットと赤ワインを並べまして。
二礼二拍手一礼。
異世界の神様にこの作法が正しいかは置いておいて、結局必要なのは心。
というわけで神様、スミレワインに姉貴が買って来たお土産ワイン、それに合うであろうおつまみです。
(スマンのぅ。美味しく頂くぞい)
……姉貴にお土産にはワインを、とねだっておいて、スマンじゃないんよな。
ヨシ、俺も食べよう……ってアレ? 何故に皆さん食べてないので?
「独特な祈りだったな」
「この世界だと一般的かなー」
「私たちは神への祈りに拍手はしませんわ」
「何度も頭を下げる理由も分からん。一度でいいと思うのだが……」
「まぁ、こういう作法なので」
どうやら、俺が神様にお供えしてる様子を見られてたらしい。
恥ずかしいじゃん、なんか。
ご飯食べてて良かったのに。
「それじゃあ早速前菜から頂くぞい」
そう言ってカルパッチョに手を付けるガブロさん。
「むほほー! しっとり柔らかい肉とやや酸味の効いたソース! そこにチーズのコクが合わさって最強じゃな!!」
「乗せられた野菜のピリリとした刺激がまたいいですわね」
「全体的にバランス良くまとまった料理だ。しかも水準的にはかなり高い」
「これで前菜というのだから全く……」
それに続くようにみんな食べ始めたけど、概ね好評でボク満足!
「はぁ、おいし」
姉貴も静かに、浸る様に言ってるからかなり美味しいようだ。
俺も食べよ。
「……最高」
ケルピー肉の美味しさに、ソースが合い過ぎる。
バルサミコ酢の酸味と風味に、醤油の香りと塩味がすんごく合う。
そこにブラックペッパーの刺激とニンニクの刺激が合わさってさ。
肉が味わい的に丸く柔らかい分、鋭く刺激的なソースの組み合わせが最高。
さらにそのソースを包む様な粉チーズのコクとまろやかさが追加され、仕上げにカイワレのスッキリした辛みで締められる。
これ、確かにヤバいくらい美味い。
前菜って出したけど、全然メインでいい。
というか、一人暮らしならこれだけで満足してる。マジで。
「そしてワイン……」
「フルーツの香り、そしてかなり深い甘い匂いが漂うワインだ」
「色も深い紅、まるで宝石を思わせるよう……」
「口の中に肉の旨味が残っとるうちに飲むぞい!!」
で、俺がカルパッチョを評してる間にワインへとスライドした四人は。
「ふわぁ……」
「凄いですわこのワイン……」
「美味しい……」
「……」
語彙、落としちゃったね。
あと、ガブロさんの口からふわぁ……なんて言わせた翻訳魔法君、後で職員室。
「これまで飲んだどのワインよりも果実を感じる」
「舌の上では滑らかですのに、濃厚でしっかりとした味わい……」
「甘口なのが肉に合う。いや、肉だけでなくソース、チーズとも相性抜群だ」
「香りも凄い。爽やかなミントの香りが飲み込んだ後も鼻の奥に残っているようだ」
凄いな、べた褒めじゃん。
俺も飲んでみよ。
……美味い。
え、美味い。
ていうか、なんだこのワイン。
ちょっとマジで今まで飲んだことないレベルで果物の主張が凄い。
例えとして、でっかいプルーンを頬張った時みたいな感覚になる。
しっかりどっしりとした赤ワイン、なのに滑らかなおかげで飲みやすく、飲み込んだ後の清涼感も凄い。
……姉貴、なんてものを買って来たんだ……。
「これ美味しいわね」
「姉貴のお気に入りとかじゃないんだ」
「違うわよ? というか私、仕事で出てる時はお酒飲まないから」
「あ、そうなんだ」
「そう。だから現地で良さそうなワイン見繕って買って来ただけだもん」
「ちなみにどこで買って来たの?」
「アメリカ。カリフォルニアだったはずよ?」
確かにカリフォルニア産ってラベルに書いてあるな。
……ケイマス、かな? ワインの名前。
いくらなのか調べてみよう。
お手頃なら日本で探して一本家に置いときたい。
「肉との相性もいい」
「肉にも肉汁にも抜群の相性ですわね」
「飲むだけで喜びが湧き出てくるようだ。本当に素晴らしいワイン」
「飲み干すのが勿体なく感じるわい。じゃが、口から消えると飲みたくなるジレンマじゃな」
……たっか。
姉貴、こんなワイン買って来たのか。
これはちょっと……誕生日とか、クリスマスとか、一年の中でも特別な日に飲む様なワインだわ。
カワウソ祭りも中々だったけど、これは頭一つ抜き出てるよ。
「カケル、すまない」
「あ、はい。何でしょう?」
「何かスープはないか? ワインに合わせたい」
「赤ワインに合う、コンソメスープがあると嬉しいですわ」
「お湯を沸かせばすぐに」
「すまない」
前菜とメインだけじゃ足りないって、エルフ達からリクエストされちゃった。
確かにカップスープの素はあるんだから作ってあげればよかったね、ごめんね。
というわけでケトルをセットしスイッチオン。
しばしお待ちくだされ。
「このカルパッチョとやらも、ワインとやらも、余裕で我々の世界の料理を圧倒したな」
「でもメインの肉はそちらの世界の食材ですからね」
「それはそうだが……そもそも生で食べられるように解呪するというのが……」
「あー……」
そういや、解呪の技術はまだ確立されてないんだっけか。
じゃないと俺に解呪を依頼とかしないわけだし。
(翔よ)
はいはいどうしました神様。
(この四人がお主と巡り合えて良かったと、わしは心から思うぞい)
あ、それはどうも。
(……じゃからもう一本、ワインを供えてくれんか?)
……もう飲んだんですか? 神様。




