考えてなかった……
持ち帰りのご飯だけど、キムチ鍋の素を水筒に入れて持たせて終わり。
向こうでも鍋をするんだって。
なんでも、最近放置気味だった人達に振る舞うんだってさ。
色んな所の顔色を窺わないとって考えると、冒険者も向き不向きありそう。
まず確実に言えるのは、体育会系は合いそうだなって思うわ。
かくいう俺も高校時代は運動部だった。
下校のチャイムと同時に帰宅までの時間を競う、KTAの走者。
――つまりは帰宅部です、はい。
「あ、そうそうリリちゃん」
「なんでございましょう?」
……リリちゃん?
姉貴はリリウムさんの事をなんて呼び名で呼んでるのでせう?
「庭にいるゴーレム君さ、宝石を食べたがってるの」
「……なんと?」
魔法陣に入ろうとしてた『夢幻泡影』の四人が、一気にその足を止める。
ちなみに、今ではこうして帰ろうとしてますけど?
この四人、揃いも揃って炬燵から出ようとしなくてさ。
「それでは」
とか言いながら、炬燵に亀みたいに四人入ったまま、炬燵浮かせて移動してたからね。
あまりに無法過ぎる。
「ゴーレムが宝石を欲しがることなんざ記録にあるか?」
「無い。本当にレポートを書いて欲しい所だ」
「えーっと、話し続けるね? でも私の持ってる宝石って商売道具でさ? どれも与えられなくて……」
「分かりましたわ。向こうで価値の無い宝石を手に入れて送りますわね」
「助かる! その代わり、宝石を与えてどんな変化が起こるか記録しとくから! ……翔が」
「ちょっと待て。それは自分で――」
「では、よろしくお願いしますわね」
……行ってしまわれたのだが?
んふふー、何故だかゴーレム君の記録を押し付けられたぞ?
よし、こうなったら、
「姉貴」
「なぁに?」
「俺、ゴーレム君の記録で忙しくなるだろうから、ご飯自分で用意してね?」
「へ?」
「食パンは置いとくから、後は適当に料理して食べといて」
「待って待って待って」
「じゃ、よろしく」
……まぁ、これ位でいいだろ。
朝も昼も食パンで済ます、その覚悟があるものだけが、俺にゴーレム君の観察記録を押し付けなさい。
*
「……はぁ」
まぁ、朝ご飯は普通に作るんですけどね?
というか、朝になってすぐ宝石が送られてくるわけでも無いし。
というわけで、俺の分と姉貴の分、ごく当たり前に朝食を作りましたわ。
リボーンフィンチの卵のスクランブルエッグに、燻製ヒツジナゾニクのソテー。
そこにサラダとカップスープ。そしてトースト。
ご機嫌な朝食だ。
「おはよ~」
「はよ。ご飯出来てるぞ」
「……ご機嫌な朝食だ」
同じこと思ったし。
やはり姉弟か。
「やっぱ卵が緑なの違和感凄いなぁ」
「慣れてもろて」
「この卵ってあとどれくらいあるの?」
「……さぁ?」
リボーンフィンチの卵、当たり前に分身し続けてるからなぁ。
残り分身回数とか分からんわよ。
「そんな一杯貰ったの?」
「いや、ベースは一個だよ?」
「ベース?」
とか会話してたら、タイミングよくテーブルの上にコロン、と。
リボーンフィンチの卵が分身して出現。
姉貴、その卵を数秒凝視。その後俺へと視線を移し……。
「手品?」
「だったら俺は今頃テレビで引っ張りだこでしょうよ」
一瞬現実逃避というか、一番現実的な考えを口にした姉貴だけど……。
ところがどっこい! 手品じゃありません! これが異世界食材!!
「残機を蓄えられるモンスターの卵なんだけど、分身と合体を繰り返して残機を増やすらしいの? それで、分身した卵を隔離して合体させないようにして使ってるってわけ」
「なるほど、わからん」
まぁ、いいや。
そんなすんなり受け入れられても困る。
……俺、なんですんなり受け入れたんだろうな。
多分あれだな、神様のせいだな、うん。
「まぁとりあえず、しばらくは無限に卵が供給されるってこと」
「ほへー」
まぁ、とか言いつつ姉貴は緑色のスクランブルエッグ食べてるんですけどね。
もうほぼ抵抗ないじゃんか。
「馬刺しは?」
「朝から食うもんじゃない」
「牡蠣は?」
「朝から食うもんじゃない」
「翔は?」
「食べた。めっちゃ美味しかった」
……あ。
「ふーん……」
「出すよ……」
ちくしょう、乗せられた。
……しょうがない。
「ちなみに昼飯用だから、食べきったら昼の分無くなるからね?」
「うっ……すぐそういうことする」
準備してやってるだけありがたいと思え。
「んでも牡蠣や馬刺しにパンは合わなくない?」
「米炊いてるが?」
「流石かよ」
「どっかの姉と違って優秀な弟なんだよ」
「よく出来た弟~?」
「そこまでは言ってない」
「兄より優れた弟は存在しない!」
「いつから兄になったんだお前」
なんてバカな会話をしつつ、朝の時間を終えまして。
仕事中の昼休憩。
スマホに通知が来たからなんだろうと思ったら、姉貴から。
『ご機嫌な昼飯』
と、馬刺しに牡蠣が奇麗に並べられた写真が送られてきまして。
燻製ヒツジナゾニクを使ったエッグチーズサンドを食べてた俺の手が、一瞬止まったよね。
ほーん、そんなことするんだ、と。
よく覚えとけよ、と。
――んでも待て? もしかしなくてもこれって俺が普段姉貴に対してやってることと変わらないのでは?
……ゴメン、それだけは反省するわ。




