牡蠣チゲ
「鍋が赤い」
「という事は辛いのですわね?」
十分に煮た鍋を炬燵へと移せば、中を覗き込んだマジャリスさんとリリウムさんが口々に。
というか、しっかり炬燵に引き込まれちゃってまぁ……。
まぁ、炬燵には魔力があるからしょうがないんだけど。
「キムチ鍋、ですね」
で、辛いのか? という問いに、料理名を教えてやれば。
三人ともなるほど、と頷いた。
キムチはチャハハーンで使ってたからね、名前を言えば理解してくれると信じていたよ。
「肉が見えんようじゃが?」
「今日の鍋のメインはコイツなんで」
と、肉を入れてない事に不満を漏らすガブロさんだけど、残念ながら牡蠣があるなら豚肉は入れないかな。
味が喧嘩しそうだし。
「ガブロ、落ち着け。こちらの世界の食材だ。果物じゃない」
「……まだ慣れんわい」
そうか、ガブロさんは果物と思って牡蠣を食べた側なんだっけ。
まぁ俺と姉貴は牡蠣だと思ってバナナを食べたんですけど。
マジで許さん。食い物の恨みは恐ろしいんだからな。
「翔、一応確認だけど、あのふざけた食べ物は入ってないよね?」
「入れるわけない。第一、見分けつかないのに入れるわけ無いでしょ」
なお、姉貴も同じ考えのもよう。
ふざけた食べ物とか呼んでる辺り、怒りが伺えますわね。
「ちなみに鍋のベースは?」
「味噌味」
という事で作った鍋の確認が姉貴から取られましたので、早速食べていこうと思います。
牡蠣、マジで贅沢にこれでもかと入れまくったから、一人五個や十個じゃきかないよ。
買って来てくれた姉貴に感謝。
もやしや白菜と一緒に牡蠣を取り皿に取りまして。
「「いただきます!」」
いざ、牡蠣鍋!
「むふっ! 美味いのぅ!」
「クリーミィなのに濃厚で、そこに来るピリリとした刺激が何とも……」
「野菜も美味い。辛いのが合う」
「牡蠣からの出汁がスープに出ているな。美味い」
美味いのなんざ知ってるんだよなぁ。
この加熱した事でプリップリになる真牡蠣! 小ぶりで一口に収まるサイズなのがまた美味いんだ。
無論、米に合う!
「はぁ……最高」
姉貴もキムチ牡蠣鍋の出来にウットリですわよ。
「スープをたっぷり含んだ油揚げが美味しいですわ」
「それを言うなら豆腐もだ。最高だぞ?」
「ネギの甘さとスープの塩味、辛みの調和がだな」
「見た目以外最高に美味い」
ふふ、エルフには分かっているようだな。
鍋とは野菜を食うものなのだと。
……それはそれとして牡蠣は食います。
だって美味しいんだもん。
「体中がポカポカしてきますわね」
「この炬燵とやらがいい。正直、抜け出したくない」
「分かる。……一度魔道具として作り、貴族に送りつけようか。怠惰になり評判が下げられるかもしれん」
「我々からと送ると敵視されかねん。むしろソクサルム辺りに情報を流し、国として目障りな貴族の悪評を立てることを視野に入れて……」
……食事中ですよ? 怖い話しないの。
話の中心は炬燵で堕落させようって部分なのは面白いけど。
「皆さんの世界に暖房器具的なのは無いんですか?」
「暖炉ぐらいじゃな」
「後は窯?」
「暖房というよりは調理器具だしな……」
無いんか? 魔法があるんでしょ?
温度調節の魔法くらいありそうなものだけど?
「温度調整とかは?」
「耐寒、耐暑の魔物の皮で作った服くらいじゃな。それらを肌着に、寒いなら毛皮のコートを羽織るのが一般的じゃ」
「魔法とか使わないんですか?」
「常時展開するとなると魔力の消費が多い。それに、対人ではなく対空間にかけることになる。範囲を広げればそれだけ魔力を食う」
「つまり、一日とか継続出来る魔法使いが少ない?」
なんか、目の前でポンポン魔法とか発動させてるからバグってくるけど、そう言えば『夢幻泡影』って異世界基準でも上澄みなんだっけ?
てことは、そうそう魔法で温度調節なんて事を出来る存在が少ないのかな。
「居るは居る。だが、その魔法を発動するより、攻撃魔法を使った方が実入りもいいだろうし何より楽だ」
「あー確かに……」
「何らかの理由で冒険者を引退した方で、魔力が多い方ならばあるいは……と言ったところですわね。それでも、その場合は研究職へと舵を切る事の方が多いですけれど」
それも確かに。
というか、貴族に引っ付いて温度を一定にするのが仕事とか言われても、俺は嫌かなぁ。
なんと言うか、甲斐が無さそうじゃない?
だったら冒険者になった方がやりがいはありそうだし。
「ちなみにスープが美味しいのは分かりますけど、シメに使うので残しておいてくださいね?」
「むっ……。もう少し早く言って欲しかったな」
こんな話をしてる間も、ラベンドラさん、鍋のスープを結構飲んでたんだよね。
それだけ気に入ったっぽいのは嬉しいんだけど、この後の事もあるよ? と。
シメにキムチ牡蠣雑炊とか、ラーメンとか、ちゃんぽんとか考えてるからね?
……まぁ、そんな事もあろうかと、鍋のスープの素はまだあるんだけれども。
野菜と牡蠣の旨味が出たスープはそこにある分しかない。
つまりはあまり飲まないでってこと。
「やっぱり牡蠣は加熱して食べるに限る」
「ダウト。生も美味い」
「でもカキフライも美味しいじゃん?」
「焼くだけでも美味い定期」
「酒蒸しもあるぞ愚弟」
「何を喧嘩しとるんじゃ二人は……」
おっと、牡蠣の事で熱くなってしまった。
「結論は全部美味いって事で」
「手打ちにしようか」
今回だけだからな。
さて、まだまだ残ってる牡蠣鍋、堪能していきますか。
――ニラも入れればよかった。ちょっぴり反省。




