酒は命より重い……
「ひっさびさの、お酒じゃわい♪」
うん、怖いくらいにテンションがキモイ。
あとそのリズム、とあるコマーシャルを思い出させるからやめて欲しい。
新一年生になる子供が、一年生になったらやりたい事とかを言う奴ね。
……最近見ないな。
ちなみに本日ご用意しました日本酒はですね。
調べたところ、馬刺しには辛口の日本酒が合うって事で、カワウソ祭りをご用意しました。
初めて買ったよ、カワウソ祭り。
でまぁ、お酒って言うのは同じ銘柄でも値段はピンキリなわけでして……。
今回は姉貴からの仕送りに物を言わせ、ある程度のやつを三本ほど。
この四人にはこれで充分。つーかこれが俺の限界。
というわけで、早速テイストでしてよ。
「いつ見ても奇麗に澄み切っている」
「そこから味も香りも膨らみ、複雑なのですからとんでもない事ですわ」
「見た目からかなり上質な酒なのだろうことが伺えるな」
「分かる」
まぁ……言わんとしてることは分かる。
ラベルとか、その辺で高いお酒ってある程度判断出来るよね。
……流石に桐箱とかに入ってるやつは買って来てないけども。
「まずは酒だけで……」
なんて言って、四人ともお猪口に注いだ日本酒をチロリ。
その反応は――、
「ふぅ……」
まずはため息を一つ。
そして、
「物凄く飲みやすく、香りも華やか」
「口に入れた瞬間に広がる甘さは、一瞬果物の蜜を思わせるほど」
「だのにその甘さは尾を引かず、まるで剣で切ったかのような後味じゃわい」
「飲み込んだ後の余韻も深く、長い。こんな酒があったとは……」
と、味わった感想が漏れ出てくる。
ていうか絶賛じゃん。そんな美味いのか……。
どれ、俺も味見を……。
――あ、マジで飲みやすい。
こう、クッと来るアルコール感て言うの? あれがほとんどない。
というか、感じる前にお酒の甘さと香りとで上書きされる感じ。
あと、四人が言ってた事が凄くよく分かる。
最初の印象はマジで蜂蜜とか、そっち系の強い甘み。
……あれ? 辛口のおススメにあったはずだからこれ辛口だよね?
ん~? 間違えたかなぁ?
「これを料理と合わせますのね?」
「あ、はい。そうです」
まぁ、美味しいし、いいか。
……んで、馬刺しは避けてしゃぶしゃぶに戻るのか……。
んじゃあ俺だけ先に馬刺しを頂きますか。
昨日も食べたけど、美味しいからね、しょうがないね。
醤油に、生姜をたっぷりと入れてっと。
贅沢に二切れ取っちゃう。
それを醤油に浸して……。
「んふー♪」
おっと、ご機嫌が口の中から突き抜けて鼻から出ちまったぜ。
俺の記憶にある馬刺しと比べて血の匂いが皆無。
噛むともっちりとした赤身肉で、その旨味がじんわり滲んできて。
その旨味が口の中に広がったところで、カワウソ祭りをチビリと口へ。
瞬間に口の中には肉と酒の旨味と香り、あと生姜と醤油の風味で溢れて来ちゃうぜ。
飲み込んだ後には生姜の香りとお酒の余韻だけが残るって寸法よ。
フー……。
飲み込んだ後のため息が美味い……。
「タレでかき消されるかと思ったが、香りも味わいもそんな事は無いな」
「味にも香りにも一本の芯が通っている。ここまでの酒はそうそう無いだろうな」
「まぁ、かなり有名なお酒ですし……」
日本の総理大臣が各国のトップに送った、なんて事もあったらしいしね。
その銘柄ではないだろうけど。
「カケル!」
「わっ!? びっくりした……。なんですか?」
「後生じゃ。この酒をわしに譲ってくれ……」
信じられるか? あのガブロさんがもっと飲ませろ、ではなく譲ってくれ、だってさ。
信じられるな。持ち帰ってゆっくり飲む気だ。
「持ち帰ってじっくり飲みたいと?」
「ああ。……いや違う! 弟に飲ませたいんじゃ!」
本音漏れてましたよ?
あー……弟さんにかぁ……。
それ、もっと早く言ってくれてたら、都合付けたのに……。
「まぁ、三本買ってありますし、一本ならいいですよ?」
俺は許すよ。
だが他の『夢幻泡影』のメンバーが許すかな?
「まだあるのか?」
「三本買ってたので、これ飲み終わっても後一本あります」
恐らくだけど、俺の人生で初の快挙なんよな。
日本酒を開けた当日に一本空にするって。
そもそもそんなに日本酒買わないけど。
日本酒より料理酒の方が買ってるわ。
「ならばいい。それに、カケルの事だ。我々が欲すればまた用意してくれるだろう」
「……毎回は無理です。何か、特別な日とか、ご褒美の立ち位置に持って来るんだったら構いませんけど」
姉貴銀行にも限りがあるしね。
なお、今のところは全然大丈夫なもよう。
というか、結構な頻度で宝石を送ってくれてるらしく、姉貴からの仕送りもそれに応じた額にはなってるんだよね。
だからこうして、たまに贅沢が出来るわけで。
……たまに? 結構な頻度の気がするけど多分気のせいだな。
「この酒は凄いな。どのタレにでも合うんだ。さながら相手に合わせて変化するカメレオンみたいな酒だ」
……ん? 今カメレオンって言った?
居るんだ、異世界にカメレオン。
――ハッ!? これもしかしなくても周囲の景色に同化するタイプの魔物を、翻訳魔法さんがカメレオンって訳してるだけだ!
つまり、異世界にカメレオンはいない。いいね?
「って、結局馬刺しに手を出してないじゃないですか」
「カケル、よく聞け。そもそも私たちは肉を生で食べる文化が無い」
「でも美味しいですよ?」
いいのか? 普段食べないって事は、こういう機会じゃないと食べないって事だぞ?
その機会をみすみす逃していいのか?
「ぐっ……」
「ガブロ、お酒の対価ですわ。最初に試しなさい」
「わ、分かったわい……」
はぁ。全く。
俺が食べたら体調に支障が出るものを出すわけが無かろうて。
それじゃあガブロさん、初めての馬刺しの感想をどうぞ。




