濁りの無いキラキラした瞳
「邪魔するぞい」
いらっしゃ~い。
お待ちしておりましたわぞ~。
「む、鍋か」
「ですです」
家に来た瞬間、鍋を見て察するラベンドラさん。
「どんな鍋か気になりますわね」
「鍋といえば、前回食べたすき焼きは美味かったな……」
なんて、すき焼きに思いを馳せておられるようですけど?
しゃぶしゃぶだって負けてないですわよ?
「後はお肉の準備なんですけど、ラベンドラさんにお願いしたい事がありまして……」
「なんだろう?」
お肉屋さんで買って来た豚と牛の肉は、しゃぶしゃぶすることを伝えたから薄切りにして貰ったんだけど。
ヒツジナゾニクとケルピー倭種肉はブロックのまま。
これを薄切りにして欲しいんだよね。
「こいつらを薄切りにして貰えます?」
「どのくらいの厚みだろうか?」
と聞かれたので、豚肉と牛肉を取り出しまして。
「大体これくらいの薄さで」
それを基準にと伝えると。
「分かった」
早速取り掛かってくれました。
そして終わりました。
早いって……。
こう風魔法なのかな? 肉が勝手に薄く削げていくんだもん。
そりゃあ早いよなっていうね。
さて、そうなったら準備は完了、今夜は最高、細工は流々。
後は仕上げを御覧じろ、ってね。
「じゃあ食べましょうか」
「? 鍋なのだろう?」
「ですよ?」
「煮込まないんですの?」
「それも説明しますね」
というわけで言われるままに皆が席に着き。
カセットコンロに乗せた土鍋を取り囲む。
んで、薬味やらポン酢やらもちろんごまだれも置きまして。
「まずは出汁を張った鍋に野菜をぶち込みます」
なお、俺流のしゃぶしゃぶのやり方でやらせてもらう。
なので鍋奉行の人は一旦ステイで。
「ふむ」
「出汁を味見したいのだが……」
「そっちに別にとっておいた奴があるんでどうぞ」
「助かる」
本当はタレのカスタマイズ目的だったんだけど、確保していた黄金出汁+アルファはエルフとドワーフのお腹に入っちゃいそうですわね。
「風味豊かで旨味が強い。……鰹と昆布、後はあごだしか」
「分かるもんですねぇ」
「カケルが使った事のあるものだからな」
なんて言ってる間に野菜に火が通ったので、いよいよ本命のお肉の投入。
まずは豚からいこうかな。
「お肉を一枚持って、鍋に入れます」
「ふむふむ」
「で、こう……しゃぶしゃぶとしまして」
「色が変わっていく様子が奇麗だ」
「白、というよりは薄い桜色になっているな」
「しっかり火が通ったら、野菜を巻いてお肉を引き上げて……」
自分の取り皿に一旦着地。
そして……う~ん、最初は大根おろしだな。
そしてポン酢と。
「自分の好みの薬味、タレに付けて食べる、以上です」
という事でお先に頂きます。
――不味いはずが無い!!
豚肉の脂の甘みと香味野菜の香り、大根おろしのサッパリした感じとピリッと来る辛み。
そしてポン酢の塩味や風味が合わさり最強に見える。
外国人が食べたら美味すぎて頭おかしくなってハマる。
「なるほど、火の通りやすさを考慮してのあの薄さか」
「ですね。ちなみに薬味も色々用意してるんで、ご自由に試してみてください」
「「はーい」」
元気でよろしい。
というわけで……第一次しゃぶしゃぶ戦争開戦。
*
「『――』の肉を薄切りしたものがここまで美味いとは……」
「ケルピー倭種の肉の美味さが問答無用で一番じゃろ」
「あら、カケルが用意してくれたお肉も美味しいですわよ?」
「薬味全部が合うのがまた恐ろしい……。あと、ごまだれが最強に美味い」
お肉、さ。
かなり用意してた筈なんだよ。
何なら、ラベンドラさんに言えば彼らが持ってるお肉も薄切りにしてくれただろうし。
でも、それでもなお肉が足りないってマジか?
こういうとアレだけど、俺、豚肉も牛肉も二キロ用意してたんだけど?
もうほぼ無いが?
「このザーサイという物の酸味や塩味が肉に丁度いい」
「もみじおろしのピリリと来る刺激がじゃな」
「結局ネギと生姜が最高なのですわ」
「ニンニクマシマシおろし多め」
アレだね、良かれと思って用意したけど、薬味の選択肢が多いってのも考え物かな。
純粋にこの人ら、総当たりで自分の好みを探し始めるから。
もう少し絞っても良かったかもしれん。
「……あ、忘れてた」
しゃぶしゃぶだけに気を取られてたけど、こっちも用意したんじゃん。
というわけで馬刺しです。
「……生のケルピー肉か?」
「――解呪は終わっているようだ」
「俺、昨日普通に食べましたけど、控えめに言って最高でしたよ?」
「食べたのか!? 生で!?」
「こっちの世界だと、別に生で食べても不思議じゃありませんし……」
なお、肉の刺身はほぼほぼ日本限定なもよう。
やっぱり安全面がね。
日本であっても、ちゃんと規格がしっかりした所のを食べようね。
鳥刺しでえらい目にあった過去がある翔お兄さんとの約束だぞ☆
「これもしゃぶしゃぶと同様にポン酢で?」
「いえ、こっちはショウガ醤油と相場が決まっているので」
ポン酢でも不味くは無いだろうけどね。
やっぱり馬刺しにはショウガ醤油でしょって事で。
改めて、ケルピー倭種刺し、いただきます。
――の前に、
「日本酒も買って来てますよ」
どん! とテーブルに買って来た日本酒を置いたらですよ。
ガブロさんがとんでもない顔してた。
なんと言うか、自分の欲しかったアイテムが一日中探しても見つからず。
僅かな希望と、どうせないんだろうという大きな諦めを胸に入った店で、たった一個だけ残っていたのを見つけたような……そんな表情を。




