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――ケルピー肉普通に馬肉っぽいな。
「やや身が固めだが旨味と甘みが強い」
「あ、本当に馬肉っぽい」
「煮込むと固くなるんですのよね」
うん、聞いた感じの説明もますます馬肉っぽい。
……桜鍋くらいかなぁ、聞いたことある料理。
後はもう、馬刺しが一番有名まであるし……。
あ、あとタルタルステーキも馬肉で作るんだっけ。
「食材の話はそれくらいにして」
「デザートですね?」
「無論」
頭の中の検索エンジンに馬肉を登録してたら、マジャリスさんからのお声がけが。
いつもの、ですね。
「じゃあ、温めなおすのでちょっと待っててください」
「? 常温や冷蔵ではない、と?」
「です」
別に常温で食べても美味しいと思うんだけど、今日のデザートは温かい方が美味い。
というか、温かいものを食べるのが普通というか……。
というわけで電子レンジで温めなおしますわよ。
やり過ぎるとダメだから十五秒ずつ温めて様子見し。
大丈夫そうだなって事で取り出してお皿に乗せる。
そのお皿に生クリームを絞れば完成っと。
「これは?」
「チョコだ! 俺の本能が叫ぶ! これはチョコだ!!」
一体いつから、このチョコをただのチョコだと錯覚していた?
教えよう、このデザートの名前を!
「フォンダンショコラと言って、とにかく食べて貰えると分かります」
「ふむ」
そう、フォンダンショコラなのだ。
ドヤ。
寒い時期になったからね。売られ始めたよね。
「外側もチョコのようですわね?」
「チョコというよりはチョコを多く含んだケーキ生地の印象だが……」
「とりあえず食うか」
と、全員がフォークでフォンダンショコラに切り込みを入れた瞬間。
トロリと中からチョコソースが流れてくる。
「んおっ!?」
「勿体ない!!」
と叫ぶも時既に時間切れ。
覆水盆に返らず、チョコソースフォンダンショコラに戻らず。
「中にチョコソースの入ったチョコケーキがフォンダンショコラになります」
「周りのケーキ生地を中に入っていたソースに付けて食べるのか」
「温かいデザートで心から解れそうですわね」
という事で驚いて貰ったけど、そのまま食べてもろて。
お味、いかがでせう?
「チョコの濃厚な香り、コク。甘さも全てが上等……」
「酒の香りがあるのぅ。じゃが、主役ではなくあくまで脇を支える程度じゃわい」
「甘さはもちろん強いが常識の範囲内。それに、追いかけてくる苦みがとても心地がいい」
「生クリームを付けても美味しいですわ。クリームの軽さとチョコソースの重さの対比が口の中で素晴らしいですの」
ま、知ってたけどね。
フォンダンショコラは間違いなく美味い。
数学の教科書にもそう書いてある。
「食べる者の手で変化させるデザートは凄いな」
「バニラアイスが欲しくなる……」
「使われとる酒がかなり上等じゃな。鼻の頭がボーっと熱を持つ程度にアルコールを残しとるのも凄いわい」
「温かいチョコというのも美味しいものですのね」
なんて、リリウムさんが当たり前の事言うもんだから、
「チョコレートドリンクとかありますし、ココアなんかはまさしくチョコの原料から作られますからね」
説明しましたらですよ奥さん。
ぎゅるん!! って。
久しぶりに全員の目がこっちを向いたね。
だから怖いっての。
「チョコレートを……飲み物に?」
「です。……ティラミスって食べたじゃないですか? あの上にかかってたパウダーを溶かした飲み物です」
「確実に美味いな?」
「寝る前とかに飲むとホッとしますね」
告白します。
小さい頃は寝る前にホットココア飲んでました。
子供の頃ってさ、ココアが特別な飲み物って感覚だったんだよな。
こんなに美味しい飲み物を飲める自分は、なんて特別な存在なんだろうと。
今では私が社会人。エルフ達に与える飲み物はもちろん、ホットココア。
何故なら、彼らもまた、特別な存在だからです。
「後はまぁ、チョコフォンデュとか」
「……」
あ、やべ。
無言になっちゃった。
えぇっと、どうしようか。
「忘れてください」
「無理だ」
「無茶を言うな」
ダメか。
これで家でチョコフォンデュをしたいなんて言い出したらどうしよう……。
いや、何とかするんだろうけどさ……。
「とりあえず、今日はこのデザートを、それはもう存分に楽しみますけれど……」
「チョコフォンデュは難しそうならばいい。だが、ホットココアは飲みたい」
「チョコレートドリンクも!」
「酒と合わせたものも欲しいぞい」
ガトーショコラの時といい、今回のフォンダンショコラといい、生地にお酒使われてるでしょ。
でもまぁ、お酒とチョコの相性がいいのも事実だし……。
チョコレートボンボンでも探してみるか。
「……で、マジャリスさんはリリウムさんと何を?」
「時間跳躍の逆魔法をチョコレートソースに発動し、流れ出る前に戻せないものかと」
んな無法な。
「あっ……」
「ん? ……あっ」
あ、これダメな事が起こった悲鳴だ。
何をしたんだろう?
「……カケル」
「はい」
「もう一個とか……ないよな?」
と、ほぼ泣きそうな顔で俺の方へと向いたマジャリスさんの手には。
チョコレートソースの代わりに恐らくカカオであろう欠片が乗った、フォンダンショコラの姿があった。
――いや、戻り過ぎィッ!!




