軍神馬
本当にあった怖い話を聞き終え、何とも言えない空気のまま持ち帰りのご飯へ。
……と言っても、
「アヒージョの材料をこのままお渡しして、向こうで食べるのが一番だと思うんですけどどうでしょう?」
これが一番美味しいと思うんですよ。
「叶うならばそうしたいが……」
「これほどの植物油なのだ、高価なのでは?」
ははーん? さてはまだ現代の物価を知らんな?
確かに他の油に比べたらオリーブオイルは値が張るものだけど、それでも四人から随時姉貴に補給されてる宝石の類よりは圧倒的に安価なんだぜ?
「すぐ買える部類ですよ。遠慮せずにどうぞ」
と言って瓶ごとオリーブオイルを押し付ける。
ちなみにもちろんだけどさっきまで食べてたアヒージョは一滴も残ってないよ。
バゲットに吸わせて綺麗に平らげてた。
「この容器だと怪しまれる、移し替えよう」
「香りが飛んだりせんかい?」
「む、確かに……」
「仮死状態にしたスライムの体内に保管は出来ないか?」
……突然何言いだすんだマジャリスさん。
ちょっとぉ、倫理ぃ!
「その手があったか」
あんのかよ。
というか、持ち歩いてるのか、仮死状態のスライム。
「すまない、少しスライムを出したい。庭で行っても構わないか?」
「あ、はい。どうぞ」
というわけで庭へ。
そう言えば水信玄餅の時にスライムって驚かれたんだっけ。
実物見るのは初めてか?
「……ゴーレム、また進化しとるの」
「一度カケルに論文を書いて貰った方が良くありませんこと? きっとゴーレム学会がざわつくことになりますわよ?」
あるんだ、そんな学会。
あと、書かないよ? 論文なんて。
現代で手に入る土食わせてます、以上の説明なんて無いからね。
「よっと……」
そしてにゅるんと出てくる恐らくスライム。
あ~……、色は薄いザクロ色って言うの?
赤ともピンクとも言えない微妙な色。
で、形状は誰もが想像するスライムみたく、頭がとんがったりはしてないな。
本当に水信玄餅のフォルムしてる。
ただ、デカい。
バスケットボール位の大きさあるな。
「保管場所はここでいいか」
と、そんなスライムに手刀を突き刺すラベンドラさん。
そして、そのままスライムの中で手を動かし広げていって……。
その無理やり作った空間に、オリーブオイルをダバーっと。
なんだろう……思っていた光景と全然違う。
もっとこう、せめて瓶を突き刺して浸透させるみたいな映像をイメージしてたんだけどな……。
「ンゴ!?」
「何事!?」
急なゴーレム君の声に驚いて振り返ると、何やらゴーレム君に登っているガブロさんとリリウムさん。
俺が振り返った瞬間に目を逸らし、何もしてませんよアピールしてるし。
しかも、口笛まで吹いちゃってさ。
リリウムさん音が出てないけど。
「何をしてらっしゃるので?」
「い、いや、何もしとらんぞい」
「そ、そうですわ。おほほほほほ」
絶対何かしようとしてただろ。
うちのゴーレム君に手を出したらただじゃ済ましませんからね。
「やめておけ。変な事をすれば明日の食事が無くなるぞ」
「うっ……」
「流石に材料を貰っているんで無くしはしませんけど……塩茹でした侯爵芋だけにはしますね」
「せん! 何もせん!!」
はぁ……全く。
油断も隙もありゃしない。
大丈夫だったか? ゴーレム君。
「よし、全て移し替えた」
「野菜とかはどうします?」
「自前のマンドラゴラがある。……バゲットだけ貰えるか?」
「お安い御用です」
というわけでバゲットを渡し。
ついでにニンニクと鷹の爪も渡しましてっと。
「ではカケル、また」
「塩茹で以外でお願いしますわね」
「ゴーレムにもよろしく言っておいてくれ」
「デザート、楽しみにしている」
四人が魔法陣により、異世界に帰宅。
さて……と。
「腐葉土、いる?」
「ンゴ!」
*
「まさかボスがケルピー倭種だとはな」
「水中に潜られている間は手が出せん。引きずり出せないか?」
「電気が通りませんわ。きっと、あのケルピーが水中に魔力を帯びさせているのでしょうね」
三組のパーティで探索しているダンジョンもいよいよ大詰め。
最下層で待つダンジョンボスは、何とケルピー。
馬の体に、尻尾だけが魚の尾びれのように変化したその個体は何と倭種。
地底湖の中で、自分に挑む冒険者を待っていたその魔物は、三組が部屋に入ってきた途端、襲撃した。
――天井から。
「部屋の天井全体が波打っていて、恐らくあれもケルピーの仕業かと」
「頭上と目の前の地底湖、両方から襲ってくることを考えなければならんのか」
「……いや、上だけじゃねぇな。全部の壁が今しがた波打ち始めやがった」
部屋に入り、襲撃を受け、僅か数秒。
最初の襲撃をいなされたケルピー倭種は、即座に地底湖へと避難し。
より確実な襲撃を行うために、自身の魔力を惜しげもなく使う。
「次に姿が見えたら逃しませんわ」
「必殺の魔法もある」
「どっからでもかかってくるがいいわい」
そんなケルピー倭種を前に、『夢幻泡影』はやる気満々。
理由は当然、まだ食べたことが無いからである。
「ブルル」
そうしてやる気満々な『夢幻泡影』達を、水底から見つめるケルピー倭種――個体名『放生月毛』は。
静かに、自身の分身を作り出し続ける。
その数……現在百体である。




