幸せ広がる夜
へっへっへ。
まずはカセットコンロをとろ火にセットしまして。
ウニ出汁が沸騰しない程度に温度を保つように調整。
「カケルの顔が怖い」
「やはり精神状態に異常が?」
「念の為状態異常を分析しといた方がええんじゃないか?」
うるさいやい。
一般家庭で育った庶民にとって、山盛りのウニを前に精神状態保つ方が難しいんだぞ!?
黙ってろください。
「とりあえず、丼から食べませんこと?」
「そうじゃな。あの鍋に関してはカケルに任せよう」
「もう既に美味い事は確定しているがな」
「そうじゃな」
「「いただきます!」」
まぁ、勝手に言われてますけど?
残念だったな。既にウニしゃぶの準備は終了してしまったよ。
というわけで俺もうに丼に参戦じゃい!!
「トロリととろける鱗が米と絡み合って……」
「ご飯の甘みと鱗の甘みが何層にも折り重なりますわ……」
「そこに鋭い醤油の塩味が入って味わいが引き締まる」
「海苔の風味、さらには青じその香りがより鱗の味を引き立てるな」
「その締めにワサビのツンとくる刺激がもうたまりませんね!」
うに丼……素晴らしいね。
しかもただのうに丼じゃあない。日本でも恐らく北海道とかまで行かなきゃ食べられない程のクオリティのうに丼だ。
面構えが違う。
あと原産が異世界って意味でも違う。
「ていうか、マジでこれ美味いですね」
「本当に。偶然出会えて良かったですわ」
「アンデッド系で悩まされているという依頼を受けたらたまたま出会えたんだ」
「これまでも『――』とは何度か戦ったことがあるが、鱗が付いた個体は初じゃったな」
「最近我々は神への奉納を多く行っている。それのおかげだろう」
……ほーん?
つまり普段はこんなウニ鱗の付いた個体とは出会わないってことね。
――で、それは神様へ色々お供え物をしたからだ、と。
本当に? 神様、そんな依怙贔屓みたいなことするの?
(いかんか?)
あ、いえ、大丈夫です。
そりゃあ神様だって、自分に色々お供えしてくれる存在を大事にしたくなるよね。
分かる分かる。
「……ところでカケル」
「はい?」
「この鍋は何の為に?」
「あ、えーっとですね」
そういやしゃぶしゃぶの説明を全くしてなかったな。
日本発祥の食べ方だし、そりゃあ分からないか。
ま、見ててくださいっと。
「この鍋に、こうしてこいつらを箸で掴んでしゃぶしゃぶと……」
シャコナリケリを掴み、ウニ出汁に潜らせること数回。
色が変わり、身も締まったのを箸越しに感じて引き上げて。
「こうして、味の付いた出汁に潜らせて食べる料理です」
「……それだけか?」
「です」
というわけで四人にお先してシャコナリケリのウニしゃぶをパクリ。
…………。
うっま!!
「やべ、ウマ」
プリンとしたシャコナリケリの身。それを噛むと溢れる肉汁はもちろんの事、身に絡んだウニ出汁が肉汁とシンクロして襲ってくる。
シャコナリケリとウニ鱗の旨味のダブルパンチ。
甘みのダブルラリアット。これヤバいな。威力ヘビーレスラー級だぞ。
「ゴクリ」
「わ、私は『――』の方で!」
「俺は『――』だ!」
俺の食べてる様子を見て、リリウムさんがコシャコナリケリ、マジャリスさんがシャコナリケリをしゃぶしゃぶ。
そしてそれをパクリと食べ……。
「ふぇぇぇ~」
「美味い。美味すぎる!!」
翻訳魔法さん? 多分それ翻訳逆です。
マジャリスさんはともかくとして、リリウムさんは美味すぎるとか言わない。
解釈違いです。戻して。
「なにこれくっそ美味ぇですわ!! ゲボ最高な料理ですわ!!」
……戻して。マジで。早く。
「噛むと跳ねるような『――』の身が、噛むほどにこの鍋に張られたお出汁を吐き出しますの!!」
「この出汁にも鱗が使われているな!! 旨味が強く出ている!!」
「わしらも食うか」
「だな」
で、リリマジャの二人の口調が戻ってきたところで、ガブロさん達もしゃぶしゃぶに参戦。
一度に大量にしゃぶしゃぶ出来ないから、自分らのタイミングを見計らってくれてたらしい。
大人だねぇ。
「っ!? これは美味いな!!」
「酒に合いそうじゃな!! キリッと辛口のスッキリしたやつが飲みたいわい!」
で、二人ともウニしゃぶの虜、と。
「しゃぶしゃぶの順番を待つ間に丼を食べるの、ハッキリ言って贅沢ですわよね」
「普通に丼も美味いからな。しゃぶしゃぶの旨味を口の中に残したまま頬張る米と鱗が最高すぎる」
「ちなみにしゃぶしゃぶが終わったら、出汁にご飯を入れて雑炊にして〆ですね」
「……絶対に美味い奴だな」
「じゃな」
〆に何をするか説明しつつ、柴漬けをポリポリ。
はぁ……合間に食べる漬物が美味い。
「鱗を贅沢に出汁に溶かすという発想は思いつかなかったな」
「これでスープパスタとかしたら美味いでしょうね」
「間違いないな。……だが、スープのベースは少々工夫が必要そうだが」
「クリームベースだと間違いないんじゃないです? そもそもウニのクリームパスタとかありますし」
「ポタージュあたりで試してみよう」
なんて、ラベンドラさんと料理人トークをしてましたら。
他三人からめっちゃ見られてた。
何用でせう?
「美味いもん食っとる横で美味そうなもんの話をせんでくれるか?」
「分かってますのよ? 元の世界に戻ったら作ってくれると。でも、今食べたくなってしまうでしょう?」
「もう少し考えてくれ」
え? なんでこれ俺怒られてるの?
食いしん坊なあなた方の問題では?
(わしにもそのウニしゃぶセットを供えてくれると助かるぞーい)
……神様まで。




