異世界産業革命……?
結局狩人の目に気が付いた二人がタルトを奪取し、狙ってた二人は軽く舌打ち。
そんな賑やかなデザートもみんな大満足で食べておりましたわ。
……四人のやり取りに気を取られていたせいで姉貴に桃のタルトは取られたけど。
ブルーベリーのタルトを姉貴から奪ったから実質痛み分けだな、うん。
「持ち帰りのパンは……」
「残ってるやつ持ち帰っちゃっていいですよ」
ラベンドラさんが立ち上がって調理をしようとするけど、ごめんなさい。
今日は俺が調理をしたいと思ってないんだ。
だから、目の前で残ったパンで申し訳ないけどそれを持ち帰ってもろて……。
「カレーパン……」
「焼くとフワサク、揚げなおすとザクザクカリッと仕上がるみたいです」
「このチョココロネも持ち帰っていいのか!?」
「俺と姉貴が食べてませんからね、どうぞどうぞ」
「全部食べる気でおったが、思いのほか腹に溜まったわい」
「でもそのおかげで向こうでも美味しいパンが食べられますわ」
残ったパンを見て、みんな目を輝かせてるよ。
……って、そういえば誰もタマゴサンドには手を付けなかったな。
「ちなみにタマゴサンドは向こうにもありますよね?」
「あるにはあるが……こうして潰して何かと和えたようなものはほとんどない」
「あ、そうなんです?」
「恐らくだがマヨネーズ等で和えているのだろう? そのマヨネーズが無いからな」
「なるほど」
そう言えばそうだったわ。
マヨネーズは今回のたこ焼き祭りの優勝賞品なんだっけか。
……てことはタマゴサンドってどんな形なんだ?
「ゆで卵にし、スライスしてマンドラゴラと共に挟む。これが我々の良く知るタマゴサンドだ」
俺の疑問に答えてくれるラベンドラさんだけど……。
それってゆで卵サラダサンドですよね?
タマゴサンドとはちょっと違うと思うんですけど……。
「ちなみにカケル、このタマゴサンドは使用しているのはマヨネーズだけか?」
「塩とかバターとかもあると思いますけど、メインはまぁ卵とマヨネーズですね」
「だとすると近々向こうで再現されて販売されるだろうな」
「というか、タマゴサンドだけでなく、このたくさんのパンたちも再現されてしかるべきなのでは?」
「チョココロネ!! パン・オ・ショコラ!!」
「ソーセージフランスは向こうで無くも無いが、ここまでパンとソーセージのクオリティが高いものは……」
食いしん坊達に詰め寄られるラベンドラさん。
……あの、そんな救いを求めるような顔で見ないでもろて。
何をどうしろって言うんですか。
「ちなみにカケル、クロワッサンのレシピを知りたいのだが……」
まぁ、レシピ見せろ位なら全然構いませんけども。
カモンスマホ。色んなパンのレシピを教えて。
「やはり層を作るために何度も折りたたむ工程があるのか」
「この世界ですと全自動の魔導具に行わせていますわね」
「確かに手作りでこの作業をこなすのは骨だろうな」
「じゃが、この魔導具を作るとなればかなり大規模なものになるぞい?」
ちなみにレシピ見せて思ったんだけど、この世界の機械は全部魔導具に変換されてるみたいね。
低温調理器も確か魔導具~みたいな話した記憶があるもん。
「クロワッサンは再現出来てもかなり高級な……それこそ、貴族や王族の口に入るものになりそうだ」
「私達から魔導具ギルドに出資して開発させません?」
「やるなら王族からの勅命くらいは持って行かなければなるまい。王族貴族の権威の象徴とすらなり得る可能性があるぞ、クロワッサンは」
「仮に王から魔導具作成の勅命が下りたとして、出来上がるのどれほど先じゃ? ちょっとやそっとじゃ出来んのじゃないか?」
日本は……というか、世界で結構食べられているはずのクロワッサン。
異世界で再現しようとするとこうなるらしいです。
まぁ、世界でも機械化されるまでは高級パンの仲間だったらしいし、さもありなんって感じかな。
「むしろ魔導具作成の天才をこちらで発掘した方が……」
「ギルドからの引き抜きはご法度じゃぞ」
「そもそも才能の有る無しなんて簡単に分かりませんわよ?」
「ちょっといいー?」
と、それまで黙ってコーヒーブレイクしていた姉貴が急に四人の会話に割り込んだ。
魔導具に詳しいはず無いし、何を言いだすんだ?
「なんだろうか?」
「別に全自動で無くていいんじゃない?」
「どういう事でしょう?」
「生地を薄く伸ばすのを魔導具にやってもらって、バターを挟んで織り込むのは手動。もっかい薄く伸ばしてーって繰り返せばいいだけじゃん?」
「……簡単な工程を魔導具に任せ、魔導具にさせるには複雑な作業は手作業にするのか」
「そそ、そうすればそんな複雑な魔導具を作らなくてもいいんじゃない?」
割とまともな事言ってる……。
凄いな姉貴、さては偽物だな?
「焼いたりはまぁ職人さんがやるにしても、生地作りならこれで大体の人にも出来るでしょ?」
「魔導具の量産さえ可能ならどのパン屋でもクロワッサンが食べられるように……」
「魔導具の価格も抑えさせなきゃならん。ある程度の素材の提供は必須か……」
「でも、これで明るい未来が見えてきましたわね。ありがとうございます! お姉さま!!」
結局、こうして異世界でもクロワッサンが食べられるかもと期待に満ちた眼差しで帰っていった『夢幻泡影』は。
当たり前だけど、全てのパンを持ち帰った。
うん、買い過ぎだと思ったけど、あの四人の前にはそんな事無かったね。




