閑話 その発想は……
「ほぅ。お前は料理人ではないのか」
「そうさ。まぁ、調理士をしていたから大枠的には料理人だけどな」
そんな話をしながらたこ焼きを受け取ったマジャリスは、そのままパクリ。
「む、美味い」
「やっぱりこの料理の決め手はソースだよ。だから、冒険者なのを活かして色んな材料で試行錯誤したんだ」
「こだわりは感じるな。酸味と塩味、甘みのバランスがいい」
「だろ? ただ、ソースだけが美味くてもダメだ。だから生地にはルフ鳥の卵を使ってる」
「値が張るだろう? 自分で狩りに行けるとも思えん」
「まぁ、知り合いの冒険者にな」
「……なるほどな」
そのたこ焼きの魅力は、何と言ってもかけられているソース。
少なくとも、それまで食べたどのソースより、カケルの使っていたソースに近い完成度であった。
本人に伝えれば怒られるであろうが、あのラベンドラすら到達していない完成度。
しかも、この料理人はそのソースを食したことが無いはずで。
つまり、何の知識もなく、己の感覚のみで。
たこ焼きに合うという一点を突き詰め、そこまで辿り着いたという事。
(ラベンドラがここの地域担当でなくて良かった。あいつは絶対にソースの事を聞き出そうとするだろうからな)
「で? どうだった?」
「無論美味い。やはりソースが他と比べて目を見張るものがある」
「だろ! だろ!」
「これを機に店でも出すつもりか?」
「そう思っちゃいるんだけどな? やっぱり冒険者としてもこのままってのは未練があるんだよ。だから、どこか調理士を必要としてるパーティでもあればと思ってるんだけどな……」
「そうか」
たこ焼きを食べ終え、次の審査に支障が出ないよう水で口をゆすぎ。
その店を後にしたマジャリスは、足を止めて考える。
(あの腕前だ。恐らくどこのパーティでも引く手数多のはず。解散したか、あいつを残して全滅か……)
空を仰ぎ、視線を水平に戻し。
「そんな事より次だ次」
さっきまで真剣に考えていたことをそんな事呼ばわりし、次なる屋台へ。
そんなマジャリスの背中を見つつ、
「頼むよ……ここで金の目途を付けないと借金がヤバいんだよ……」
そう願うのは、先程の屋台の店主。
珍しい食材に目が無く、パーティの金を使い込み過ぎて締め出されたその店主は。
マジャリスの背中に一筋の光と希望を見た気がした。
――まさか、当のマジャリスから「そんな事」呼ばわりされているとも知らず。
*
「むぅ……美味い」
ラベンドラが唸り、感嘆の声を上げるのは。
カケルが見れば即座に調理法を当てそうな、あげだこであり。
しかも、かなりしっかり目に揚げてあるのか、最初の口当たりはカリカリやサクサクを通り越してかなりハードな食感になっており。
そのハードな食感の先に、トロリとした生地と柔らかいコロッサルの身の食感が顔を出す。
たこ焼きは焼くもの。揚げる料理ではない、という先入観を持っていたラベンドラは、その柔軟な発想にも脱帽した。
……最も、現代日本人のたこ焼き警察がこの場に居れば、即刻逮捕からの強制連行。
そして、厳しい取り調べが待っていた事だろうが。
「エルフのお兄さん、美味しかった?」
「ああ、美味い。間違いなく美味いぞ」
「ほんと? えへへ、やったー!!」
しかも驚くことに、この屋台を回しているのは子供たち。
周囲に保護者の姿も見受けられない為、恐らくは孤児たちなのだろう。
……屋台の上に、デカデカと『近くの教会に寄付を!』と掲げられている辺り、宣伝目的のような気もするが……。
そもそも予選を勝ち抜けていなければ店を出せない以上、このあげだこも一定以上の評価を得てこの場に並んでいるのだ。
「ソースはかけないのか?」
二個目のあげだこを口に入れながら、ラベンドラが子供たちに聞く。
すると、
「そーすなんて作る材料が無いんです。うちの教会って貧乏だから」
と、返って来て。
「でも、その分生地に塩を多めに入れて味付けしちゃえばいいやってシスターさんが」
「と言う事はこの料理はお前たちが考えたわけではない?」
「いいや? 考えたのは俺とコイツ。でも、味が薄いって相談して、アイデアをくれたのはシスターさんなんだ」
「なるほどな」
納得したラベンドラは、さらに違和感を覚え、質問をする。
「待て。そもそもたこ焼きを作るにも型は要るし、油だって決して安くないはずだ。何故揃えられた?」
「孤児の中にはドワーフも要るし、油は俺たちが日雇いの仕事で稼いだ金で買ってんだ」
「本当は予選の日の分だけの油で良かったはずだったんだけど、勝ち進んじゃって……」
「親切なお姉さんが格安で油を売ってくれたんだ!」
その質問の答えに嫌な予感。
そこまで踏み込むべきか、と迷っている所で、
「あ! あのお姉さんだよ! おーーい!!」
なんと、その親切なお姉さんがその場にいたらしく、大きな声で呼び始め。
ラベンドラが振り返り、誰が来るのかと確認したそこには……。
「お、一杯お客さん来てるじゃん! 良かった良かった!」
レシュラック領ギルドマスター、アキナの姿が。
「……なぜギルドマスターが参加者に肩入れを?」
疑問に思うラベンドラも無理はない。
そもそもギルドマスターも審査員としてこの祭りに参加しているのだ。
その審査員が肩入れなど、本来はあってはならない事なのだが……。
「こんな美味しいたこ焼きを作る子たちが決勝当日の材料無いから辞退って、許されると思う? 私は許さないね。国王でもそう言ったと思うよ?」
と、もの凄い剣幕で詰め寄られ。
確かに、とラベンドラも納得。
「優勝できると良いな」
そう言って、屋台の子供たちへと優しい表情を向けたラベンドラは、屋台を後にし。
(なぜ!! 私は!! 油で揚げるという発想に至らなかった!!)
思い切り、自分を責めていたのは、彼だけしか知らない事だった。




