異世界フルーツ……?
「えぇっと……」
「どうした? カケル?」
そう言えば気にしてなかったけどさ。
だーれも手を付けてない食べ物が一つだけあったね。
うん、なんで?
「いや、枝豆に誰も手を付けてないなーと思いまして」
まぁ最悪ね? 異世界組は分かるのよ。
こう、異世界だと食べ物の見た目じゃないとか、理由は考えられる。
だけど、姉貴。
お前はよく知った食べ物だろうが。
「枝豆ってさ、それだけを摘まむことはあっても食事の途中に摘ままなくない?」
「そんな事無いでしょ。居酒屋定番メニューじゃん」
ははーん? さては日本で離れて暮らし過ぎて枝豆を忘れてるな?
ちょっと一つ食いなさいよ。
身体のDNAに思い出させなさい。
「これはデザートじゃろ?」
とかなんとか考えてたら、ガブロさんからやっぱりな言葉が。
「異世界だとそうなんです?」
「違うのか? この膨らみに蜜が詰まった花弁だと思っていたのだが……」
やっぱり異世界だとデザートだったか……。
んで、豆の代わりに蜜が入ってると。
ちょっと食べてみたいなそれ。
「こちらの世界で……俺の住む国で定番おつまみですよ」
「おつまみ……なのか」
う~ん信じられてない。
じゃあどうするか。答えは一つしかないよね。
「こうして口を付けて……」
食べてみせる。これに尽きる。
……枝豆、やっぱ美味いな。
塩加減バッチリ。
プリッとした豆が絶妙な塩加減と相まって、ビールが欲しくなる……。
あ、無くなったんだっけ。
「あー……久々枝豆食べた……」
「美味いだろ?」
「そりゃあもう」
姉貴も一口食べて、枝豆の美味しさを思い出したようだ。
正直俺も手が止まらん。
「た、食べるか……」
そんな俺たちの姿を見て、マジャリスさんが恐る恐る枝豆に手を伸ばし。
豆を押し出し、本当に蜜ではない事を確認しつつ、恐る恐るパクリ。
……反応は?
「美味いな」
「美味いか?」
「ああ、美味い。叫ぶような美味さではないが……これは後を引くな」
ラベンドラさんの確認に答えつつ、二個目の豆を口に入れ。
空になったさやを別皿に乗せ、次の枝豆へ。
「確かに美味しいですわ」
「ぐっ……ビールに合う。わしには分かる……これはビールに合うんじゃ……」
「なるほど。これは前菜として置いてあったのか」
その姿を見て枝豆に手を伸ばした三人の反応がこちらになります。
やっぱ枝豆は美味いんだって。
世界共通どころか異世界共通ですわよ。
なんて思ってたら、五人がほぼ無言で食べ進めてさ。
あっという間に無くなっちゃった。
元々ラベンドラさんの言う通り前菜として用意してたからね。
そこまでの量を作ってなかったんだ。
「思わず無心で食べ進めてしまったが……ヤバいな」
「ああ、ヤバい」
「あればあるだけ食べてしまいますわね」
「次は……ビールと……共に……」
はいはい、分かったから。
分かったから泣くなよガブロさん。
「待て。枝豆がデザートで無いとなると、今日のデザートは?」
あ、やべ。
そう言えば野菜のフルコース作るのに一杯一杯でデザート作ってなかったような……。
えーっと、冷凍庫にファミリーパックのアイスクリームが……。
「実はねー……デザートワインなるものを買って来てたりするんだけど」
お? まさか姉貴……やるのか? 今ここで?
「ついでに一緒に楽しむものとしてアップルパイも買って来てるから、カケルはとりあえず温めなさいな」
「ははー」
助かったよ姉貴。
まさかデザートを用意してくれてるとは。
ほんの少し……小指の先くらいだけど見直した。
というわけで、姉貴に言われるままアップルパイを受け取り、オーブンで焼き戻しましょう。
えーっと、確かパイを温める時間は書いてあったはずで……と。
「デザートワイン?」
「そ。何でも、凄く甘くなるように工夫された製法で作られたワインだって。私が行ってた国が有名らしくてねー」
ドイツだよね。
有名なんだ、デザートワイン。
思えば飲んだ事無いな。それほど甘いんだろうか?
「さ、まずは一口」
「む、すまないな」
まぁ、勝手に始めてますけども?
大丈夫? 全然パイが焼けるの先だよ?
「ふぉぉぉぉぉ!!!」
「すっごく甘いですわね」
「こってり濃厚ながら酸味は有り。……ややアルコールの割合が低い様に感じるな」
「飲んで納得な、正しくデザートの名に相応しいワインじゃわい」
「うーん、美味し」
盛り上がってる。……いいなぁ。
俺もちょっと飲も。
……あ、凄い。
こってり濃厚って言うのが凄く納得出来るわ。
とろけるような甘さって言うの? お菓子とかじゃなく、果物の蜜がギュッと凝縮された感じ。
ワインって言うと、渋味や酸味が往々にしてあるものだけど、それらを押さえつけるような甘さ。
これめっちゃ美味い。
「製法が気になる……」
「貴腐ワインって言って、結構難しい条件で作られるから、再現出来るかは分からないかなー」
「それでも是非!!」
貴腐ワイン、ね。
……何それ。そもそもそんなワインがある事すら知らん。
姉貴も名前だけなのか、スマホで検索して作り方を調べてるみたい。
で、出てきた画面を四人に見せてる。
「菌を付着させる……?」
「様々な条件が重なる事で実が凝縮した状態になる?」
「皮だけを丁寧に取り除いて作りますの?」
「ワインにするのに大量のブドウが要るのじゃろう?」
……全員宇宙猫みたいな表情になってますけど?
異世界だと考えられない事らしい。
――あ、パイが温め終わりましたわぞ~。




