焼き職人ガブロ
いやぁ、ちょっとレベルが違ったな。
デリシャスビーフイッシュ、食べた事無いけど国産黒毛和牛のA5ランクとかと遜色ない味わいだと思う。
というか、飲める肉を初めて食べた気がする。
「ガブロ、ステーキを焼いてくれ」
「サイコロステーキもですわ」
「自分で焼かんかい! なんでもかんでもわしに焼かせるんじゃないわい!」
「ガブロが一番肉を焼くのが上手い」
ワインを片手にクッソ満足そうな顔したエルフ三人が、ガブロさんに肉を焼けと催促中。
ガブロさんは億劫のようだけど、ラベンドラさんが言うならガブロさんが肉を焼くのが美味いのは事実なんだろう。
焼き鳥然り、かば焼き然りでその焼き技術は俺も知ってることだし。
「……はぁ。それで? ステーキ組は焼き加減は?」
「ミディアムレア」
「同じくだ」
「あ、俺も。ミディアムでお願いします」
なお、根負けというか、ハイハイ分かったみたいな感じでため息をついたガブロさんは、焼いてくれるらしく焼き加減を聞いてくれて。
焼き加減を答えたのは見事に男どもだったわ。
リリウムさんはサイコロステーキを所望の模様。
「ほいほいっと」
ちなみに、ホットプレートには当たり前にステーキ肉が四枚並んでおりますと。
ガブロさんもステーキな気分だったらしい。
「それにしても」
「?」
「焼き鳥の時もそうだったが、ただ焼くだけ、というのにこの世界の特徴の出る料理だ」
「そうですか?」
やみつきキャベツをパリパリ食べながら。
そんな事を言いだすラベンドラさん。
そうかな? 文字通り肉を焼くだけだぞ?
「我々の世界では、少なくとも食べる側が調理に参加することは少ない」
「下手に手伝って料理が失敗する、なんてあってはなりませんし、そもそも調理士が専門性の高い役割なのですの」
「最近では我々の影響か、戦闘に参加しない調理士を雇うパーティも出て来ているらしい」
「食は生きる上で必要不可欠。そこにクオリティを求めるのは生物として当然じゃて」
……ん?
もしかしてこれ、俺が遠因になってたりする?
俺がこの人達に料理を振舞い、その料理のレシピをラベンドラさんが確立。
そのレシピを公開して、料理人がそれを真似して……。
その料理を食べた冒険者が、その料理を普段も食べたいと考えて調理士を雇う……。
うん、俺関係ないな、ヨシ!
「こうして食べながら調理するのは、この世界の料理の特徴の一つだ」
「調理しちょるのはわしじゃがな?」
なんて話してたら、目の前にステーキ肉が流れてくる。
焼けたらしい、あざまーす。
「カケルのはもう三十秒待つんじゃ」
「あ、はい」
まだだったらしい。
焼けたステーキ肉を持ち上げ、ご飯の上に乗せてステーキ丼にした男エルフ二人が。
これ見よがしに焼き肉のタレかけてるのがちょっと腹立つ。
絶対美味いじゃん。
……よし、三十秒経った。
俺も俺も!!
「ステーキにはわさび醤油って決まってるんですよ」
ご飯の上に乗せて、ワサビを乗せて、醤油をたらり。
そしてそれを豪快にガブリ!!
ツンとくるワサビの刺激は、肉の脂によってかき消され。
ワサビは負けじと肉の脂臭さを吹き飛ばす。
俺だけが得する相打ちを感じながら、舌に届くは醤油の塩味と肉のうま味。
脂の甘みも混在する味の情報量の多さに、思わず口の動きが一瞬止まる。
……山岡さん、あんたは間違ってなかったよ。
美味い牛肉にはわさび醤油だよちくしょう。
咀嚼再開。
「大根おろしもサッパリして合いますわね」
「塩コショウだけでも美味い」
リリウムさんとガブロさんも満面の笑みで肉かっ喰らってるわ。
大根おろし美味しいよね。ワサビとは別ベクトルでさっぱりするもん。
あと、ステーキ組には出来ない、サンチュで包んで食べたりも出来るのサイコロステーキの強みか。
「ワインが……無くなる」
「これ以上は……。神への奉納分が無くなってしまう」
……エルフ二人が嘆いてるけど、ワインってそんなに簡単に空くか?
いやまぁ、空くか。エルフとドワーフの四人がかりだもんな。
しょうがない。
「じゃあ、次のワインをお出ししますか」
「なんだと!?」
「まだ飲んでいいのか!?」
お代わりもあるぞ。
というわけで二本目のワインはモンテプルチアーノのダブルッツォってやつ。
肉料理に合うって評価と、価格が手頃なので買って来てみた。
こう、ワインって高い! ってイメージが覆されたようなワイン。
千円前後で買えたもん。
「先ほどのワインに比べて香りが甘い」
「深みもあってかなりフルーティですわよ」
「色もルビーのような輝きだ」
「また高品質なワインじゃな」
で、そんな値段で買えるワインでもこの通り。
みんな楽しそうに飲んでくれるからこっちまで嬉しくなるよ。
「肉との相性は……」
「おいすぃ」
「無論合うじゃろうな」
「しっかりと飲みごたえがあり、これだけで飲んでも美味い」
「ジューシィかつ滑らかな果実の味だが、肉の味を邪魔することも、肉の味に負けることも無い」
「口の中の脂の香りを切り取る様な、果実の香りがまた合いますわね」
「肉だけでも最高に美味かったが、このワインと合わせると肉のランクが一つ上がる気がするわい」
……今誰か一人語彙力いかれてなかったか?
――気のせいか。
「ガブロ、俺にサガリを焼いてくれ」
「私、まだ食べてないお肉が気になりますの」
「ステーキお代わりだ」
「あ、じゃあ俺カルビお願いします」
そうして新たなワインを開け、肉と楽しみ。
俺たちはガブロさんに次なる肉をリクエストするのだった。
……え? 俺はモンテプルチアーノを飲まないのか?
おいおい勘弁してくれ。俺は最初のランブルスコを飲み干した時点で結構キテるんだ。
こういう時は、お酒に強い方が良かったなって思うわ。




