サラダ:焼き野菜
ガブロさんが次に焼いてくれたのは牛ロース。
うっすらとサシの入った綺麗なお肉。
それが今、タレを付けられサンチュで巻かれ。
更にはキムチも一緒に巻かれているというね。
……絶対に美味いじゃんかこんなの。
「この世界の肉も十分に美味いな」
「というか、一部魔物の肉を除けばこちらのお肉の方が上なのではなくて?」
「それを言うならこの世界にも安いお肉は存在しますからね?」
「だが、焼いても噛み切れない程固いような肉があるわけでもないだろう?」
……ありそうじゃね?
いや、どうだろ……。
焼くと固くなる肉はあるはずだし、ひょっとしたらあるんじゃないかな?
「この野菜で巻く、という発想がいいな」
「お野菜の瑞々しさと、さっぱり感が手伝って、スルスルと食べられてしまいますわ」
「酒がいくらでも進むわい」
「こちらのワインとの相性も抜群だ」
ガブロさんはガブロさんでハイペースに飲んでるし、リリウムさん達もカパカパとワイングラス傾けてるんだよな。
まぁ、どちらも美味しそうだからいいんだけど。
「次は何を焼くか……」
で、いつの間にか焼き係になってたガブロさんが、次に何を焼くか思案中。
と言うのも、俺が用意した牛肉は一巡は焼いたわけで、そのままデリシャスビーフイッシュに行くか、それとも別の肉を挟むかで悩んでいるらしい。
なるほどなるほど。
だがここは、
「一旦野菜にしましょう」
切ってた玉ねぎ、ピーマン、カボチャを焼くように指示。
そうそう、やみつきキャベツも出さないとね。
「野菜も焼くのか?」
「ですよ。肉の合間に挟んで、口休め……と言った感じです」
本来の目的がそうなのかは知らん。
でも、俺は野菜をそうやってとらえている。
「まぁ、カケルに従うか」
「だな」
「基本食べ物については間違えませんものね」
あ、そんな信頼せんでもろて。
「……すまん、わしにもワインをくれんか?」
「どうぞどうぞ」
で、ビールだけじゃ物足りなくなったガブロさんもワイン戦線に参戦っと。
「ごくっ。……かなり膨らみのあるワインじゃな。果実の香りがサッパリしちょる」
「上質なワインだ。……これがそこまで値が張らないとは、何とも信じがたい」
「可能なら、この世界のワイン作りも見て見たいですわね」
……信じられるか? これ、やみつきキャベツでワイン飲みながら言ってるんだぜ?
合うんか? その飲み合わせ。
「焼けたみたいじゃぞ」
「カケル、野菜には塩か?」
「でもいいですけど、俺はタレですかね」
「ふむ」
で、野菜も焼けたようなのでいただきます。
へへ、ピーマンいただき!
子供のころは苦くて嫌いだったけど、大人になってその苦みの良さに気付いたんよな。
特にこういう肉食ってる時の、ピーマンの苦みって妙に美味く感じるのよ。
おかげで青椒肉絲とか大好きになったわ。
タレに浸して食べると、タレの甘みや味に紛れた苦みが丁度良くてね。
米が進むとかじゃあないんだけど、気持ちをリセットするのにちょうどいいと言うか。
「この玉ねぎ! とても瑞々しくて甘いですわ!!」
「カボチャが……甘い!」
「このピーマン、かなり味が濃い」
「キャベツが美味いぞーい」
……それぞれ野菜も楽しんでいるようで結構結構。
本当はね、新玉ねぎでも買おうと思ったんだけど、流石にもう売ってなかった。
でも、普通の玉ねぎでも喜んでもらえてるみたいで何より。
「この世界のカボチャは果物のように甘いのだな」
マジャリスさん、カボチャの甘さに感動してる……。
こう、焼肉と言えばで買ってきたけど、どうしてもカボチャは冬のイメージある。
冬まで待ってください。そうしたら本物のカボチャをご馳走しますよ。
「色も味も濃いピーマンは美味いな」
で、ラベンドラさんはピーマンと。
と言うか、一人で食いつくす勢いでピーマン焼いて食ってる。
ストップストップ。あくまでメイン肉――デリシャスビーフイッシュまでの口休めなんだから。
「じゃあ、そろそろこちらの肉を」
このままだと野菜が全滅しかねないので、ガブロさんに焼くように促して。
「む、任せんか」
いざ、デリシャスビーフイッシュ、加熱。
「……で、どれから焼くんじゃい?」
まだでした。
このデリシャスビーフイッシュさ、俺の遊び心でいろんな形にスライスしたんだよね。
オーソドックスな焼肉タイプ、ステーキタイプ、サイコロステーキタイプだったりさ。
薄く長く引いた、焼きしゃぶスタイルなのも用意してる。
と言うわけでまずはそれから。
「その薄切りの奴からお願いします」
「分かった。……すぐ火が通りそうじゃから、各自皿を持って待機じゃな」
と言うガブロさんの言葉通り、焼きしゃぶ切りした肉をホットプレートに乗せた瞬間、胃を誘惑する音と共に一気に色が変わってさ。
間髪入れずに裏返し、物の数秒で焼き上がり。
「焼き――」
あがった、と言う前にその肉はリリウムさんの取り皿の上に転移してて、誰よりも先にリリウムさんがパクり。
「んまぁ♡」
口元を手で押さえ、そう呟いたリリウムさんの顔は、これ以上ない程の飯の顔。
堕ちたな。確信がある。
「ほい次!」
次はマジャリスさんが確保し、そのままタレにつけて口の中へ。
「んんっ!!」
リリウムさんと同じく口元を押さえ、目を見開き。
もう何よりも驚きの表情を見せたところで、三枚目が焼き上がった。
それを手にしたラベンドラさんは、サンチュで包み、味噌を少し載せて口の中へ。
「ふまい」
やっぱり口元を押さえつつ、そう感想を漏らした様子を見ながら。
「ほれ」
焼き上がった肉をガブロさんから受け取り、タレに浸して俺も口の中へ。
すると、
「あっぷ」
皆が口を押さえた理由が分かった。
肉汁が溢れそうになるんだ、口から。
口に入れた瞬間にジュース? と思うほどに溢れる肉汁。
脂だけじゃない、肉自体から出たうま味のスープは、その膨大な量で口の中を満たし。
噛む事無く、もはや飲めるその肉は、飲み込んだ後も口の中に確かな存在感を残し続け。
米は進むしワインは美味い。
多分、俺が生きてきた中で一番美味い肉だと思う。
「わっぴゅ」
なお、最後に焼きしゃぶ肉を口に入れたガブロさんも、同じく口を押えてましたとさ。




