焼肉屋:翔邸
「お邪魔……しますわ」
「いらっしゃい……って、ボロボロじゃないですか!?」
いつも通りに魔法陣でこちらに来た四人。
ただ、その格好は全然いつも通りと言うわけではなく。
ガブロさんやラベンドラさんの装備はひっかき傷だったり、焦げた跡があったり。
リリウムさんとマジャリスさんの装備にも、引き裂かれたような跡が多数。
……もしかしなくても強敵ですね?
「新しく見つけたダンジョンが、思いのほか難易度が高くてな……」
「別に進めないっちゅう程じゃないんじゃが、今までとは明らかにレベルが違う」
「その点珍しい素材や食材を手に入れられているから、実入りもいいわけだが……」
「当たり前に倭種が出てくるようなダンジョンなんて、初めてですわ」
あー……なんだっけ、倭種。
――思い出した、カエルの魔物でジライヤって発言した時に言われた奴だ。
……待てよ? てことは倭種なら俺にも魔物の種族名が伝わるのでは?
「馬頭や牛頭っていました?」
「いた。と言うか、今の所ダンジョンで出会った魔物の大半がそれらだ」
「脂肪が少なく、さっぱりとした味わいの肉だった」
「美味しかったですわね。……ゆっくりとは食べられませんでしたけど」
「最初の階層のボスはツチノコだった」
「ツチノコ!!?」
なんだろう、知ってる生き物の名前が出てくるとテンション上がっちゃうね。
しかもボスだったんだ、ツチノコ。
あまりそんなイメージ無いんだけど。
「大きさは俺の腕くらいだったが、異常なほどに素早くてな。装備を溶かす毒液を吐いたり、ガブロが何度か噛まれたが、その度に解毒魔法をいくつもかけねばならぬほどの毒を注入してくる。……手ごわい相手だった」
「それなのに体力も多いんですの。あそこまで時間がかかった魔物は初めてではなくて?」
「倒した瞬間に土に還ったのも不服じゃわい。絶対そうはならない倒し方があるっちゅーことじゃ」
「食べてみたかったのだがガブロの言う通り、倒した直後に土になってしまった……」
しかも滅茶苦茶面倒そうな相手だし。
……電磁波、どくどく、高速移動、かみつく。
――害悪型かな? いや、かみつくよりどくづきとかの方が……。
どくどくの牙かも。
「すまない、カケル。今日は食事をカケルに任せても構わないだろうか?」
「あ、はい。と言うか、もうほぼほぼ出来ちゃってるので」
いつもよりも元気のないラベンドラさんに大丈夫ですと伝え、ホットプレートの電源ON。
温まるまでお待ちくださいね~。
「今日のメニューは?」
「焼き肉です」
ホットプレートが温まるまでにご飯大盛りをみなに提供。
あとはタレの取り皿と、焼けた肉を避難させる皿と……。
「こう、調味料などが並んでいる様子は心が躍るな」
「ですわね。これからどのような料理になるか楽しみですわ」
なんて言われましてもね? 焼き肉だから肉を焼くわけですけども。
それ以上でも以下でもないんだよなぁ。
「俺にお任せという事で、まずは牛タンから」
熱されたホットプレートに牛脂を転がし。
定番の牛タンから焼き肉スタート。
「音がいい」
「匂いもですわ」
「……待て、今タンと言ったか?」
「ですよ?」
「タンって、ベロじゃろ? 食えるんかい?」
「食えない部分を出すとお思いで?」
何となく思ってたけど、やっぱりタンを食う文化が無いのか。
タンシチューとか、べらぼうに美味いじゃんね。
「む、むぅ」
「そもそも食べられる場所だと認識していませんでしたけど……」
「はい、焼けましたよ。塩とレモンで召し上がれ」
そうこうしている内に牛タンの焼き上がり。
国産牛のタン元だし、いい値段したんだ。
絶対に期待に添う味だって。
「ラベンドラ……」
「い、いただくぞ」
なおほぼ毒見役としてラベンドラさんが最初に食べる模様。
レモンを絞り、塩を振り。
目をぎゅっと瞑って一口で。
そうして一噛み……二噛み……。
「うまい。……ウマイ!!」
最初は絞り出すように。
次に大声で。美味しいと意思表示すれば、待ってましたと他の三人も食べ始める。
「独特の食感ですけれど、とても柔らかいのですわね!!」
「プリっとした食感がたまらんのう!!」
「脂が美味い。噛むほどに溢れてくる」
ま、大好評ってわけ。
牛タンが不味いわけ無いんだ。分かったか異世界種族め。
「本当にタンなのか?」
「ですよ? あ、ただ、タン元と言って舌の根元の部位を焼いてます。そこが一番柔らかいので」
あと一番高かったから。
なんと言うか、この四人には変なものを食べさせたくない。
ウニとかナマコとかって話じゃあなく、品質的にって意味。
折角美味しそうに食べてくれるのに、品質が悪くて楽しめなかったら申し訳ないしね。
「舌の……根元か」
「シチューとかに入れても美味しいですよ? 煮込む場合は先端とかの固い部分も美味しく食べられるでしょうし」
「なるほど……」
と言うわけで皆に追加で牛タンを焼いてる間に俺もいただこう。
……自宅焼肉で初めて国産牛のタン元とか焼くかもしれない。
よーく味わいましょ。
レモン汁、塩にブラックペッパーを少々。
……いざ!
「むほほほ」
いつぞやのガブロさんみたいな声出た。
これ美味いね。流石国産。
一瞬感じるタン特有の固い食感は、歯が触れた後秒で抵抗をしなくなり。
柔らかい食感に変わった瞬間脂と肉汁がジュワッと出てくる。
そこでかけたレモン汁の香りが脂の匂いをサッパリと消し。
肉のうま味と塩のうま味が手を取り合って押し寄せてくる。
ブラックペッパーの香りが鼻を抜ける頃には、噛んでた肉は溶けてなくなっちまってるってわけ。
やっぱ高い肉は高い理由があるわけだ。
美味すぎる。
で、僕はここに追い白米。
口の中に残った肉のうま味でご飯が進む……!
「なんか、元気出てきましたわね」
「だな。カケル、これらは私たちが焼いても構わないか?」
「どうぞどうぞ」
で、牛タン一切れで回復したらしい四人が、それぞれ自分で焼きたい物を焼き始めた。
って、ちょっと待て。
「ストップ!! 生肉触る箸は自分のじゃなくてこのお箸でお願いします!」
自分で食う用の箸で肉焼こうとしてたから思わず止めちゃったよ。
焼き肉で肉焼く用の箸と食べる用の箸は分ける。常識よ。
「む、となると誰か一人に肉を焼くのを任せるか」
「? 自分で魔法で動かせばよろしいのですわ。焼く用の箸はガブロにお渡しなさい」
「……魔法ってやっぱズルい」
この人達には関係なさそうだわ。




