あれは今から36万……
「いくらとウニ、そこにキュウリを巻いたのが至高だ」
マジャリスさんの結論手巻き寿司がどうやら決まったらしい。
ウニといくらね。実際その組み合わせは人気だよね。
テレビとかで北海道の市場とかが紹介されると、大体リポーターの人が食べてる印象。
他にもカニいくら丼とか、ウニカニ丼とかね。
「何を言うか。究極は大トロとカイワレの手巻き寿司じゃわい」
それに対するはガブロさん。
……二人は知らないだろうけど同じ料理で究極と至高ってなったらもうあれしか思い浮かばんのよ。
二人が親子とか実はない? ……ないか。
「待て。大トロは脂が多くくどくなり過ぎる。味のバランスや脂を考えると赤身の方が美味い」
そこに参戦するのはラベンドラさん。
マグロの赤身とキュウリを巻きながらの登場。
う~ん……俺もどちらかと言うと赤身派だなぁ。
大トロはどうしても量を食えないよね。脂が凄くて。
「特に赤身に塩を振って食べてみろ。より旨味が強く感じられて最高だ」
しかもラベンドラさん、もう自分の食べ方を見つけてるんだよね。
マグロに塩。最初に塩はないか? と聞かれた時は、塩でも美味しいだろうけど……って感じだったけどさ。
美味しそうに食べてる姿見て、興味本位で試してみたのよ。
そしたら、マグロのねっとりとしたうま味がさ、塩味で引き出されて、それがしかも長く続くの。
一緒に巻いたキュウリとも合うし、海苔のパリッ、キュウリのシャクッ、って食感と相まって、さっぱりなのに味は濃厚。
新しい知見を得た、と一人テンション上がったもん。
今度回転寿司とか食べる時、塩で食べるんだ、って。
「はぁ……この世界のものが美味しいのは当然ですわ。それならば、向こうでは味わえない繊細な味を楽しむのが真なのではなくて?」
で、リリウムさんはと言うと。
鯛をカイワレと巻いて、何も付けずに食べておられる。
なんでも、鯛の繊細な味が大層気に入ったと。
鯛の手巻き寿司を食べ、みそ汁を飲み、茶で喉を潤し。
また鯛の手巻き寿司へ。
そのループが、しばらく続いていたりする。
「一理ある。……だが、このマグロに似た味の魔物はあまりイメージが――」
「マグロなら『クリムゾンサラマンダー』の肉がよく似た味のはずですわ」
「ならばウニは?」
「……炎湖に生えている苔が類似した味ですわね」
「そいじゃあいくらはどうなんじゃい?」
「『ジェノサイドキングサーモン』の卵と非常に近しいかと」
うん? なんだか某カードゲームを知ってる人からすると馴染みのある名前が聞こえた気がするぞ?
攻撃力2400、守備力1000の鮭だな?
あと、リリウムさん食材に詳しいな。
今までは美味しいですわ~BOTと化していたのに。
「急にどうした? 今までは材料を知ってはいても、こうして教えてはくれなかったはずだが?」
あ、やっぱりラベンドラさんも疑問を抱いてる。
「別に? ただの気まぐれですわ。決して向こうの世界でも手巻き寿司が食べたいとか、早く再現して欲しいとかそういうわけではありませんわ」
食べたいんだな。……早く再現して欲しいんだな。
急にツンデレみたいな事言うじゃん。どしたん? 話し聞こか?
エルフのツンデレは別に需要あるからいいとは思うけど、それは最初っからキャラがぶれない時だ。
今のリリウムさんは急にキャラがぶれだしたみたいなところあるからな。
何か変な意味がなければいいけど。
「ああ、そういう事か」
どういうことだ!?
何か知ってるのかラベンドラ!?
「過去に滅びた宮廷の味を思い出したか」
「ち、違いますわよ!!」
ははーん。そういう事ね。
エルフは長寿。その寿命が尽きるより前に、国が亡びる事だってある。
リリウムさんは、既に滅びた国で食べた料理の味にでも思いを馳せてたって事か。
乙女か? 可愛い所あるじゃん。
「その国の領土で採れる炎湖の苔を食べつくしてしまいまして。……新たな炎湖の苔を求めて国が戦争をけしかけ、負けて滅んだだけですわ」
前言撤回。
可愛くねぇ。
というか、自分のわがままで国滅ぼしてるじゃん。
その国の規模とか知らんけど、何人犠牲になったんや……。
「それ以来食べていませんでしたので、ついつい口を出してしまいましたわ」
返せ! 俺がしんみりとした空気を返せ!!
ったく、心配して損したぜ。
「大体、その国も王が私腹を肥やして無ければ貿易でどうにでもなっていたでしょうに」
……どうしよう。
お前が言うな感が凄い。
私腹を肥やしてた国王と、その国に住み着いて腹を満たしてたリリウムさん。
……脳内裁判、どちらが悪い?
――判決! 当時の事解らんから今生きてるリリウムさんの勝ち。
……ていう事にしとかないと色々と怖い気がする。
「にしても、この白身魚の美味しさは素晴らしいですわ。上品な風味に程よいうま味。強い主張はせずとも確実にそこにあるという存在感。海苔の風味を邪魔することも、キュウリの歯ごたえに割って入ることもありませんの」
「どの材料にも言えるが、この酸味の付いた飯との相性が抜群だ」
「これが人気な料理というのも頷けるわい」
「食材の鮮度だけは要注意だがな。これだけは元の世界でも再現出来る気がしない」
まぁ、生魚の扱いについては日本が間違いなく世界一位でしょうよ。
活〆や野締め、神経締めとかまであるんだもんよ。
魚の鮮度=命みたいな考え方、嫌いじゃないし大好きだよ。
「……こちらの食材を大変ご馳走になった」
「どれもこれも目を見張る美味さじゃったわい」
「考えたが、次の材料はこの魚たちに負けないようなものにするべきだと思う」
「あら、いい事言いますわね。では、大物を狩ってくるとしましょう」
なんてクソほど不穏な事を言いながら、四人は魔法陣へと入っていった。
なお、お持ち帰りのお土産は、動画と俺の指導の下にラベンドラさんが握った握り寿司と軍艦巻き。
残った材料全部をそれぞれやってもらった。
……少し、残して貰えばよかったかなぁ。




